《現人神の導べ》42 第4番世界 さらば奴隷商

勇者一行が道を歩む中、一定距離を保ってついてくる馬車。

普通ならこれは分かりづらい方法だ。

褒められた方法ではないが、戦える者ぼうけんしゃの後を付いて行き、払いさせる。所謂寄生である。勿論護衛依頼ではないので報酬はない。

あくまで戦える者が、自分のを護るために戦っただけだ。馬車の方は守ってとは一言も言っていない。

それに魔に襲われている人を見れば、大の人が助けたくなるだろう。見捨てたら夢に出てきそうだし。

「でもそれってさ、ギルドに喧嘩売ってない?」

「うむ、普通はやらん。護衛を雇う金をケチって寄生するような奴は好かれん。ちゃんと護衛を雇ってる同業者にも、冒険者ギルドにも喧嘩売っているようなものだからな」

「いくら荷馬車でも徒歩の俺らよりは速いはずだもんなー」

し休憩でもする? 向こうも止まったら確定ってことで」

「それなりに歩いたし、休憩しようか」

道からしだけズレ、休憩を始める勇者達。

空間収納からコップを出し、《生活魔法》で水をれて飲む。

「やっぱ《生活魔法》の水って味しいよな?」

「"ウォーター"って実はかなり凄い。者のに合わせてある程度分が変わるからな。味しいと思うのは當然さ」

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「まじか……」

「飲水や料理に使う水は"ウォーター"一択だ。に悪い不純は一切ってない」

「消費は無いようなもんだし、もっと使ってこ。……向こうも止まったっぽいか」

「止まったな。……ちなみにある程度なら出す時に溫度も弄れる。冷たい暖かい常溫の3択だがな」

「『マジで』」

「あれ、お前ら知らなかったの?」

「え、お前知ってたの?」

「冷たいの飲みてぇなーって思いながらやったら冷たかったからな」

「おま、言えよぉ! ずっと常溫で飲んでたわ!」

「マジだ、冷たい。うめぇ」

"ウォーター"のように、地味に調整が効く魔法もある。

思いついたのは試せ。ダメなら諦めろである。

「で、どうするよ?」

「……何でお前食ってんだ」

「小腹空いたから」

「……まあ、いいか。お晝まだそうだし、行くか?」

勇者の1人がお天道様の位置を確認しながら言ったことに他も同意し、勇者達が決めた事なのでシュテル組は何も言わずに出発する。

付いて來る馬車を後ろに、スタスタと歩く勇者一行。

「歩いてるとお腹空くなぁ」

「こっちに來てから健康的な生活してる気がする」

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「明るくなったら起きて、かして暗くなったら寢る。うん、実に健康的だ」

「そう言えば、すっかり痩せたなぁ……健康的な痩せ方。日焼け止めクリームが無かったら即死だった……」

自分の橫っ腹をムニムニしながらしみじみと呟く宮武であった……。

栄養失調ではなく、運によって程よく引き締まっている。ムキムキにはなりたくないなぁ……と思いつつも、命には変えられないか……とか思っていた。

お天道様が真上に上り、お晝の時間になったのでシュテルは勇者達を止める。

「さて、晝にするか」

「『おー』」

道から橫にずれ、準備を始める。

その際勇者達はそれぞれ塩が刷り込まれ、天日干しされた……ジャーキーを取り出し齧りながら水を飲む。

ジャーキーという塩分を摂りながら、"ウォーター"で出した水を飲みつつお晝の準備をする。モグモグしながらゴクゴクして水分補給。噴き出した汗は"ピュリファイ"でおさらばすればいいので、宮武なども特に汗は気にしない。

「《生活魔法》の無い生活にはもう戻れない……」

「いやぁ、ホント便利だわ」

話しながらも手は進み、パーティーごとに鍋を用意する。

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「ああ、そうだ。お前達にこれをやろう」

『なんだなんだ』とやって來た勇者達に小さい長方形の箱を1個ずつ渡す。

「何の魔道?」

「中にコンソメスープの元が3ブロックってる。目安は4人前1ブロックだが、まあ好みで調整しろ」

「『おぉー!』」

「味付けは早速使うとして、はっと……」

「よし、今回はサイコロステーキにしよう」

ウルフのやらが"ストレージ"に生の狀態で沢山あるので、だけは贅沢に使えるのだ。勿論野菜もっているが、と違って現地調達ができないので、一度で使う量は決めている。

の匂いでバレるなら、そもそも人の匂いでバレるのでその辺りは気にもしていない。ブロックを一口サイズに切って豪快に焼く清家であった。

「コンソメうめぇ!」

「今日からこれだな」

「流石に塩だけはなぁ」

「これなら毎食でもまあ、許せる」

もぐもぐ食べ進めていると清家の耳がピクピクしだす。

「……何かいる」

「……どこだ?」

「左右」

「そこそこ距離あるな」

「さっさと食っちまおう」

話しながらもモグモグしつつ、食べ終わった者はさっさと周りの片づけ。

それも終わったら武の確認をしていた。

「そう言えばこの剣って普通の鋼の剣なのか?」

「いや、ミスリルが混ぜられた合金だ。普通に良いだぞ」

「へー……お金もそれなりの額だったし、太っ腹!」

蹴落とした貴族達から巻き上げた資金で、王家としては痛くもくもないからな。

「遂に盜賊かな……? 魔にしてはおかしい……」

「盜賊デビューかぁ……」

「……それ意味変わらね? 俺らが盜賊になりそう」

「……來た!」

「……あぶねぇコノヤロ!」

両サイドからぞろぞろ野郎共が出てきたと思ったら、いきなり弓による攻撃である。完全に殺しに來ていた。

「おうガキ共、降參する気はあるか?」

「……"エクスプロージョン"」

「ぐあああああ!」

「このクソガキ!」

「自分達から弓撃って來といて何言ってんだこいつら?」

「盜賊が普通の知能してるわけ無いだろ。考えるだけ無駄だ」

ニヤニヤしながら近づいてきたガタイのいいおっさんが話しかけて來たが、容赦のない宮武の"エクスプロージョン"が炸裂。それにより片側が半數は持ってかれる。

勇者達より倍ぐらいの人數で、ニヤニヤと余裕そうだった表が一気に変わり、戦闘にもつれ込む。

「野郎は殺せ! 用があるのはその獣人と後ろの姉ちゃん達だけだからな! ぶちかましてくれたガキは泣かせてやる!」

「皮も爪も牙も使えずすら食えないゴブリン以下の魔だ。気兼ねなく殺せ」

魔法も使えるが魔である。

知能やモラル、良心のない人間は魔と変わらんだろう。

「『な、何だこいつら! つえぇぞ!』」

「『何だこいつら? よえーぞ』」

「そりゃぁ、お前達勇者は実力的にA近いからな」

「なんか良心痛まないし、殺っちまおう」

「ゆ、ユニエールさん椅子から立ってすらないし……」

「勝つことが確定してるのだから娯楽以外の何でもないぞ」

「くそがっ!」

盜賊達が姿を見せた頃から近づいて來ていた後ろの馬車。

左右からの挾み撃ちの最中に後ろからも奇襲……と考えていたようだが、この有様である。

そもそも後ろから來るという事は……。

『切り捨てなさい』

馬車から出てきた奴らは、のんびり戦闘を見ていたシュテル達を背後から取り押さえようとするが……振り向きざまにエルザとイザベルに2人切り捨てられる。

「なっ!」

「気づいていないとでも?」

「嘗められたものです」

そのまま殘りの4人が切り捨てられ、あっという間に勇者達の方も片付き、殘ったのは馬車にいる者と親玉のみ。

「『ううーん……』」

「思ったより神ダメージが無くてびっくりか?」

「うん……何ていうかこう、魔倒した時と変わらないと言うか……」

「そりゃあ、違いなんて見た目ぐらいだからな。賞金首なら金になるのだが、ならないとゴブリン以下だな。素材にならん、も食えん、魔石も生しない。そのくせ悪知恵が働くから面倒だ。全くもって価値がない……さて、後2匹を片付けて先に行くぞ」

その時、中から小太りの男が降りてきた。

「……なんと! これはこれは……是非とも護衛として雇いたいものですね……」

「エルザ」

指示を出すと何されるのか分かったのか、余裕だった表が急激に変わり、命乞いを始めた。

「ま、待ってくれ! かね、金ならある! い、いくらしい!?」

「奇遇だな。妾も金ならある。そもそも貴様らのような奴隷商を生かす理由がない。殺れ」

「まっ……ぐっ……」

エルザにざっくりと貫かれ、崩れ落ちる親玉。ついでに者も片付ける。

その間勇者達は……。

「んー……持ち回収して焼卻して埋め?」

「裝備しょぼくて金にならなそうだぞ?」

「金屬の武と……金だけあれば十分か」

「他人の防をそもそもしいとは思わん……」

「確かに……じゃあ武と所持金だな」

処理に付いて話していたが、シュテルがそれに待ったをかける。

と所持金の回収は問題ないが、その後の処理はやると。

空間収納に回収が終わった後、こいつらの大元……奴隷商を魔法で半分ぐらい吹き飛ばし、こいつらの死を土地にばら撒いて捨てる。

當然シュテルは能力を使用したので、魔力反応とかは一切ない。

突然家が半分ぐらい吹き飛び、ここにいるはずのない見知った死が転がっているのだ。怯えて過ごす事だろう。

殘った馬車は奴隷商の馬車だ。中が檻の正直使いたいとは思わないなので、馬を外し、檻はインゴットへと変え、他は焼き払う。

「ちょっと馬だけ売ってくるわ。それなりの値になるし。戻ったら出発」

「『はーい』」

馬と転移し売っ払い、さっさと出発する。

「逆にダメージが無いことがショック」

「分かる。普通に人殺せた自分にびっくり」

「……ユニエールさんってどうだった?」

「どう考えても聞く相手を間違えてるぞ。妾からすれば人が何千何萬匹死のうがなんとも思わんからなぁ。お前達からすれば同族だが、妾からは違うからな」

「セラフィーナさんは……エルフだからあれか。ヒルデさんとかは?」

「うーん……我々もお役に立てないでしょうねぇ……」

「ヒルデ達は王家や國に仕えるものだったからな。敵は切り捨てるだ」

「はい。それに実力者の國でしたから、使えない者は切り捨てる。そうしないと國が死ぬのですよ」

「國のためならすら切り捨てる者達だったからな。お前達の參考にはならん」

「そもそも我々が剣を持っている時點で、ろくな狀況ではないですからね」

「近衛と王族のメイドさんだったっけ……むむむ」

「悩む云々の前に、いたからなぁ」

「死んだら悩むことすらできんのだから、今みたいに終わった後悩んでれば良いじゃないか? まあ、妾が人だった場合でも普通に殺すけどな。言葉の暴力に暴力で返して何が悪いって思ってるから」

口が達者な者と言語が得意な者がいるとする。

口が達者な者が言語が得意な者を煽ったとする。口が達者だから口で攻撃した訳で、言語が得意なら言語で反撃するのは至って普通の事だろう。

わざわざ敵と同じ土俵に立つ必要がない。スポーツじゃないのだから。

そもそも、仲が良い友達なら煽っても毆りはしないだろ。じゃれつくぐらいだ。

つまり毆られる程度の相手を煽ったというバカだっただけだ。

所構わず毆りかかる危険人ならまだしも、その相手に毆るという行をとらせる引き金を引いたのが煽るという行為だ。原因を作ったのが悪いに決まってるだろ。

危険人を煽ったならでそれはそれでバカなのだが。

煽った本人が攻撃のつもりが無くても、向こうがそう取った時點でそうなのだ。

どう言い訳しようが向こうからすればそうなのだから関係ない。

『冗談』は『冗談が言える関係』になってからほざけ。そうでないのなら『攻撃』でしかない。例え拳という『反撃』が來ても自業自得だ。

「妾にとって最強とは武力だと思っている。歴史は勝者が書き、伝えるのだ。例え権力があろうと、財力があろうと死んだら全て終わりだ。殺されることはないという前提があって、権力や財力が生きる。死人は喋らんのだ」

「相手の都合で殺しに來た者を、返り討ちにしたところでなんとも思いませんからね。侵略と防衛では同じ殺しでも全く違います。何に悩むというのです?」

「世界が違えば常識……考え方は変わる。そして間違いなくこの世界はこちら側の考えが常識となるだろう。ムカつく相手は殺して行けと言っている訳じゃない。それでは狂人だ。だが自分を護ることを、知り合いを護ることに迷いは捨てろ」

「そうですよ。相手の代わりに奪われてやる必要はありません」

歩きながら考える勇者達だが、ふと清家が気になったことを口に出す。

「そう言えば、商人は商人でも奴隷商だったの?」

「そうだな。珍しい白い狐獣人と見た目の良い我々を狙ったわけだな。大半が子供だし簡単だと思ったんだろう」

「中は化なのにね」

「化とは失禮な。実に淑しているではないか」

「『淑……?』」

「なにか?」

「『いえ』」

「……よろしい」

「淑とはレディの事を言うのですよユニ様」

「…………」

「容赦のない的確なツッコミが……」

「おい的確って言うな。喋らなきゃ淑してるだろうが!」

「『喋ったらダメだという自覚が……』」

「400年も同じキャラでは飽きませんか?」

「……ふむ? 一理ある」

「『あるの!?』」

騒ぎながら次の街に向かって歩いていった。

……既に奴隷商の事なんか頭に殘っていなかった。

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