《職業通りの世界》第42話 執事の気の迷い
 畳に布団を敷いて寢るこの宿では、俺が扉側で寢て、その隣にパーティションというオフィスとかに置かれている仕切りでお嬢様の顔が見えないようにしている。
 だって、寢顔なんて朝起こしに來ている時だけでもなかなか堪えないといけない時もあったので、隣で寢るなんて危険度が跳ね上がるに決まっている。
「……ねぇこれ退けない?」
「退けません。早く寢てください」
 パーティションに背中を向けるように寢返りを打つ。お嬢様は最近俺との距離を忘れているような……いや、めようとしているのか。それは嬉しいが、執事とは適度な距離が必要だと思う。
「陸人……、私ね、この世界に來て良かったよ」
「……………」
 俺は思わず振り返った。だが、そこには俺が置いたパーティションしか無く、お嬢様の顔を見て真偽を確かめる事が出來ないが、お嬢様の聲から本気で言っているのは分かった。
「向こうだと、今ほど私と陸人との距離を詰める事が出來なかったよね」
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「……そうです…かね?」
 「そうなの」とお嬢様はし強気に言う。確かに詰めれたと思うけど、それを認めたら先程まで考えていた事を否定する事になる。
「陸人はこの世界に來て良かった?」
「……自分はお嬢様のの安全が保障出來ないこの世界から早くお嬢様を帰したいのですが……」
「たまに來る程度なら、行きたいと思います」
 お嬢様は何も返して來ない。寢たか?なら、良かった。俺らしくもない事を言っちゃってたからな。
 執事がお嬢様のの安全より、お嬢様と一緒にこの世界を旅してみたいなんて、思ってしまったのだから………。
「さて、朝食も食べたし、買い出しに行きますか」
 今日は珍しく、リーダーシップのある発言をしたお嬢様。メサとメイカは何故かなかなか視線を合わせてくれないのもなんか気になるが、考えても分からないのでお嬢様の言う通り、買い出しに行く。
 と言っても降りるだけなので、かなりの時短になる。時間に厳しい俺たちにとっては親切な街だ。
「早く買い出しに出て、早く次の街に行こ!」
 お嬢様はやけに元気だ。何でこんなに元気なのかと聞きたいが、それでお嬢様がやる気を失ったら意味が無い。今は聞かないでおこう。
「そうですね、任務がありますから」
 任務、それを聞いたお嬢様とメサ、メイカの表が強張る。もしかして、みんな忘れていたのか?
「任務ね!うん、そうだよね~」
「覚えてました」「確かそんなのもあったっけ?」
 メイカは正直だな。まあ、忘れているくらいが丁度良いか。俺が覚えていたら大丈夫だろ。
「忘れていても大丈夫なんで、買い出しを終わらしましょう」
 俺が先導して歩くと、お嬢様たちはすぐさま付いて來た。
「よし、では出発します」
 特に問題無く、馬車を走らせて次の街へと目指す。次の街の距離は短く、2日で著く。確か名前は《ニースベル》。
 あの街はし親近というか、懐かしさをじられた。ビルみたいなあの建を誰が作ったのかは知らないが、場所を効率的に使い過ぎて、もうし街らしくしても良かったと思う。
 あれから2日。特に何も起こらず、お嬢様は乗馬がある程度出來るようになり、2人にはしずつ護を教えている。俺が居ない時にお嬢様を守れるようになってほしいからな。
 2人は武というより、戦闘系のスキルを取るのには向いているらしく、レベルは低いが、護というスキルを獲得した。
 そして、今日。門が16方位にある街が見えた。防壁も今までの街より高く、分厚そうで、規模も大きい。
「あれが《ニースベル》…」
 門へと向かう馬車は多く、20臺はありそうだ。地図で見たじでもそこそこ重要な街だと思っていたが、《ニースベル》は恐らくこの國の中でも有數の大規模な街なんだろう。
「どんな街なんだろうね~」
「《ニースベル》は治安の良い、かな街だと聞いてます」
 お嬢様が乗り出して目を輝かせている中、隣でメサが冷靜に言う。メサが知っている程度には有名な街なんだろう。
「でも、王都とは違って事件も多かったはずよ」
 メイカは厳しい目つきで街を見る。過去に事件でも多発していたのか?確かに、王都にはすぐ近くにカレナさんが居るが、あの街にはカレナさんほどの猛者が居るのだろうか。
 また証明書を見せて驚かれ、腰を低くした守衛さんたちに門を通してもらい、中にると、今までの街よりも街らしく、まだ王都を見たこともないからどの程度か分からないが、今までの街より栄えていた。
 街の人たちはみんな活気に満ち溢れていて、ぱっと見た限り爭いも無い。笑顔の絶えない街がそこにはあった。
「うわ~、良い街だな~」
「初めて來ましたけど、ここまでとは…」
 お嬢様とメサは微笑んだり、目を丸くしたりしているが、メイカは黙り込んでいた。何とも思っていないような無表で。
「メイカ、どうかしたか?」
「いや……こんな平和過ぎる街なんて、なんか不気味で…」
 確かに、メイカの言う通りだ。カレナさん並みの実力者が居るとしても、それ怯え、疎ましく思う奴が居ない訳が無い。人間なんて、闇がある奴が居るのが普通だ。
 だが、そういった目をしている奴が見當たらない。もしかして、そういう奴らが集まるところでもあるのか?
「まあ、気になるだろうが、今は宿と馬を預ける場所を探そう」
「……そう…よね」
 街を見ながらメイカがした遠い目がやけに頭に殘った………。
 宿も馬を預ける場所も見つけ、晝飯も食べた。だが、日が落ちるまでにはまだ時間がある。そこで、お嬢様が買いをしたいと言い出した。
「陸人~!こんな大きな街で買いをする機會なんてなかなか無いんだからさ~」
「………はぁ、分かりました。ただし、魔退治を手伝ってくださいよ」
「もっちろん♪」
 俺はお嬢様に押し負けて、金貨をある程度渡し、3人で買いをさせた。俺も付いて行こうとしたが、「の子の買いを見るなんていやらしい~」と言われ、渋々お嬢様たちだけで行かせる事にした。
 暇になった俺は街の散策、及びこの街の掃き溜め、闇が集まる場所を探していた。
 それを察しられたのか、街の隅にある古びた店と店の間にあった不自然な脇道にろうとしたところで、男たちに囲まれてしまった。
「テメェ、何の用で來た?」
「別に、危ないところが無いか探していたんですよ。あなたたちのような人たちが集まるところとかね」
 俺の発言で一斉に戦意をむき出しにする。ざっと10人くらいしか居ないこいつらに負ける気はしないが、戦ってどうするか?
 捕まえて守衛に突き出すか、告げ口をして元を斷つか。どっちでも良いな。
「相手にするなっ!さっさとこっちへ連れて來い!!」
 すぐにでも戦闘が始まりそうな雰囲気の中、1人の怒聲が辺りに響いた。その後に靴を鳴らす音が聞こえる。
「勇者相手にお前らみたいなカスが勝てる訳ねぇだろ。なぁ、勇者様よぉ?」
 出て來た男は群青の髪はボサボサで、背中やら腰に剣やら斧やらを攜えて、2mはありそうな長がある。
「俺は勇者じゃねぇ。執事だ、ヤクザ」
「ヤクザ?何だそりゃ。俺はイグザ、この街の裏を取り仕切ってるもんだ」
 イグザという男は意地の悪い笑みを浮かべた………。
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