《職業通りの世界》第71話 異常か正常か

「……はぁ、絶対上手くいかねぇ」

「そんなネガティブになるなよ。大丈夫だって、メサさんもメイカちゃんもあんなの見た事ないって言ってただろ?ねぇ?二人ともぉ?」

「はい!あんな凄い蕓があるとは思っていませんでした!」

「確かに凄かったけどね…目をつけられない?」

 現在、カレナさんや悠、間宮、……落ち込みまくりのリーナから見送られて《ナサーハ》へと馬を走らせている。縦しているのはメサで、その隣にメイカが補佐として座っている。

 メサは前を見つつも聲を弾ませ、メイカは呆れたようにしつつも、心配してくれているようだ。

「ほらぁっ!この世界の奴が言ってるんだから間違い無いって!!もっと自信持てよ!そう思うよね!朱音さん!!」

 巧が話を振った相手、お嬢様は何をしているのかというと、俺が道で作り出した3著の曲蕓師用の裝を見比べていた。あまりにも真剣に考えていたようで、し遅れて返事した。

Advertisement

「………あ、うん!陸人なら大丈夫だって!それよりももうちょっとが派手なタイプ……作って?」

「またですか……」

 両手を合わせて顔の前に立てて、ウィンクをしつつお願いをしてくるお嬢様に対して、俺は斷るに付けておらず、道で服を作り出す。

 実は最初は1著だったのだが、「もうし地味なやつ!」やら「しカラフルな方が良いよね!?」とか言って3著になってしまったのだ。……まあたった今、4著になったが。

「朱音さん、俺も手伝ーー」

「駄目!これは私が決める!!」

 いつもあまり自己主張をしないお嬢様が珍しく譲らない姿勢を取った。あまりにも急なのと予想外すぎて巧も「…お、おう」とだけ言って引き下がった。いつもなら粘るくせに。

「……はぁ、そもそもこの世界の曲蕓師は一何をするんだ?」

「…一回だけ見た事があるわ」

 俺の獨り言を聞いたのか、メイカが顔だけを軽く俺の方へ向けた。

「と言っても、ほとんど魔法に頼り切ったものと………奴隷を使った見せしめぐらいだけどね」

「ちょっと!メイカっ!!」

 メサが聲を荒げた事を気にも止めず、メイカは話を続ける。

「曲蕓師は人々を楽しませる職業。だから、人を笑わせる為には何でもやるのが普通よ。それこそ、人を甚振ったりして。それで笑いが起きたり、人々が楽しめたら………人を殺したって何にも言われない」

 人を殺しても、その言葉に俺だけでなく巧とお嬢様も改めて実しただろう。この世界の異常さに。だが、それがこの世界の常識。

「…本當にこの世界はおかしいね……」

 お嬢様が溢した呟きに同意しようとした矢先、とんでもない言葉を聞いてしまった。

「そうか?そいつがそれでんな人たちを楽しませているなら別にーー」

 巧がさも當然かのように言っているのが我慢出來ず、俺は巧の倉を摑む。

「おい。お前自分が何を言っているのか気付いているか?」

「………え?…………悪りぃ、俺何か言ってたのか?」

 しの間でまるで中れ替わったかのように、冷酷なじで言っていた巧から、何があったのかよく分からない様子のいつもの巧へと変わった。……何だ今のは?もしかして……この世界に毒されているのか?

「人さえ殺す曲蕓師はおかしいと思うか?」

「…あ、ああ。そんな人を殺してまで蕓をする奴なんて、イかれていると思うぞ…?」

 再度さっきと同じ質問をすると、真逆の正常な答えが帰って來た。

 思わずお嬢様の方を見ると、お嬢様も驚いた表になっている。俺やお嬢様だけでなく、顔を覗かせていたメイカも同じく驚いていた。巧だけが、何も分からず首を傾げている。

「巧、今の気持ちを忘れるなよ?」

「……?おう、もちろんだ」

 巧はよく分かっていない様子だったが、何となく察したらしい。結局、それ以上この世界と日本での比較は避け、普段と変わりない會話を弾ませた……。

 夕飯を終え、馬車が停まってある場所の近くで馬車を風除けにして焚き火をしていると、お嬢様がやって來た。巧は俺と同じテントで先に寢て、メサとメイカもお嬢様と一緒に馬車にって行った筈なんだが、お嬢様だけ戻って來た。

 お嬢様は俺が道で作り出したフリルの付いた、この世界には場違いな可らしいパジャマ姿で焚き火の近くに來ると、ベンチ代わりとして置いていた丸太に腰を下ろした。

「どうされました?見張りはしっかりしていますよ」

「そうじゃないよ。陸人だって、私が何で來たか分かってるでしょ?」

 道で作り出したマグカップに注がれたホットミルクをけ取りながら、お嬢様は真剣な表で俺を見つめている。

 もちろん、分かっている。晝の巧の事だろう。あの様子は普通では無かった。明らかにあいつの意思とは離れたところにあるものだとじた。

「……城を出る前に特訓したでしょ?その日の夜、陸人が夕ご飯を作るために私と巧くんから離れた時に言われたの。『魔法使いなのに何で格闘戦をするんだ』って」

 やっぱり巧はお嬢様にそんな事を言っていたのか。巧に肩を摑まれていたのに全くかなかった訳だ。

「恐らく、この世界に影響されているのだと思います。にわかには信じ難い事ですが…」

「そうだよね。私たちは何とも無いのにどうして巧くん・・・だけ……」

 ………そうだ。何故巧だけなんだ?俺はもちろん、お嬢様にも影響をけているじは無い。久しぶりに會った悠も間宮も大丈夫だったというのに、どうして巧だけなんだ?

 任務先で何かあったのか?なら、悠や間宮もなっているはず…。いや、悠と間宮にあんまり接していないから気付いていないだけかもしれない。

 ……駄目だ。あまりにも報がなすぎる。現狀ではいくつかの推測しか出來ないな。

 深く考え込んでいた間に來たのか、肩に何かが當たった覚と右腕辺りにらかいが突然來て、右へ視線を向けると、お嬢様の顔がすぐ近くまで來ていた。

 の子特有の甘い匂いとらかい腕や肩が當たって俺の脈拍は急速に上がっていく。そして、その脈拍をお嬢様に知られる訳にはいかないと、頭にいくつもの數式や言語を思い浮かべて意識を逸らせる。

 お嬢様はそんな事なんて気付いていない様子で、不安そうなか細い聲で俺の腕を両腕で抱きしめながら口を開く。

「怖いね、私たちも元の世界の良心が無くなると思うと。…本當に」

「……………」

 俺はお嬢様に気の利いた言葉をかける事が出來ず、黙り込む。だって、俺はもうこの世界に適応してしまった。人の死を見ても、何にも思わないだろうし、何かのためなら躊躇いなく人を殺せる自信もあるからだ。

「陸人……。お願い、私を置いて行かないでね」

「……當たり前です。自分はお嬢様と共に……」

 真っ暗な空の下、小さなの前で互いのを寄せ合い、わした言葉はすぐに闇へと消えた。だが、互いのに殘ればそれで良い。

 俺はお嬢様のために生きる。お嬢様の為に剣を振るい、引き金を引く。それを再確認というより……再認識出來た。

 『闇夜の暗殺者ナイトウォーカー』の『暗転クロッド』、お前が俺とお嬢様を別つ、キッカケとなるのなら、些細な存在だとしても、俺はお前を殺してやろう・・・・・・………。

============================================

      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください