《職業通りの世界》第26話 執事の憤り

 特定転移を使い、視界が一転した先に映ったのは、お嬢様に詰め寄っている悠だった。

「……っ!悠!何やってんだ!!」

 俺は転移の影響でし浮いていたので、著地するまで待ち、地面に足が付いた瞬間、手前側にお嬢様が居るので、勢い良く飛び上がって悠の背後に著地する。

「……まさか本當に來るなんて…」

 悠は俺を見て諦めたように両手を上げた。一どういうつもりだ?

「取り敢えず、悠がお嬢様に手を出しかけたのは間違いないみたいだな」

「……まあ、そうだね」

 「よし、殺す」と言うのと同時に右手には刀、左手には巖を砕く時に使われるドリルを作り出す。

 スキル

 ・魔道 (執事たる者、魔道くらい用意すべき)

 ・魔道適正 (執事たる者、魔道の扱いくらいこなせるべき)

 を獲得しました。

 どうやら、作り出したドリルが魔力で回転するので、魔道の分類にるらしく、魔道関係のスキルが2つ手にった。

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 ちょうど良い、スキルを悠で試させてもらおうか。

「あ、僕降參してるんだけど」

「知るか、取り敢えず死ね」

「取り敢えずで殺されたくないな…」

 何故か冷靜で、客観視している悠。それになんか清々しいじがする。そもそも、お嬢様がし顔を赤らめて座り込んでしまっている。どういうことだ?

 もう一度特定転移を使い、今度はお嬢様のすぐそばに転移する。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「え……あ、うん。大丈夫…です……」

 お嬢様の顔をしっかり見るために屈んで覗き込むようにお嬢様を見ながら聞くと、お嬢様はなお一層顔を赤くして、何故か執事の俺に対して敬語。普通じゃない。

「悠、お前は一何をやったんだ?」

「…別に、僕は撃沈して、朱音さんは自覚しちゃっただけだよ」

 悠はそれだけ言って、俺の隣を通ってテラスと城が繋がっている扉を開けて行ってしまった。何故か俺は悠に対して怒りがあったのに、よく分からない事を言われてその怒りが鎮火してしまった。 

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「お嬢様、悠に一何を言われたのですか?」

「え……あの、その……告白されました…」

「はい?」

 今、お嬢様の口からは告白という言葉が出たように聞こえた。噓だと信じたいが、この恥ずかしがっている様子からして本當らしい。

「……お嬢様はなんて答えたのですか?」

「…普通に斷ったよ」

 お嬢様は至って普通のように言ったが、し眉をひくつかせていた。お嬢様が何か隠し事をする時に出る癖だ。

 お嬢様が俺に隠し事をするのは悲しいが、お嬢様だってもう大人の階段を登っているんだ。隠し事の一つや二つ、有って當然だ。

「…そうですか、なら良いんです。悠は確かに良い奴ですが、お嬢様とは釣り合いませんので」

 俺は取り敢えず納得したように裝い、お嬢様に手を差し出す。お嬢様は俺の手を取り、俺が引っ張って立たせる。

 そしてお嬢様に怪我が無いか全をくまなく見ていく。お嬢様は毎回こうやって全を見られるのを恥ずかしがる。そんなに恥ずかしがらなくても、お嬢様は綺麗なんだけどな。

「………怪我は無いようですね、では戻りましょう。既に次の料理を運び終えてますので」

「あ、いきなり呼んだのに間に合ったの?」

「ええ、運び終えてーー」

 俺は口が止まってしまう。お嬢様と會う前にあったお姫様とかレナさんに言われた事や言った事を思い出したからだ。これはお嬢様に言う訳にはいかない。

 こんな不甲斐ない事を言ったら、お嬢様に落膽されてしまう。それは仕方ない事なのかもしれない、向こうなら言っていたかもしれない。けど、ここでは俺以外にお嬢様を護れる執事が居るとは思えない。せめて向こうに戻ってから言おう。

「……?どうしたの陸人?」

「いえ、1つ作り忘れていたものがありました」

 俺が急に黙り込んだのを不審がったお嬢様に、適當な言い訳をすると、お嬢様は「陸人が忘れるなんて珍しい~」と楽しそうに笑った。

「自分でも忘れる事はあるので……、ではし失禮します」

「うん、先に戻ってるね~」

 俺とお嬢様は玄関の広場で別れた。早足で調理室へと向かっている中、頭に浮かぶのはお嬢様の事とお姫様によって暴かれた俺の闇。

「執事が嫉妬なんて……な」

 俺はに込み上げてきていた1人の男への嫉妬を押し殺し、駆け足で調理室へと向かった。

「……はぁ、変じゃなかったかな~」

 私は足を過剰気味に上げて、ゆっくりとみんなが居る部屋へと歩く。未だ火照る頬がまだ私が落ち著いていない事を示しているようで、余計に思い出してしまう。

「返答を聞かせてください、今すぐに」

 そう言って徐々に詰め寄ってくる高野くんの前では、私は後退りをする事しか出來なかった。そして、遂に高野くんが私へと手をばした時、私は自然に聲を出していた。

「私は高野くんの事はそこまで好きじゃないです!」

「………それは僕に何か落ち度があったという事かな?」

 「それとも好きな人でも居るのかい?」と聞かれて、私は思わず顔を伏せてしまった。きっと、その時の私の顔や耳は赤くなっていたと思う。だって、凄く顔が熱かったし。

「…陸人」

 陸人という名前を聞いた途端、私はついつい反応して肩をビクつかせてしまった。それを見た高野くんはばしたまま、私の前で止まっていた手を下ろして、し聲を低くした。

「そんなにもみんな陸人が好きなのか?陸人は確かに強いし、料理も出來るけど、執事だ。僕や朱音さんと違う。それに顔だって僕の方がーー」

「そんな事で陸人と比較しないで」

 私は思わず顔を上げて高野くんに強気の聲で言った。どうしても耐えきれなかったから。あんなにも努力をしているところを簡単に済ませて、持って生まれたものと比較するなんて、まるでクズの奴らみたいだったから。

『私の資産はこんなにもあるんだよ?』

『僕の息子は僕に似てイケメンでね…』

『俺の力を持ってすれば何不自由しないぞ』

『ここだけの話、有名な政治家とパイプがあってね…』

 努力して地位を上げた人たちはみんな私には優しく、まるで親戚の子と接するように話しかけてくれるのに、野心がある人や親から引き継いだだけの人たちはみんな、私の事なんて見ずに私の後ろにあるお父さんとお母さんの資産や地位、権力を狙っていた。

 今の高野くんの目は、彼らほどじゃなくてもそれになりえるかもしれない目をしている。そんなの、悲しい。だから……

「私と陸人は繋がっているの、私が呼べば陸人はいつでも駆けつけてくれるんだから」

「…朱音さんは陸人にぞっこんなのか…。なら、既事実をーー」

 高野くんが最低な事を言ったので、私はすぐさま意思疎通を使った。

ーピコン

 陸人!お願い助けてぇ!!

『すぐさま駆けつけます』

 怒りのこもったような頼りになる聲が聞こえ、次の瞬間、背後に風が吹き荒れた。

 振り返ると、そこには高野くんを見て怒っている陸人が居た。何をしたのかは分からないけど、陸人が駆けつけてくれた。あんなにも必死な様子で。

「……あ~あ、陸人も朱音さんにぞっこんとはね」

「…え?」

 小さな聲で言われた事に気付いた瞬間、私の戸う聲を簡単にかき消すほどの陸人の怒聲が辺りに響いた………。

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