《悪魔の証明 R2》第159話 093 アカギ・エフ・セイレイ(2)

私設警察本部のエントランス橫から外に出ると、目に飛び込んできたのは広々としたロータリーだった。

し先にあったタクシー乗り場へ向かう。

途中、既に住む家がないことを知っていたクレアスに、自分の家に來るかとわれた。

迷ったが、ここはひとまず斷ることにした。

スピキオが住んでいた家を、ひと目見たかったことがその主な理由だった。

幸いとってはなんだが、彼に家族がいないことは彼から聞いた話で知っており、さらにそれを裏付けるかのような報が手帳にも書かれていた。

自分の職業柄、スピキオは家族を持つ気はなく友人も一部を除き遠ざけるよう生活していた節がその記述からはうかがえた。

また、彼の住所は國際共通分証明証に記載されていて、家の鍵は六號車から持ってきたスピキオの鞄にある。

このことからスピキオの家に寄っても迷をかけない可能が高く、列車の中で彼の家に行けば彼のことをより深く知れるのではないかという思いが強くなったこともあり、しお邪魔させてもらうことにした。

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もちろん條件が許せば、そのまましばらく滯在させてもらうつもりだ。

この話を僕から聞いたクレアスは、そうかと頷くだけで特に反対することもなかった。

そのまま道路にを向けてタクシーを呼び止め、後ほど連絡することを約束してから彼は車両に乗り込んだ。

このとき、クレアスと約束した容は、ただ単に連絡を取り合うことだけではなかった。

テロの黒幕への復讐、當然かのようにその言葉も含まれていた。

そして、國道へと去って行くタクシーを見屆けた僕が、駅へとを向けた時だった。

目の前に、いつの間にかいなくなっていたクロミサが現れた。

プラットホームに降り立った後、どこへ行ったのかと思っていたが、どうやら外で待っていたようだ。

「今までどうしていたんだ?」

駅構を歩きながら、抱いた疑問をそのまま口にした。

「ふたりが私設警察に連れて行かれそうになった時、ついて行こうかと考えたのだけれど、窮屈なところはごめんだしね。まかり間違って獨房にってしまったらしばらく出られないかもしれないじゃない」

クロミサはそう答えると、ペロっと舌を出す。

「だから、僕たちが出てくるのを待つことにしたのか?」

半ば呆れながら、尋ねた。

若干大きな聲を出してしまったが、エスカレーターを上がった先にあったプラットホームは人はまばらで、僕たちの近くに誰もいなかった。それを鑑みると、彼と話していても不自然に思う者はいないと判斷しても良いだろう。

「私設警察がどこにあるかわからなかったから、ここに來るまで迷っちゃったけれどね」

クロミサが、そう言葉を返してくる。

「これからどうするつもりなんだ?」

僕は彼の予定を確認した。

すると、彼も行くあてがないので僕についていきたいと頼み込んできた。

殘存思念と行を共にするのは妙な気分だったが、特段問題ないのでクロミサの申し出をれることにした。

そうと決まれば話が早いとばかりに、僕たちは早速到著したばかりの電車に乗り込み舊市街にあるスピキオ宅へと向かった。

鍵を開けスピキオの部屋にった僕は、まず照明のスイッチを押して部屋の電気をつけた。

最初に目にったのは、部屋の中央に置かれた紺のソファーだった。

早速僕を押しのけて、クロミサは中へとりソファーへと飛び乗る。

やれやれとため息を吐いてから、玄関で靴をぎ、僕もリビングへと足を踏みれた。

図々しいのか慣れ親しんだじでソファーの上ではしゃいでいるクロミサを無視して、窓の橫のデスクに置かれているデスクトップパソコンへと向かう。

デスクに到著するとスピキオの鞄を床においてから、僕はその近くにあった椅子に座り込んだ。

おもむろにパソコンの電源をれた。

PCタワーが薄い音を立てて起したかと思うと、すぐに晶の中にデスクトップ畫面が影寫された。

パスワードは特段かかっていないようだった。

右手にあったマウスを握り込み、デスクトップ上のフォルダを開く。その中にあったトゥルーマン教団の資料とみられるファイル數十點が目にった。

その中にあるファイルのひとつをクリックすると、白い仮面の男たちが映ったイメージファイルが現れた。

ファイル下のラベルには、トゥルーマン教団青年活部と書かれていた。

「トゥルーマン教団青年活部――」

その単語にインスピレーションをけた僕は、すぐにスピキオの仮面を思い出した。

先程床に置いた鞄を開けて、その白い仮面を手に持った。

仮面を被ってから前に視線を向ける。

晶のデスクトップ畫面に反し、そのデスマスクが薄く映り込んだ。

これなら、青年活部に見えないこともないか。

僕がそう何となく思った矢先のことだった。

「何その仮面?」

ソファーで寢そべっているクロミサが、甲高い聲で尋ねてきた。

「これスピキオさんのだよ。知らないの?」

僕はきょとんとして訊き返した。

スピキオをストーカーしていたクロミサが、この仮面の存在を知らないことがし不思議だった。

「だって、スピキオなんて人ほとんど知らないもの。あの列車で見たのが初めて」

クロミサが想像もしなかった文言を述べる。

「え、スピキオさんをストーカーしてたんじゃないのか?」

すぐに確認した。

「ストーカー? 失禮ね。知らない人をストーカーするわけないでしょ」

不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、クロミサがそう言葉を返してくる。

「だって、海に向かってスピキオさんに文句を言ってたじゃないか」

「スピキオ? 違うわ。あれはブランドンに対してよ。テロリストの。ほら、クレアスに殺されたやつ。あいつ嫌なやつでさ――」

それを聞いて怪訝な目をした僕を目に、クロミサはそれから小一時間程ブランドンの文句を散々並べたてた。

要約すると、そのブランドンという男が自分の存在を認識してビビりまくり完全に自分を無視したとのことで、それに腹立たしくなったクロミサはロサンゼルスまでついていってブランドンを常に脅かしてやろうと考えたらしい。

何て勝手なやつだとか、やはりストーカーだったのかと思いはしたが、話を聞く限りクロミサがスピキオの知り合いではないことは事実のようだった。

「ところでさ、アカギ。あなたのフルネームはなんていうの? あなたの名前、アカギとしか知らないから」

ブランドンの話を終えたクロミサが、突然僕の名を尋ねてきた。

アカギ・エフ――と自分の本名が元まで出かかる。

だが、すぐに首を橫に振った。

白い仮面に手を當て、顔の方へと持っていく。し額からズレたので、手でその位置を調整した。

それから、変聲を通して仮面の奧から曇った聲を発生させ、意を決した臺詞をクロミサに告げる。

「クロミサ、今日から僕の名前はアカギじゃない。トゥルーマン教団を破滅させるまでは……それまでは僕の――私の名前はスピキオだ。そう、今きみの目に映っている者の名は紛れもなくスピキオ・カルタゴス・バルカだ。そして、クロミサ。今後について、ひとつだけ頼みたいことがある」

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