《俺が斬ったの、隣國の王様らしい……》シンセスティアの屈辱

☆☆☆

3回戦第2試合……フィーラの相手は魔法學院三年で績は下位の方。それだけで、またかと俺は呆れた。本當にこの國の奴らは、貴族にしろ平民にしろ屑、クズはがりだ。

拠はないが、恐らくテュポドラッグを使用していることは見てわかった。俺が戦ったベルギーニョのように、フィーラの対戦相手はどこか頭のネジが狂ってしまったかのようにおかしい。

で、結果はフィーラの完封。テュポドラッグで増幅した魔力による力技だけで、フィーラと対等に立ち合えるはずもない。ドラッグの使用に加え、そこに十分な技が備わっていれば……フィーラも苦戦していただろう。

全く見る価値もない試合だったな。

俺は嘆息しつつ、シンセスティアが出る第3試合のためそのまま観客席に殘る。たしか、シンセスティアの対戦相手はこの國の侯爵の位に當たるビュロンカ侯爵家の令嬢――リヒュア・ビュロンカ……。

學年は3年で、績的には中の上。運が良ければ、まあここまで勝ち上がってくるようなレベルだ。本人の魔法使いとしての技量も見たじそこそこだったか……あまり注目していないから詳しくは知らないが。

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暫くして、アリーナの舞臺にシンセスティアとリヒュアの両者が揃う。と……俺は何か違和じて首を傾げた。

「……?」

試合開始前のこの時點で、どういうわけかシンセスティアの顔が悪いように見えた。一言でいえば……疲れている。明らかに疲弊している。それは力面でもそうだが、魔力面でもその量が減っているように見える。

シンセスティアのような魔法使いが、試合前に魔力や力を使うような……そんな無駄をする筈がない。何かあったと見るべきだろう。

それよりあいつ……あんな狀態で戦うつもりか?

「シンセスティアちゃん……大丈夫かな……」

と、フィーラが俺の隣に腰を下ろしながら言った。ナチュラルに隣に座ってきやがったが……どうせ何を言っても聞かないのだから、何も言わない。

「お前も分かったか」

「うん、見たら分かる……かなり疲れてるね。何があったんだろう?」

「さっき會った時には、特に変わった様子はなかったな……」

つまり、俺と會話をしてから舞臺に上がるまでの短時間で何かがあったのだ。そして、ついさっきまで起こっていた何かによってシンセスティアは萬全な狀態とは程遠い狀態で、こうして舞臺に立たされたのだ。

「本當に、クズばかりだ」

「シンセスティアちゃん……」

心配そうなフィーラの聲は屆かず、無にも実況の開始の合図がされる。

シンセスティアはない魔力でやり繰りしながら、リヒュアの攻勢を防いでいるが……完全に防戦一方だ。攻撃に回せるリソースは無く、立っているのがやっとという狀況だ。

それでもシンセスティアは諦めず、果敢に戦う。リヒュアの攻勢が止むの同時に、殘りの力と魔力の全てを使うつもで……言葉通り全全霊の一撃――【ファイアボルト】をリヒュアに叩き込む。

炎が稲妻の如く走り、リヒュアは意表を突かれてそれをモロにける。著弾と同時に炎の柱が立ち、発……観客達はその演目に歓聲を上げるが、俺とフィーラは目を伏せた。

「…………負けだ」

「……うん」

発のケムリが晴れると同時に、ダメージを負ったが未だ舞臺に立つリヒュアと……全ての力を使い果たして倒れるシンセスティアの姿があった。

これで試合は終了……シンセスティアの敗北だ。

続いての第4試合はエリーザとギルガルの戦いだが……それよりも、俺は先ほどの試合――シンセスティアの様子が気になった。

あいつは努力家だ。高飛車でプライドが高く、負けず嫌いだからこそ人一倍に努力を積む。そして、どうだと自分より下の者を嘲笑い、上を見上げて悔しがる変な奴だ。

そんなあいつが、あんな風になっていたことには裏がある。まあ……例え、そうだったとしても俺には対して関係のないらことなのかもしれない……だが、それでもだ。

努力した奴の結果が、はたしてあれでいいのか?自分の時間を惜しみ、自己研鑽につぎ込んだ奴の結果が?あのようなものでいいのか?

そして、俺の隣に座るはそれを許せないだ。

「…………ちょっと、私シンセスティアちゃんのところに行ってくる!」

「ああ」

俺は時に呼び止めず、フィーラは人ごみを掻き分けて姿を消す。

……俺は善人じゃない。だが、俺には絶対に譲れない信條と許せないことがある。シンセスティアがどうとかは関係ない……ただ、俺は等しく頑張る人間というのが好きだ。

☆☆☆

その後、一時休息が挾まれ……俺は何となく観客席から離れてアリーナを出た。すると、出た直ぐのところにウィリアムが立っており、待ってましたと言わんばかりの仕草で聲を掛けてくる。

「やあ」

「あぁ……なんか用か?」

「まあね……」

ウィリアムは俺に向かってし大きめなサイズをした、丸い球を投げてきた。それをけ取った俺は、手のひらの上でそれを確認する。黒い玉だ。ウィリアムがこれを俺に投げてきたということは……これが件のドラッグなのだろう。

「こいつがそうか……」

「その通り……どうやら王立魔法學院の一部生徒に出回り……調査の結果、本大會のおよそ半數以上がドラッグ使用者ということが判明した」

「クソだな」

俺が言うと、ウィリアムは罰が悪そうに頬を掻く。この選抜戦はそもそも、績上位により行われる。集められる連中は全員が績優秀な學生のはずなのに、ドラッグ使用者は揃いも揃って績下位……なぜそういう奴らが代表に選ばれているのか?

そして、これだけの事態を把握しているであろう大會運営が……選抜戦を中止しない理由は?

…………。

俺は黙ってテュポドラッグをウィリアムに投げ返した。ウィリアムはそれをけ取ると、俺にどうするのかと尋ねてくる。

「別に」

「別にって……運営も學院も周りは敵だらけだよ」

「知るか。俺は俺の覇道を突き進む……障害がその先にあるのなら、戦って斬る」

「…………」

ウィリアムは苦い顔をしながらも、最終的に俺を止めることはしなかった。ウィリアムにとって俺は、一度戦った相手に過ぎない。こんな忠告をする理由すら、彼にはない。これは彼なりの優しさというものなのだろう。

俺は踵を返してアリーナへと戻る。この國の連中はクズばかりだ。

そう……俺は心の中で再度思いつつ、ふと通りがかった人気のない通路で誰かが啜り哭く聲が聞こえた。微かな音で、意識しなければ聞こえないようなものだ。

「……シンセスティアちゃん」

「…………っ」

どうやら、泣いているシンセスティアをフィーラが勵ましているらしい。俺がるのも無粋だろうと、その場から立ち去るために一歩踏み出すと同時にシンセスティアがポツリと呟く。

「……悔しい……わたくしは、悔しいっ」

たったそれだけシンセスティアは言った。

4回戦はベスト8を決める。ここから対戦相手はランダムに決まるため、ここまで勝ち殘った連中がこの後アリーナに集まることになる。

ここまで勝ち上がったということは、ドラッグの有無に関わらず強者揃いということになる。特にフィーラ、エリーザなどは強敵だ。

しかし、たとえ誰が相手でも俺のやるべきことは変わらない。俺は優勝する。それが、俺の力を示せる唯一方法だからだ。

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