《悪魔の証明 R2》第158話 093 アカギ・エフ・セイレイ(1)
到著したのは新市街中心部にあるラインハルト社私設警察本部だった。
パトカーから降りると、僕とクレアスの柄はすぐに私設警察のスーツを著た男に引き渡された。
「規則ですので」
そう言って男は分証を提示してから、自らをエリオット・デーモンと名乗った。
「ああ、俺も……」
クレアスは言葉を返すと、彼も分証を見せる。
ふたりの分証の生年月日欄には同じ年が記載されていたので、クレアスとエリオットは同じ年齢であることがわかった。
ナスルたちの例もあったので知り合いかと尋ねたら、案の定クレアスはナスルたちと同じく彼を見たことがあるとのことだった。
だが、一方のエリオットは役職柄たくさんの人に會っているからと歯切れの悪い言葉を返してきた。
この様子から察するに、おそらくエリオットはクレアスのことを知らないのだろう。
彼の振る舞いを見た僕は、そう直した。
自己紹介を終えると、早速エリオットにより署へと僕たちは連れて行かれた。
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ナスルたちとはここでお別れだった。
まだやることがあるのか、彼らはエリオットにし聲をかけただけで、足早に去っていった。
もう彼らと會うことはないのだろう。
敷地外へと去っていく彼らの姿を見つめながら、なんとなくそう思った。
ひと息つく間もなく、僕たちふたりは取り調べ室にれられた。
擔當する警察は、先程と同じ男警察――エリオット・デーモンだった。
尋問といってもクレアスが同じ私設警察だったからか、ARKであると疑われることもなくやんわりと事の次第を訊かれるところから尋問は始まった。
もちろんクロミサやスピキオ手帳の件は除くが、僕は実際に起こったことを説明した。
その容は、もちろんほぼナスルたちに言ったことと同じだ。
尋問が始まった當初、取り調べは概ね順調に進んでいたのだが、話がエリシナやテロリストたちの元に差し掛かると大きな問題が発生した。
「エリシナ・アスハラという人は、ラインハルト社私設警察に在籍しておりません。スカイブリッジライナーの搭乗記録もない。あなた方がテロリストとして疑っていたフリッツ、シャノン、アルフレッドという者たちも同様で搭乗記録はありませんね。ですので、それについては結構です」
エリオットが驚くべきことを僕たちに告げた。
「そんな馬鹿な……」
僕は図らずも聲を震わせた。
「エリオット・デーモン。おまえはいったい何を言っているんだ?」
クレアスもそう言って、エリオットの方へと詰め寄った。
エリオットがその後述べたことは、したがってエリシナやフリッツたちはこのテロの実行者としてはカウントされず、搭乗自の事実がないのだからマスコミに公表しないどころか家族にさえそれを連絡しないという恐るべき容だった。
「エリシナを何だと思っているんだ」
クレアスが語気を荒げながら、憤怒冷めやらぬ言葉を吐く。
搭乗記録だけならまだしも、エリシナがラインハルト社私設警察に所屬していた痕跡が抹消されるというのだ。
これはテロリストでなかった時期の彼をすべて否定するもので、到底納得がいくものではなかったのだろう。
「もちろん、セネタル・スワノフスキーさんは殉職扱いになりますので、ご心配なさらずに」
エリオットは、何事もなかったかのように話を進める。
「そんなことを訊いてるんじゃない」
クレアスは再び激しく憤った聲をらしながら、エリオットのぐらを摑んだ。
だが、エリオットの口から、事実ですから、という言葉がすぐに零れてくる。
「もう何人も犠牲になっているのです、クレアスさん。あなたも私設警察だからわかるでしょう。皆同じですよ」
「同じ……だと?」
「例えスカイブリッジライナーに搭乗したことや私設警察に在籍していたことがカウントされていたとしても、何も変わりはしません。ニュースで被害者の名前は流れるかもしれませんが、一日も経てばその被害者はもちろんのことテロに関係した人間のことなど全員忘れてしまうのです。それはあなた方も同じでは? あなた方も今までに発生したテロに誰が関わっていたかなど覚えていないでしょう。もちろん、かくいう私も同じです」
エリオットが揚げ足を取るかのような臺詞を述べる。
最終的に、クレアスの手を強く振り払って、これ以上暴を働くのであれば規則に則り留置場にれなければならないと忠告してきた。
「規則は規則ですので、ご注意ください。ですが、生存者があなた方のような反応をされることは毎回のことですので、私としてもこれ以上事を荒立てるつもりはありません」
と続け、その場をおさめた。
結局エリシナの件はうやむやにされたまま、最後にテロがARKによって行われたという事実を確認した後、短い取り調べは終わった。
エリオットは最後に、
「申し訳ございません、クレアスさん。ですが、やはりこれは規則なので」
と、特に表を変えず謝ってきた。
こいつは結局いつ何をしても規則やルールで済ます男なのだ。
八つ當たりも良いところなのはわかっているが、そう中で毒を吐き、腹立ち紛れにを噛んだ。
その後、特に拘留されるわけでもなく、僕たちふたりはラインハルト社私設警察署を後にした。
まるで、ベルトコンベアで流されるかのように、すべてを処理されてしまったような覚に陥りそうになった。次の日には僕を恐怖のどん底に叩き込んだテロ事件は風化し、自分たちの顔や存在は誰からも忘れ去られるに違いないという気さえした。
それを証明するかのように、最後まで私設警察に住所や連絡先を確認されることはなかった。
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