《職業通りの世界》第74話 心の隙間
 激しい戦闘を終え、神的にも的にも限界が來ていた俺は馬車に乗るなりすぐに寢てしまった。
 一応敵が來てもすぐに対応出來るよう、紅葉さんに眠り合は教えてもらったし、習慣付けているから問題は無いと思っていた。
 それから起きたのはもうすぐで夜中になろうとしているほど、暗くなった時間帯だった。
「……もうこんな時間か」
 俺は馬車の隅に背中を預けて立って寢ていたはずなのだが、いつの間にか腰を下ろして育座りの形で寢ていたようだ。
 スキル夜目を使い、見渡すと中央にはし顔の良くないお嬢様と間抜け面の巧が並んで寢ていた。
 馬車の縦席が見えるよう、カーテンは開けてあったが、そこには誰もいない。メサとメイカはどこかに行ったのか?
 取り敢えず起き上がって馬車の扉を開き、外へ出る。馬車は俺が教えていた通り、森の近くに停めてあり、馬は大きめの木に繋がれている。ここからし歩いた程度のところには焚き火があり、勢いが弱いながらも火を燈していた。
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「…………」
 2人の名前を呼びかけようと思ったが、魔やを呼び込んでしまうかもしれない。ここはスキル空間把握を使い、ゆっくりと森へとっていく。
 恐らく、あいつらは森の中で狩りでもしているのだろう。俺が寢ていたせいで調理が無いから、焚き火でを焼こうとでも思ったのかもしれない。
 ……それにしても、魔がないな。夜行の魔がそこら辺を徘徊していてもおかしくは無いんだが。…おっ、草むらの近くに人の反応が2つ。やっと見つけたな。
「そこにいるのはーー」
「先手必勝っ!!」
 2人の名前を言おうとしたのに俺を敵だと勘違いしたのか、メイカが小さなナイフで斬りかかってきた。木を蹴って素早く俺の頭上に移し、ナイフをを回転させつつ振り下ろしてくる。
 明らかに初めて會った時よりも鋭く、殺意のこもった攻撃だ。どうやら、俺たちについて行く為にしは特訓をしたらしい。
「だが、そんな大振りの攻撃は躱しやすいな」
 俺はし後ろへ下がる。それだけで攻撃は外れ、メイカは「ぐにゃっ!」とけない聲をあげて地面にぶつかる。
 メイカの攻撃が外れるのも計算通りなのか、草むらを掻き分けて素早くメサらしき反応が近付いてくる。それも音がほとんど立っていない。
「私も居ますよ」
「知ってる」
 俺の背後へと回ったメサがナイフを俺の背中へ突き刺そうとするが、すぐに回れ右でメサと向き合い、ナイフを持っている腕ごとスカさせて摑む。
「全く、寢起きの奴にとんでもない事をしてくれるな」
「もしかして……リクトさんっ!?」
 スキル夜目を持っていないからか、瞳孔を開いて俺の顔をマジマジと見つめて漸く俺だと気付き、腕を摑まれているのも忘れて大きく後ろへ飛び下がろうとしたので、腕を摑んで押さえる。
「おいっ!危ねぇだろ」
「すみませんっ。それにしても、お目覚めされて良かったです」
「ほんと、グッスリ寢てた」
 メサとメイカと並んで馬車へと歩く道中、喋っていたら寄ってくるかもしれない魔の心配なんてせず、俺が寢ていた間の事を聞いた。
 案の定、魔が寄って來たが、どれも雑魚だったので片手で刀を振るって始末しつつ、足を進めた。
「なら、お前たちはまだ飯は食ってないのか」
「ええ。でもまぁ慣れてます」「空腹なんて日常茶飯事だったから」
 そう言って心配させないよう、無理に笑うメサの顔と諦めたような表のメイカを見ると、昔の俺と重なって見えてしまい、どうにも居た堪れない。
「先に戻ってろ、すぐに戻る」
 ちょうど300mほど離れたところに微かにの反応が有ったので、メサたちを置いてそこへ向かう。
 反応通り豬が居たので大きく跳び上がり、刀で上から笛を貫いた。変な鳴き聲をあげて倒れる豬の後ろ足を摑み、引きずりながら歩く。
『何だその目は!?あぁ!!?』
『本當に私の子供ぉ?こんなけない顔をして!恥ずかしいったらありゃしないっ!!』
 今でもたまに見るき頃の景。もう既に顔も思い出せないクソどもはいつも黒いクレヨンで塗りつぶされた顔でき俺に待をする。
 その時の俺はいつもけなく謝っていた。數える程しか行っていない學校に行くと、何も知らない奴らが俺に同するように心配の言葉をかける。先生は見て見ぬフリだ。それも知っていた俺はいつもけない、生を諦めたような顔をしていたと言う。
 もう終わった過去だ。に殘る傷は半分くらいはき頃の待の跡だが、傷は何も語らずそこにあるだけ。なのに、何故この頃昔を見る。
 もしかして俺はこの世界にあのクソどもを引きずり下ろして殺したいのか?刑法も何もない、死がすぐそばにあるこの世界で合法的に殺したいと思っているのではーー
「あ、おかえりなさい」「案外早かったわね」
 聲をかけられ、意識が目の前に移る。いつの間にか俺は馬車に著いていたようで、焚き火の火を絶えないよう、薪をくべているメサとその近くで辺りの警戒をしていたのか、馬車の周りを徘徊しているメイカが居た。
 あぁ、もうあんなクソどもはどうでもいいや。お嬢様と巧は日本から知り合っていたが、こいつらは正真正銘この世界で知り合い、俺を慕ってくれる。決してあんなクソどもを殺す為の処刑場では無く、俺が生きている世界だ。
「どうしました?」「まだしんどいんじゃないの?」
 メサもメイカも立ち盡くしている俺に違和を覚えたのか、心配してくれている。お嬢様はまだ寢ている。今だけは執事である事を忘れても良いかな。
「何でも無い。それよりも飯にするか」
 俺は背を向け、機と椅子、食にランタン、刀を取り出し、豬を解している間に他の用意をしてもらう。
 その後、焚き火で焼いて塩胡椒で味付けしただけのものだったが、妙に味しくじた………。
 外から味しそうな匂いと楽しげな會話が聞こえてくる。その聲は2人ののものと……陸人の。
 本當に楽しそうで、最初は夢かと思ったくらい。……私と喋っている時はいつも畏まったじで、多笑い合った事もあってもあんなにも……親しそうに笑う陸人の笑い聲は聞いた事が無い。
 今すぐにでも聲がする方へ行きたいけど、私のはとても重くなっていて立てない。それがまるで囚人の足枷のようにじた。
「何で……あんな楽しそうに……」
 言葉も……涙も自然と溢れていた。果てしない嫉妬と虛無が私の心をどんどん蝕んでいるみたいで。
 心がチクリとして痛い。心がムカムカとして悔しい。心がズンズンとして悲しい。
 どうしてっ、私だと駄目なのっ!どうしてっ!どうしてっ、私にはそんな聲をかけてくれないのっ!どうしてっ!どうしてぇっ!
 涙が止まらなくって、それを拭いたくても腕がかなくって。
 今日だけは……どうか、こんな醜く嫉妬する私を許してっ。明日からは、しっかりするから……。
 涙で歪んだ視界、涙越しに見える天井。意識がもう視界とは別のところに有った私は天井と平行になって、壁に立っているかのように浮く1人のに気付かなかった………。
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