《職業通りの世界》第76話 き出す
 街にる前に見た景が忘れられないが、今は巧を助ける事が最優先だ。そう自分自に言い聞かせ、巧の事に集中する。
 今はスキル応急処理でどうにか息をしているが、いつこのスキルが切れるかも分からず、ずっとこのままという訳にもいかないので街の中、広い街道に馬車をゆっくりと走らせつつ、回復魔法の使い手が常住しているという教會を探す。
 この世界では最も力があると言われている『ミスラ聖堂會』の教會にはあまりりたくないが、背に腹は代えられない。取り敢えず回復魔法が使える奴が居る場所へ。
「陸人!あれ、教會じゃない?」
 俺とは逆の左側を見ていたお嬢様の聲を聞き、お嬢様の言っている方を見ると、確かに十字架が屋の先端に取り付けられている建が見えた。
「メサっ!左へ曲がってくれ!」
「分かりました!」
 メサはすぐさま馬に指示を出して左へ旋回させる。建は左へ曲がって5軒目の建だ。赤いレンガ造りで、屋も十字架と同じように白く、他の建とはし違った雰囲気がある。
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「流石お嬢様ですね、自分では全く見つけられませんでした」
「そんな事ないよ~。ただ、たまたま私の方に有っただけだから」
 お嬢様は軽く微笑んで謙遜する。お嬢様の笑みはやっぱりどこか、悲しさが滲み出ている。俺ほどの付き合いが無ければ見逃してしまうほど僅かだが。
「………どうしたの?急に見つめて來て…」
 俺はいつの間にかお嬢様を凝視していたらしく、お嬢様がし頬を赤らめてはにかんでいた。
「…いえ。何でもございません」
 変な気が起こすより前に視線をずらしつつ、お嬢様からし離れる。俺は執事だ。お嬢様に対して変な気は起こすんじゃねぇ。分かったか?俺。
「もうそろそろ著きますけど、どうします?」
「ああ。俺が先に話をつけてくるからすぐ近くに停めといてくれ」
 し気まずくなったが、良いタイミングでメサが聲をかけてくれたので、謝しつつ、縦席へ行く時に通るカーテンのかかったガラスの無い窓から飛び出し、すぐに上側へ手をかけて回転し、馬車の天井部分へと乗る。
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 メサに言われた通り、結構近かったのでスキル置換転移は使わず、後ろへ下がってからの助走で勢いよく飛び出し、教會の扉の前へけを取って前転し、衝撃を極限まで殺す。それでも両手へのダメージはあったが、これくらいならスキル自己修復ですぐに治る。
 手が治ったのを確認し、すぐさま扉を開けると、付のような場所が真正面にあり、左右の端には更に扉があった。
 どちらかの扉が治療してくれる部屋に繋がっている筈。付へと近づくと建てつけの付によくある機があり、高さの低い円柱の様な帽子を被った1人のがまるで機械のように、暗く無表で立っていた。
「ご用件は何でしょうか?陸人様」
「……何で俺の名前を…?」
 すぐさま用件を伝えようとした矢先、俺の事を知っている奴しか知らない名前を言われ、思わず距離を取り、警戒する。
 そんな俺の事も心底興味が無さそうに立ち盡くしたままの。視線もずっと変わらず玄関の扉を見ている。本當に機械なのではないかと疑いたくなるほどだ。
「ご用件が無いならお帰りください」
「……い、いや、用件ならある」
 驚いてしまったがここで引いてはここに來た意味が無い。ひとまず俺の名前を知っていた事は置いといて、付のに巧の事を伝える。
「承知しました。では左の扉の方へ患者を連れて來てください。料金は後ほど頂きます」
「分かりました。では、連れて來ます」
 々思うところはあるが巧を連れて來よう。巧を連れて來る為に玄関の扉を開けるとそこにもう馬車が停めてあり、縦席にはメイカ、馬車の後ろの扉の近くにメサが待機していた。恐らくお嬢様は馬車の中で巧を連れ出す用意をしてくれているんだろう。
「メサっ、治療して貰えそうだから巧を馬車から出すぞ」
「はいっ!アカネさん!お願いします!」
 メサに呼びかけつつ道作で擔架を作り出そうとしたが、そんな必要は無かったよう。メサが扉を開けると小さな土で出來た人形が6がかりで巧を運び出して來た。
「………何あれ?」
「アカネさんによるとゴーレムというものらしいです。土で出來た人形で命令に従順らしいですよ?」
 トコトコと歩くその様子はとても可らしいが、背も50cmくらいしか無いのに安定して運んでいる辺り、そこそこ力が強いんじゃないんだろうか。
 ゴーレムをジッと見つめている間にお嬢様が馬車から降りて來て、ゴーレムにも負けない可らしいトコトコ走りでこっちへ來た。
「お嬢様、これは?」
「あぁ。これはね、城に居た魔法使いのーー……本で見たの!」
 急に誤魔化したお嬢様をジッと見つめる。お嬢様は冷や汗のような汗をかいて視線を逸らす。全くコッチを向かず、知らないフリだ。
「………また今度聞きます。今は巧を優先しましょう」
「……うん!お願いね、ゴーレムちゃん!!」
 お嬢様の命をけ、可らしく片手で敬禮をして扉へと向かう。扉はメサが開けたので問題なくゴーレムたちは教會の中へって行く。……というか、ゴーレムたち片手で巧を支えなかったか?
 メサが先にり、ゴーレムたちが巧を中にれたのを確認し、メイカに馬車の見張りを頼んで続いてる。お嬢様がし警戒していたので俺が先にり、お嬢様が続けてる。
 俺が足を踏みれた時には明らかに何も変わってなかった。奧にメサが居て、ゴーレムたちが巧を両手で支えて待っていた。
 だが、お嬢様が足を踏みれた途端に無機質な白い壁、無表な付だったものが、縦に彫りのった白い柱に灰の壁、教會特有の木製の長椅子がずらりと並んで真ん中には真っ赤なカーペットが敷かれ、その先には床が一段高くなった舞臺のようなものがあった。そこに上から日のがし、何とも神々しい空間を演出していた。
「……は?一何が…?」
 いきなり変化した室を見渡そうとお嬢様から離れた瞬間、俺とお嬢様の間に付のが現れた。音も無く、急にそこに発生したように。
「お待ちしておりました。巧様、朱音様」
「………え?私?」
 お嬢様が驚いている間に、付のはお嬢様の手を摑み姿を消した。お嬢様ごと。
「……っ!!お嬢様っ!!」
 気付いた時には既に遅く、もう居らず、痕跡なんてものは無い。が巧の名前も出していたので巧の方を見るも、さっきまで巧が居た場所には崩れた土クズしか無かった。
「~~っ!!クソッタレがぁぁぁ!!!」
 渾の力を込めて地面に大きく足踏みをする。しひび割れがいったが、すぐに直ったのがまた忌々しい。
 クソ!あのの目的は初めから巧とお嬢様、即ち勇者の2人だったんだ。思えば、俺の名前を知っていた時點で、クソ神の知り合いだと気付けば良かったのに!俺は巧の心配をし過ぎたせいで。
「クソっ!クソっ!クッ~ソがぁぁ!!」
 地面を踏む。地面に足を叩きつける。足が痺れても、疲れても、鈍い痛みが走っても、この気持ちが収まる事は無い。踏んでも、踏んでも踏んでも!お嬢様が戻ってこない。
「何が目的なんだっ!このクソがぁぁっ!!」
 俺の怒聲は部屋の一帯に響き渡った………。
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