《悪魔の証明 R2》第160話 094 スピキオ・カルタゴス・バルカ(1)

そして、十年の月日が経った――

トゥルーマンが、ラインハルトグループトウキョウ支社ビル最上階社長室でミハイルやクレアスに語ったように、長年デフレスパイラルに陥いっていた日本は、不況であることには相違ないが、現在外的な要因により決して低くないインフレへと移行しつつあった。

すなわちそれは、この國にスタグフレーションという名の変革が起こり始めているということだ。

そして、今また違う意味での新たな変革が、私の目の前で行われようとしている。

トゥルーマン自の死、つまり教祖の死という変革が。

仮面を再び裝著する。

し頬からズレていたので、その位置を微妙に直した。

視線の先にいるトゥルーマンはまだ口から舌を徐々に出し始めている段階で、死ぬまではもうし時間がかかりそうだ。

死の恐怖から逃れようと最後にブラフをかましてきたようだが、それが完全な噓であることを私は既に見抜いていた。

それは何もトゥルーマンがIT的なことには疎いからといった曖昧な拠からくるものではない。

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現在、トゥルーマン寺院のシステムや教団技者たちの行範囲はすべて私の支配下にあると述べても過言ではなく、今朝もトゥルーマンがクレアスや私にまつわる報をデータベースから引き出した痕跡はひとつもないとの報告があったばかり。

つまり、何も報を持っていない彼が青年活部に指示を送ることなどできるはずもないということだ。

また、例えトゥルーマンが述べたことが萬一真実であっても何の問題もない。

トゥルーマン教団のデータベースにあるクレアスの寫真は、既にすべて本のスピキオに上書きされており、元の割れていないクレアスと私がその後追跡される可能は皆無だ。

それは、青年活部の連中が永遠にもうこの世には存在しない教祖の暗殺者――いつまでも見えることのない亡霊となったスピキオを追いかけることを意味している。

仮面を始めて被った十年前のあの日、大雑把ながらトゥルーマン教団殲滅計畫が脳裏に浮かんだ。

その計畫とは、教団で然るべき地位につき、トゥルーマンに近づいてから教団を部崩壊へ導くことだった。

翌日には復讐を誓い合ったクレアスにそれを打ち明け、徐々にその詳細を彼と詰めていった。

クレアスがトゥルーマン教団への潛を開始する前には、私とクレアスがふたりひと役でスピキオを演じることは決まっていた。

それが可能になった理由は、テロ事件後半年程で、私の長が急速にびたことが大きい。

クレアスと同じくらいの長になったことで、冗談まじりに仮面を互につけてカメラで撮り合いできた寫真を見比べてみると、驚いたことに、寫真の中の私たちふたりの立ち姿は髪型以外見分けがつかないくらいよく似ていた。

これを何か教団殲滅計畫に利用できないかと考え始めるのに、そう時間はかからなかった。そして、私がスピキオ・カルタゴス・バルカとして生活していたこともあり、私とクレアスでスピキオを演じることを思いつき、すぐにスピキオが昔していたというドレッドヘアに近いタイプのウイッグふたつとスピキオの仮面をもうひとつ用意した。

それから計畫が煮詰まった頃、その計畫に沿いクレアスは、トゥルーマン教団への潛を開始した。

もちろん団時にはスピキオを名乗るわけにはいかず、仮面を使うようなこともしなかった。

したがって、トゥルーマン教団に登録した際の名前は、もちろん本名のクレアス・スタンフィールドで、さらにその他の報もすべてクレアスのものだった。

私と同じくクレアスが偽名スピキオ・カルタゴス・バルカを名乗り、仮面とドレッドのウイッグを被るようになったのは、信者となってしばらくした後、ちょうど青年活部に所屬したタイミングだった。

無論、この時點でも引き続きデータベースの報は、クレアスのものであったことは語るまでもない。

のスピキオと同姓同名の偽名を使っても、まったく問題にならないことはその頃には判明していた。

実は、かのスピキオさんはトゥルーマン教団の末端構員だったのだ。

よくそのような立場でここまで調べたものだと、それを知ったとき素直に思った。

あのような立場の人間が、當時新進気鋭の上院議員であったワーグナーとのパイプがあるなど誰も思わない。

無論萬どころではない人數がいる組織の中で、このような分の低い男の名前を語っても、教団からお咎めがないどころか、誰にも認識されることはなかった。

スピキオを二人で演じるメリットは、大きく分けてふたつあった。

ひとつは、れ替わりによってお互いの労力が削れるという點。もうひとつは、通常ひとりでしかできない行をふたり別々の場所で行えるということだった。

クレアスは主にトゥルーマン教団での政治活や騙す対象の報収集を行う役割。私はクロミサを使って人前で奇跡を起こし信者を勧したり対象を騙したりして手柄を立てる役割。

クレアスの社と、私の能力――ひいてはクロミサの能力、この両けば「スピキオ・カルタゴス・バルカ」が教団で出世することは造作もないことだった。

事実クレアスがスピキオと名乗った後、クレアスは急速にトゥルーマン教団での階級を上げていった。

無論、私がクロミサを使って裏でき勧の業績を上げていたからというのもあるのだが、やはりクレアスの人柄がそのもっとも大きな要因であると私は見積もっていた。

それは今でも変わらず、もしクレアスの代わりに私が潛していたとしたら、トゥルーマンに気に留められることは絶対になかったであろうとさえ思っている。

私が教団に擬似貢獻するため引きれた信者については、自業自得だとして割り切ることにしていた。

信じる、信じないは別として、超常現象を自分の利益のためだけに利用する。見えないものを見ようとするその神経が、まずもって同に値しない。

そのような見えないものが、なぜ自分や自分の家族だけを救ってくれると考えられるのか。

例え、彼らにそんなものが見えていたとしても、クロミサのように人を騙すか人を殺すことくらいにしか役に立たない。

つまり、誰も幸せにならないということだ。

一方のクレアスはトゥルーマンの右腕となってからというもの、折りを見て私が勧した彼ら――信者たちに金を返済し、彼らを破門にして通常の生活に戻していたようだ。

だが、私は自分の持つ思想の元、そのような救済は不要であると見做していた。

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