《職業通りの世界》第65話 久しぶりの再會

 ……夢を見ていた。いつかは救われる。いつかは変わってくれると。微かで、脆い夢はすぐに葉わない事を知った。

『お前は邪魔なんだよっ!!』

『何でお前なんかを産んだんだろうねっ!!』

 消えろ、死ね、失せろ、殺す、毆る、蹴る、切る、絞める、潰す。

 そんな事を言われ、そんな事をされるのが日常で、現実だった。

 だから、儚い夢を見てしまったのかもしれない。いつか助けに來てくれる人が來る。いつかこの家から連れ出してくれる人が來ると。

 そんなもの、ありえる訳が無い。どこの誰かも分からない人を救うほど、お人好しで余裕のある、偽善者なんかじゃなく、優しさに満ちた人なんている訳が無い。

 だが、現実に居たのだ。夢のお伽話のような人が。

 俺は生涯、あの景を、あの言葉を忘れる事が出來ないだろう。

『……忘れるんだ、あの親どもを』

 當然だ、あんな奴らなんて覚える価値も……

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『なら、これも忘れるんだ』

 い頃の俺が見せた景、會話。その全てが俺には理解出來なかった………。

「…………あぁ」

 倦怠に纏わりつき、まるで無理やり起こされたような気分の悪い目覚め。このまま二度寢をしようと思ったが、狀況把握が最優先だと自分をい立たせ、重いを起こす。

 どうやら城の自室にいるみたいだ。何一つ配置が変わっておらず、ここが自室だと分かったのも、部屋にあるお嬢様との特訓の時に一度付けた白手袋が機に置かれたままで埃をし被っている事に気付いたからだ。

 自室にいるという事はカレナさんとの戦闘で俺は………負けたが捕らえる事が出來ない事態に陥ったか考えを改めたか。誰かが止めたという線もあるな。お姫様辺りが俺が気を失った後に來たのか?

 ……まあどっちでもいい。今はお嬢様の安否が最優先なんだが…思った以上にが怠い。限界突破を無理やり維持して戦っていたツケか。

 スキルを使いたいが、スキルを使うほどの集中力も無い。頭にもやがかかったように頭が冴えないままだ。

「仕方ない、寢るか」

 よって、治療のためという寢る大義名分を得た俺はすぐさま眠りについた。今までの質の悪い睡眠を補うように。

 どのくらい寢たのだろうか………と思って見たかったのだが、そんなのを思う余裕も無い起こし方をされた。

「おっはよー!」

「ぐべぇっ!」

 無防備に寢ている俺の腹に肘らしきものがはいり、意識が一気に現実に戻される。

「誰だ!?こんな非常識な起こし方をしやがって!!」

「よ、久しぶり」

 布団をめくり、立ち上がった先に違う任務で別れた巧が居た。

「巧か……」

「おう、久しぶりだーーイテテテ!!」

 巧だと知った俺は安心して地面に叩きつけ、絞め技である肩固めをする。完璧とまではいかないが、そこそこ上手くいったので逃げるのは困難なはず。

「何でいきなりこんな事するんだよ!」

「お前には言われとうないわ」

 正論で返されて黙り込んだので、離してやった。反省はしてないっぽいが、こんな目にあったんだからもうしないだろう。

 それにしても……痛がりながら肩を回す巧を見る。この1ヶ月でどうやらただの一般人から、しっかりと戦える、戦闘職のへと変わっていた。

「……ん、何だよ?」

「いや、何でもねぇ。それよりも、お嬢…朱音は無事か?」

 こいつの前では、この世界に來てからお嬢様呼びしている設定を思い出し、學校で呼んでいた呼び捨ての形でお嬢様の事を聞く。

「朱音さんならどこも怪我は無かったはずだぞ。魔力がかなり減っていたみたいだがな」

「そうか……、良かった」

 本気で安堵する俺に、「俺たちの事は?」とし呆れたように聞いて來たので、無視して立ち上がる。

 ……疲労は抜け切って無いが、けない事もない。スキルを使うだけの集中力もあるし、問題は無いな。

「なら、早く朱音のところに行かねぇとな」

「なあ、俺の事は?俺に久しぶりに會ったのに何か思わねぇのか?」

 部屋を出てからも鬱陶しく俺に付いて來てどうでもいい事を聞いてくる。

 答えずに黙っていても、諦める様子が無いのでいい加減腹が立って投げ捨てるように答える事にした。

「別にお前も悠の事も心配なんてしてねぇよ。どうせ、お前たちの事だから、心配するだけ無駄だ。間宮は恩があるからし気になった程度だな」

「……それって頼りにされてるのか?それとも放ってられているのか?」

 正直に答えてやったのに首を傾げているので、もう付き合えないと訴えるように足を速める。

 どんどん距離が空いているの事も気に留めず、スキル気配探知を使うと、どうやらお嬢様はこの先にある食事室にいるみたいだ。

 ……お嬢様は俺に落膽したんだろうか。使えない執事だと思われても仕方ない。だが、せめて執事としてでは無く、盾として傍に居させてもらえるようにしないとな。

 目の前にある両扉。その扉の片方を力強く開け、どう謝るかを考えていた俺は……目の前の景に呆気を取られた。

 何故お嬢様と間宮は料理の配膳をしていて、何故カレナさんがメイド服を著て涙目にーー

「……っ!見るなっ!!」

「くぼぉっ!!」

 意識が完全にどこかに行っていたからか、赤面して近づいてくるカレナさんが放った、俺の顔面にめがけてのドロップキックを防ぐ事が出來ず、空いた扉を橫切るように思いっきり飛ばされた。

 だが、紅葉さんによる戦闘けていた俺は反的にカレナさんの足首を摑んでいて、一緒に地面を転がった。

 スキル自己修復を使って曲がった鼻を直しながらを起き上がらせると、カレナさんが俺のに倒れかかっていた。

 メイド服の元は見えるように開いていて、そこから大人らしい気のあるが………いやいや!そんな事を考えている場合じゃねぇ!さっさと離れないと。

「……っ、すまないついっーー」

 顔をあげようとしたカレナさんが俺に気づくより前にスキル特定転移を使い、お嬢様の傍に転移する。

 ここから見ると、俺が居なくなったので顔から地面に當たったらしいが、こっちもドロップキックを食らったんだ、おあいこだろ。

「……朝から楽しめた?」

「そう思いますか?」

 隣にいるお嬢様は俺を見て、嬉しそうに微笑みながら「どうだろうね~」と配膳の続きを始めた。

 俺も手伝おうとしたが、止められた。何でも、この料理たちは俺が目を覚ました記念らしい。……前からの雑さは否めないが、俺の料理を見たからか、しはマシになっている。

「目が覚めて良かったね。そして、久し振り」

「間宮か……。ああ、久し振り。元気そうで何よりだ」

 し悲しげに話しかけてきた間宮にあいさつした後、何故カレナさんがメイド服を著ているのかと尋ねたら、何でも俺に負い目をじているから、何らかの形で償いたかったらしい。何でメイド服なのかは聞かないでおこう。

「そういえば、メサやメイカ、カトラは!?」

 俺が戦った理由であるあいつらはどこに!?

「安心して、今は何やら手続きをしているけど、みんな暗殺とは無縁な職業に就くらしいよ」

 焦って柄にも無く大聲を上げた俺を宥めるように、お嬢様が丁寧に説明してくれた。

 ……良かった、これで俺は…あの日のお嬢様のように、あいつらを助けられたのか。

 安心からか、一気に糸が切れたように足がおぼつかなくなり、しばらく壁にもたれて座り込んでしまった………。

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 大変お待たせして申し訳ありません!なかなか忙しい日々が続いたのと……やる気が出ない日が続きまして……

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