《職業通りの世界》第64話 騎士団長とお嬢様
「……臓が潰れたみたいだけど、この程度ならすぐに治せるね」
「本當にっ!良かった~」
 加奈ちゃんの手から緑のが陸人のお腹周りに漂い、表面の毆られた跡が消えていくのが見える。
「それにしても、みんなはどうしてここに?任務は?」
「それはねぇ、実はお姫様からーーぐべぇっ」
 言ってはダメなのかもしれないけど、頬を緩ませまくってし気味が悪かった巧くんのお腹を加奈ちゃんが毆り、痛みのあまりうずくまってしまった。
「それは私が朱音さんたちが帰って來ている報を手しましたので、みなさんに伝えたんですよ」
「ティアラちゃんっ!!」「ティアラっ!?」
 部屋にって來たティアラちゃんは私に軽く會釈すると、私と同じように驚いていた國王様のところに早足で、怒り気味の足取りで向かっていき、
「これは一どういう事ですか!?説明してもらえますか!?」
「…ぐっ!?いくら娘とはいえ、國王にその態度はーー」
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「何ですか?私が怒っているのが分かりませんか?約束しましたよね?皆さんに私たちが危害を加えてはならないと!ご自も認めた約束を違った事の弁明は無いんですか?だいたいーー」
 威厳ある怖い國王様の姿はなく、娘に怒られる父親の姿がそこにあった。父親は娘に弱いのはこの世界でも変わらないみたい。
 微笑ましいというか、平和的な説教を見ていると、カレナさんが來た。顔をうつ向かせて、申し訳ないとは思っていそうだけど、謝りに來た訳でも無さそう。
「……謝罪も反省もしません。私は國王様の命があれば誰でも殺す殺人鬼です。ですから、これからはーー」
「お茶會っ。またやりましょ?」
 予想だにしていなかったみたいで、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっている。だけど、すぐに気持ちをれ替えたようで、顔を振った後にまたさっきの表に戻って、
「ですから、これからは私とは距離をーー」
「お茶會がしたいな~。この痛むと裏切られたような心の傷を癒すにはまたあのお茶會をしないと治らないな~」
 私はわざとらしくを抱き締めて目配せをする。真剣に言おうとしている事を何度も邪魔されたからか、怒ってしまい……
「いい加減にしてくださいっ!私は殺すつもりは無くても、骨の1本や2本、臓の1つ2つを壊すつもりで戦ったんですよ!?それを許すと言うんですか!?」
「許すよ」
 私は即答する。それを聞いたカレナさんは理解しがたいとでも言いたげに顔をしかめたので、私の理論を説明する。
「私が思うに、人間関係ってどんな寶より、どんな力より凄いと思うの。みんなで助け合って、初めて一つの事をし遂げられる。この世界では一人で出來る事は多いみたいだけど、私たちの世界では一人で出來る事なんてたかが知れていたの」
「だって、人間って一人では弱いように出來ているんだもん。なら、私は一度や二度の喧嘩は笑って許すよ。どうしようもないお互いの価値観や考え方が妨げになっても、よっぽどの事が無い限り私は許すよ。それが私の理論」
 私はカレナさんに微笑んだ。だって、カレナさんがあんまりにも悲しそうな……顔をしていたから。
 あの目は見覚えがある。あの日の陸人のような、生きる事を諦めたような、絶を知っているような目。
 思えば陸人とカレナさんは近しい存在だと思う。2人ともある人に盡くす割には面倒見が良くて、他人なんてどうでも良いなんて言いながらも結局見過ごせない。
 どうしようもなく獻的な神じゃないと正常でいられない、狂人になりかけの狀態。カレナさんはまだ大丈夫だけど、陸人は……もう手遅れなのかもしれない。
 でも、いくら陸人が自を軽視しても、私が誰よりも陸人を想えば良いよね?
「……私は許されても良いんですか?」
「うん、何度でも言うよ?私は許すよ、カレナさんを。だから、前のように楽しいお茶會をやろ?」
 「私ももちろん良いよね?」と割り込んで來た加奈ちゃんに「もちろん」と返事をする。どうやら、加奈ちゃんもカレナさんを許すみたい。
「…またあの味しいお茶菓子を食べて、楽しくおしゃべり……こんな世界を知ってしまった私は騎士団長失格ですね」
 涙をうっすらと浮かべていたけど、カレナさんの表は悪くなく、どっちかと言うと嬉しそうだった。
「騎士団長の前にの子なんですから、としては満點ですよ?」
 そう、あの圧倒的な力を持つカレナさんはなんだよ。本來なら剣なんて持たなくて良いのに、あろうことか戦場にいるなんて…と思ったけど、思い返せば私も人の事言えなかったね。
「………」
 王の間だったか謁見の間だったかは忘れたけど、そんな事はどうでもいい。重要なのはここで何が起きたかという事だ。
 ……床の裂傷や壁の凹みやヒビ合でどんな戦闘が行われたのかは分からないけど、どれくらいのものだったのかは分かる。
 はっきり言って、陸人は僕たちと大きく離れている訳じゃないが、それでもしだけ差があるみたいだ。その差が勝敗を分けるので、軽視出來ない。
 そもそも、僕たちがここにカレナさんに気付かれずに來れたのもあの子が持っていたマントのおかげなのだから。
 視線を部屋の片隅、ほとんど目立たないところにやると、一人のの子が膝を抱えて座っていた。その周りによく分からない奴らがいるが、の子の近くにいる2人とは面識があるみたいで、會話をしているのが遠くからでも伺える。
 あのの子が持っていたマントは陸人が與えたものらしく、相手から姿を消し、魔力をも隠す事の出來る魔道だった。もっとも、既にの子に間宮さんが返してしまったのでもう見させてもらえないだろうが。
『お願いしますっ!……リクトさん達を助けてください!!』
 この部屋に繋がる廊下で息を切らしながら誰か助けを求めていたあの子のおかげであのマントを被って助けられた。
 僕は勇者なのだから、弱き者を助けるのは當然なのだが……、陸人の場合は勇者としてではなく、友達として駆けつけたと思う。
「本當にすげぇよな、こんな有り様になってまで戦うなんてよ」
 一人で考え込んでいた僕に、お腹をさすりながら巧くんが話しかけてきた。やはり、巧くんの目でも分かるらしい。
「……どう思う?僕たちと陸人の差は」
「…もちろん、陸人との差は初めからあったから埋めるのは容易くないと思うけどな……朱音さんは頭一つ飛んでねぇか?」
 そして、巧くんも同じ結論に至ったみたいだ。やっぱり、僕と巧くんの思考は近しいところにあるらしい。
 まあ、それは置いといて。この部屋には刀もしくは剣の傷が多いけど、魔法……氷と炎による部屋へのダメージもなかなかのものだ。
 炎はもう消えてしまっているが、氷は溶け始めてはいるが、形はまだ殘っている。その形はおおかたが攻撃的な槍や刃のものだが、全の2割程度は陸人を手助けしたであろう衝撃を抑える盾のようなものやり臺のようなものがある。
 これだけの魔法、例え梶木くんでもーー
「……あ~あ、あいつも來れば良かったのにな」
「仕方ないよ、意外と真面目みたいだからね」
 返事をしながらも、一人である都市の護衛に殘った頼りになる仲間をどこか心配していた。妙な騒ぎを隅に追いやっていたのにも気付かず………。
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