《職業通りの世界》第53話 忘れていた異変

 《グノハ》で一晩野営をして、迷う事なく馬車も見つかり、何とか森を出れた。全然日は空いて無いのに、馬をるのがかなり久しぶりな気がする。

 最初は2人だけの任務だったのに、今や5人まで増えた。お嬢様も退屈になる事も無いのは良いんだが、騒々しくなったな。

「朱音さん、私と遊びましょう!」

「アカネさんと遊ぶ約束してたのは私ぃ!」

 背後から聞こえる聲だけでも、リーナとメイカがお嬢様をめぐって軽い喧嘩をしているのが分かる。そろそろメサが止めにるだろうな。

「じゃあ、みんなで出來るトランプにしましょ?」

「それが良いねっ!そうしよ!」

「ま、まあ」「別に良いけど」

 ほら。メサの提案にお嬢様が乗っかって、2人も妥協してやるようだ。メサはお姉さんというじがするな。

 1人で馬を縦するのに、お嬢様の心配をしなくて済むのは助かるな。

 メサとメイカは向こうに著いてからどうなるかは分からないが、リーナは強引でも來るだろうし、お嬢様が寂しい思いをする事は無いだろう。

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そして、翌日の晝頃。晝食を取って馬車を走らせたら《グノリア》が見えて來た。この帰りの道中で一番面倒くさい事が起きるところで、誰かも知らないの子を馬車に乗せなくてはならない約束をした街だ。

「…やっぱり斷る?」

「いえ。自分はあの時のお嬢様の意思を尊重したいので」

 お嬢様が流石に申し訳なく思ったのか、馬を縦している俺の背後から潛めた聲で言って來たが、斷る。

 確かに乗せるのは不安だが、お嬢様があの時宿屋の主人に手を差し出さなかったら、お嬢様らしさが無くなるような気がする。それに、俺を助けてくれた時の事を考えると、無下には出來ないしな。

「……あれ?何か忘れているようなーー」

「ねぇリクトっ!あの街って確かゾンビが居た街じゃあ……!!」

 メイカがお嬢様の隣で外の景を見るためにカーテンを開けて街を見た瞬間、あり得ないような事を言われた。だが、確かに居たはずだゾンビが。

 俺とお嬢様は顔を合わせて冷や汗を流し始めた。もちろん、あの宿屋の主人が言っていた娘の安否を考えたからだ。

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「メサっ!お前が運転しろ!」

「う、うんっ!」

 メサに手綱を渡し、道で矢を作り出し、無限収納から弓を取り出して構える。狙うは外壁の上端。

 弓を出來る限り引き絞ったので、矢は勢い良く飛び外壁の上端に突き刺さった。代わりに弓は力に耐えきれず弦が切れ、ヒビがったが気にせず無限収納になおす。

「お嬢様はここで。メサ、あの門の近くに馬車を停めておけ。俺が戻るまで死守しろよ」

 メサが不安そうにしながらも頷いたのを確認して、置換転移を発しようとした時、服の裾を摑まれた。振り返るとそこには強い意識を固めたらしいお嬢様が居た。

「私も連れて行って」

「ですが、危険な場所にお嬢様をーー」

「もうあんな思いはしたくないの!」

 お嬢様は若干涙目になりながら、俺の服の裾をより一層強く握る。

 あんな思いというのは俺が仮死化のスキルを使った時の事なんだろう。

 お嬢様に心配をかけたのは申し訳ないと思っているが、ゾンビなんて、映畫とかで見た染のイメージが強いから魔より危険に思えてしまう。

「それに、私なら広範囲の敵を倒せるからっ。だからっ!」

「分かりました。では、お連れしますからこちらへ」

 お嬢様の意思が固いうちは説得が無理なので、気は乗らないが連れて行くしか無いらしい。

「舌を噛まないように歯を食いしばっておいてください」

「うん、お願いっ」

 お嬢様が歯を食いしばったのを確認して、お嬢様をお姫様抱っこの形で抱き上げて置換転移を使う。

 矢とれ替わり、早速落ちそうになったのですぐさま駆け上がって外壁の上面へ立つ。

 そこから見えたのは、ゾンビどもが家屋へと押しって荒らす酷い慘狀だった。火事も発生したのか、黒煙も僅かに上がっているのが見える。

 俺たちが出くわした時は実験段階のような時だったようで、今日、実行に移されたように見える。

 ここから宿屋は見えるが、宿屋へとゾンビどもが14、15人ほど向かっているのも見えた。

「お嬢様、自分が宿屋にりますから宿屋に來ないように足止めをお願い出來ますか?」

「うん、分かった。出はどうするの?」

「もう用意は出來ました」

 無限収納から壊れた弓を取り出して落とし、足に強化魔法をかける。

 そして、お嬢様にもう一度歯を食いしばるように言ってから一気に飛び出す。強い風が中に當たるが、今は風よりも店の屋に著地出來るかどうかだ。

 屋まであと、1、2、3っ!

 屋に近いつま先から"ブレスト"を発し、落下スピードを一時的に弱めた間に著地する事で衝撃を最小限にし、そのまま屋を渡る。

 宿屋は街でもし盛り上がったところにあり、行くには一本道しかなく、ゾンビたちはそこを通っている。まあ、俺たちは屋を渡っているから関係ないが。

「お嬢様、下ろします。ゾンビとの距離は2mは最低でも開けてください」

「分かってるっ。というか、50mも近づけたくないからっ」

 何とも頼もしいお嬢様を連れて、宿屋から近いところにさっきの著地と同じ要領で著地し、お嬢様を下ろす。

 そして、宿屋へと駆け込んだ。背後から炎の音が聞こえるのはお嬢様がもう魔法を使っているからか。

宅の娘さんを引き取りに來ましたっ!」

 何も知らない人が聞いたらプロポーズにも聞こえるかもしれない事を言いながら扉を勢い良く開けると、機を倒してそこに座り込んでいる主人と主人の近くにいる子、そして、その2人を楽しそうに見ている男が居た。

 主人は左肩から出欠しているようで、赤くなっている服を押さえている。

 子は主人の娘さんのようで、大粒の涙を流して主人に抱きついている。

 そして、男は背中に片刃の大剣を背負っているのだが、荒れた刃がその男の格を表しているように見える。見たじ、冒険者のように見える。

「……あ?あんた誰だ?俺のお姫さんを引き取りに來たなんて言いやがって…」

「……っ!來てくださったのですねっ!勇者様っ!!」

 ただでさえ眼つきの悪い男が俺を見て、俺の姿を見て安堵した主人の言葉を聞いて、なお悪くする。

 娘さんは俺をただ見ているだけで、俺と同じように狀況が理解出來ていないらしい。

 ま、狀況が分からなくてもやるべき事は分かってる。

「あんたはどうやら俺にとって障害になるようだな」

「……それは俺の臺詞だ、執事の勇者っ!!」

 何気に初めて、この格好を見て執事と理解してくれた男は大剣を構える。

 今までこんな執事らしい格好をしているのに、俺を敵と見なした奴はみんな執事だと思ってもないような顔をするからこの世界の執事は一般的にどんな服裝なのか調べようと思っていたところだ。

「Aランク冒険者だと知らずにここに來たお前の運命を恨ーー」

「めんどいから倒れとけ」

 いちいちランクを明かす男の腹に蹴りをぶち込んで強制的に気絶させる。

「さて、ご説明いただけますか?」

 開けっ放しにした扉から炎の音が聞こえてくる中、宿屋の主人にこんな事態に陥った訳を聞く。俺が前にゾンビを見かけたのにこの人に言ってないのは忘れておこう………。

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