《職業通りの世界》第13話 執事の執著
「お前は執事だろ!何故俺たちより料理が出來るんだ!?」
 コックが俺に向かって拳を握りしめて走ってくる。俺は右手に刀を作り出そうとしたが、橫からお嬢様の腕が割り込んできた。お嬢様を見ると、首を橫に振った。武を使うなって事らしい。
「答えろっ!執事ぃ!!」
 俺はお嬢様から離れ、振るってきた拳を摑み、そのまま後ろに引くのと同時に余っている左手で男のぐらを摑んで投げ飛ばす。
 派手な音と同時に男の口からが出る。
「がはぁっ!………はぁ、はぁ」
 を拭いながら立ち上がり、俺から距離を取った。まだ目には戦意
が宿っている。これ以上やるとホコリが舞うから手早く済ませよう。
「喰らえっ!」
 男はふらついた足で立ち上がると、俺から大きく離れた右側に包丁を投げた。それを目で追うのと同時に俺は駆け出した。その包丁の先にはお嬢様が!
ーブシャッ!
 派手に鮮が舞う。だけど、お嬢様には怪我は無い。代わりに俺のに鋭い痛みと熱が來る。
「…くっ、お嬢様……大丈夫ですか……?」
「……え?……陸人…」
 お嬢様が怯えきったような聲を出す。あの男の所為でお嬢様が怯えているなんて、考えるだけでも腹が立つ。
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 俺はに刺さった包丁を抜き、左手に裝填數が6発のリボルバー型の銃を作り出す。
ーバァン!
 照準を男の足に定め、引き金を引くと男の足を弾が貫通して一筋のが足から出る。
「あぁぁぁっ!!」
 足を抱えてんでいる男に向かって歩く。右手にはから抜いた包丁を握りしめ、左手の銃で奴のに照準をーー
「もうやめてっ!!」
 背中に強い衝撃と人のが來て、俺はその場に倒れる。橫目で見ると、お嬢様が必死な様子で俺に抱きついていた。包丁はし背中まで貫通していたので、お嬢様の顔にが付く。
「……おやめください。お嬢様の……顔に…が…」
 俺は口からを流しつつ、俺のがお嬢様の顔にどんどん付いていくのが辛抱ならなくて、お嬢様に呼びかける。だが、むしろお嬢様は俺の背中に顔をり付ける。
「私はっ!陸人が止まってくれるまで!離れないからっ!!」
 お嬢様は離れるつもりが無い。なら、この銃でーー
「もうやめろっ!」
 今度は俺の左手を巧が押さえつけてきた。その顔はとても見てられないとでも言いたげな悲しそうな顔だった。
「ぐえっ!」
「この男はこちらで裁く。だから、もうやめろ」
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 男の方を見ると、男に容赦なく蹴りをれて、騎士たちを呼んでいるカレナさんが居た。あの男はもうお嬢様には危害を加える事が出來ない。それを自覚した時、一気にの気が引き、口からが溢れた。
「ガフッ!……これで……お嬢様のは……」
 俺は薄れていく視界と意識の中で、お嬢様を守れたという安心をじていた………。
 スキル
 ・超速再生 (執事たる者、治療に時間をかけていられない)
 を獲得しました。
「あ~あ、こりゃ折角の味い飯が臺無しだな」
 巧くんが私の側に倒れている陸人を見ながらぼやく。確かにこんなの匂いがある中で食事は食べにくい。
「ちょっと!早く退いてよ!」
 席が離れていたのと、し放心狀態だったから來るのが遅れた加奈ちゃんが巧くんを退かしながら、陸人の近くに駆けつける。
「絶対治して見せーーえ?」
 陸人に手を掲げたのに、魔法を発せずにいる。その顔は理解出來ないものを見た時のような顔で、ただ陸人の傷口を見ている。
 私は抱きついているから見えないので、しを起こして傷口を見てみると、そこは塗られたの斷面なんかじゃなくて、綺麗なが見える何一つ傷が無い背中だった。
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「え?ちょっとを上にしてみようか…?」
「う、うん」
 私と加奈ちゃんで息を合わせてを起こして見ると、に泡みたいなものが出ていて、それが萎むと元の綺麗なに戻っていた。
「……カハッ!…はぁ、はぁ」
 急に陸人が口からを出したかと思うと、荒々しくもあるけど、さっきまでの弱々しい呼吸とは打って変わってしっかりとした呼吸になった。
「……なあ、ここの世界での執事って怪我を自分で修復出來んのか?」
「は?何を言ってるんですか?そんな事、どの職業でも出來ませんよ」
 巧くんとカレナさんの會話を聞いて一つの仮説が出來た。それは陸人の私を守ろうとする意識と執事という職業が見事にリンクして強い力を及ぼしているんじゃないかと。
 向こうでも、私の為になるならと全ての無茶振りをこなしてきた陸人。その気持ちがこの世界においては……。
 ねぇ、陸人。私は確かにあの雪が降った日にあなたを救ったのかもしれない。けど、私は何も私の為に盡くしてしかった訳じゃない。ただ、あの死んだような目を救いたくて……。
「カレナさん。陸人を私の部屋に運んでもらえますか?」
「え、ええ。構いませんが」
 カレナさんは戸いながらも、陸人を抱えた。そしてメイドに扉を開けさせるように言って歩き出した。その後をついて行く。今日を機にしっかり陸人と話さないと………。
「こちらの包丁は魔道ですね。正確には包丁と見せかけた投げナイフと言った方が良いんでしょうか。たかがコックがあれだけの投擲を出來たのはこれの所為です」
 部屋にって來た魔法使いらしき人の解説を聞いて、頭を悩ませているカレナさん。陸人くんを朱音さんの部屋に連れて行った後に言われたのに、騎士の人たちやメイドの人たちに的確に指示をしているのは、流石騎士団長というところだろう。
「なあ、陸人は大丈夫なんだよな?」
「知るかっ」
 巧くんの心配そうな聲に、めようとしたところに機嫌の悪そうな梶木くんが吐き捨てるように言う。そんな態度をされて、巧くんも眼を飛ばして怒りを表している。
「…大丈夫、大丈夫だよ」
 涙目で震えているくるみさんをめているのは、珍しい事に間宮さんだ。青山くんは心の無さそうに目を瞑り、國王様とティアナ様は一緒に出て行ってしまった。
「……お前たちはさっさと訓練へ行け」
 暗い雰囲気な僕たちに、し突き放つようにカレナさんは言う。巧くんがそれを聞いて勢い良く立ち上がるが、手を向けて何とか宥める。
「分かりました。陸人くんの事はお願いします」
 僕はそれだけ言って、みんなに呼びかけて部屋を出る。きっと、あんな態度をしたのは、僕たちの事を思っての事だろう。なら、僕たちは訓練の果でそれを示さなきゃならない。
「みんな!陸人くんがあんな事になって辛いけど、そんな時こそしっかりしないと!さぁ、訓練だ!!」
 みんな納得はしてないけど、それだけしかやる事が無いのも分かっているので、渋々といったじで付いてくる。
 陸人くん、君が居なくても大丈夫なように僕は強くなるよ………。
「…もう一度聞く。お前は一何を呼び出したんだ?」
「……勇者様たちが住む『地球』から、ミスラ様の助けを借りてあの方々を召喚しました」
 娘の言うミスラ様という名前に思わず眉間にシワが寄る。我が國でも強い信仰心を集めているミスラという神。ミスラは神でもありながら、戦乙でもある。
『ミスラ様に注意しろ』
 今は居ないあの男の聲が思い起こされる。あいつはあの執事を警戒してあの言葉を?いや、あいつが居たのは40年も前の話だ。あいつがあの執事を予知していたとは考えにくい。という事はあの執事にミスラが何かしら細工を施したのか?
===オマケ(バレンタインデー)======================
 バレンタインデー。それはある人は好きな人に想いを伝え、ある人は日頃の謝を友人や家族に伝える日。
 それを素で伝えるのは恥ずかしいので、チョコというを使うのが世の風だ。
 世の男たちは明日に控えたバレンタインデーに心踴らせ、世のたちは明日という決戦、もしくは本番に迎えてチョコを作る。
 みんなが知っている老若男問わずとは言えないかも知れないが、この高校2年生という青春真っ最中な時期では一大イベントだと言える。そんなイベントを頭の片隅にも置いてないが………。
「…………すぅ……すぅ」
 俺の目の前で気持ち良さそうに寢ている、クラスでもトップになるほどの容姿を持ちながら、お嬢様は朝の5時までオンラインゲームをどっぷりやっていたので、現在3時間目が終わった後でも、寢息を立てている。
「………はぁ、お嬢……朱音、次は移だぞ」
 俺が何度揺すっても中々起きないお嬢様。周りのクラスメイトたちは何故かし恨めしがっているような目で見てくる。
「……あれ?朱音さん起きないの?なら、俺がーー」
「やらせるかっ!」
 ゆが指を気持ち悪くかして近づいてきた巧の頭を叩き、お嬢様を見る。本當はあんまり大聲は出したくないんだけどな……。
「起きろっ!授業に遅れるだろっ!!」
「ふぁぁっ!はいっ!!」
 ほぼ反的に立ち上がり、次の授業である音楽の用意をし出したお嬢様を見て、ため息が出てしまう。明日はお嬢様に恥をかかないように、ご友人の人たちに渡す義理チョコでも用意してもらわないとな。今日來るはずの楓さんにお願いするか………。
「あ~あ、まだ眠いなー」
 私は重い瞼をりながら、最寄り駅から家までの帰り道を歩く。いつもなら陸人も一緒なんだけど、今日は巧くんに無理やり明日に向けての作戦會議とかに連れて行かれてしまい、一人、時々人が通る程度の道を歩く。
 さっきからすれ違うはみんな、子連れの親子でも、私と同じ子高生でも、良い歳したお姉さんまで、スーパーやらコンビニの袋に大量のお菓子やラッピングをぶら下げている。
 今日って何かあったっけ?2月に何かイベント……今日、陸人が何にも言わなかったから何もないよね?
 そんな事を考えながら歩いていると、あっという間に家の門へ著いた。うちの家の門は大きくて、重い。大いつも陸人が開けてくれるんだけど、何故か門の前に楓さん、門の家側には紅葉さんが居た。
 楓さんはご飯を作るために來たんだろうし、紅葉さんは多分、陸人が連絡して開けさせるようにでも言ってたんだろう。本當に陸人は抜け目が無いからね。
「あ、朱音ちゃんお帰り~」「お帰りなさいませ、お嬢様」
 軽いじで迎えてくれた楓さんと堅苦しく迎えてくれた紅葉さんの溫度差に多戸うけど、至って平然となるように返す。
 チラリと楓さんの手に大量のチョコやらラッピングがっているのが見えた。
「あ、楓さんもチョコ買ってる~。なんか今日ってあった?」
 私が聞くと、楓さんは紅葉さんをチラリと見て、紅葉さんはため息をこぼした。それを見た楓さんは苦笑いを浮かべながら私に言った。
「何って……、明日はバレンタインだよ?」
 バレンタイン。私はそれを聞いた瞬間、衝撃が走った。だって、數ない陸人に想い……じゃなくて、謝を伝えられる日なのに、それを私がド忘れしてた事がショックだった。
 私はカバンからピンクのどこかのブランドもののサイフを取り出して殘金を見る。殘金は2438円。充分チョコもラッピングも買える金額だ。
「………ちょっとチョコ買って來るから、紅葉さん、カバンお願いね」
「承知しました。ですが、ここら付近にはもうチョコが売り切れていると思いますが」
 紅葉さんの言葉に心が折れそうになる。けど、私が折れる訳にはいかない!
「大丈夫!定期券で探して來るっ!」
「あ、ちょっ!?お嬢様!!??」
 紅葉さんの呼び止める聲も聞き流して、私は今まで歩いて來た道を引き返す。全てはチョコの為にっ!!
「はぁ、結局1枚しか買えなかった……」
 時刻はもう6時。あれからんな店を回ったけど、結果的に家の近くの百均に殘っていた1枚の板チョコしか買えなかった………。
「ま、まあ大丈夫だよ。いざとなったら私のチョコをーー」
「それはダメっ!」
 私は思わず大きな聲を出してしまい、2人だけ居ない調理室を靜まり返してしまう。
「あ、別に楓さんのチョコが嫌とかそういうのじゃなくてね。…何というか、私が全て用意して作ったチョコをあげたくて……」
 私は顔が熱くなるのをじながら、ゴニョゴニョとしたじで言うと、楓さんは嬉しそうに私を見てきている。
「それは仕方ないよね~。じゃあ、板チョコ1枚で出來るガトーショコラを教えるから、頑張ってね!」
「うんっ!」
 楓さんは普段料理や菓子作りを全くしない私でも作りやすいレシピを教えてくれたので、私は誠心誠意、謝やを込めてチョコを作った………。
ーコンコン
「お嬢様、りますよ」
 いつも通り朝お嬢様を起こす為に部屋にると、布団が丸く膨らんでいた。恐らく、俺がって來たタイミングで起きて、起きるのが嫌になって布団に包まっているのだろう。何回もあったからもう分かっている。
「お嬢様、早く起きて………あれ?」
 絶対に抵抗してくると思い、力強く布団を引っ張るとそこには沢山のヌイグルミがっていて、肝心のお嬢様が居ない。一どこに?
「陸人っ!」
 背後からお嬢様に呼ばれ、振り向くと、お嬢様に赤いラッピングがされた小さな箱を突きつけられた。
 それを反的にけ取ると、お嬢様は満面の笑みで言った。
「いつもありがとう!これからもよろしくね!!」
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 いかがだったでしょうか?初めてのオマケで、陸人たちのバレンタインデーでの様子。
 今回のバレンタインデーは修學旅行に行く前の出來事です。あまり書いてない楓さんや紅葉さんを書けて、満足してます!
 またイベントがあった時に書くかもしれないので、あまり期待せずにオマケを読んでくださいねっ!
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