《職業通りの世界》第77話 大きな

「はぁ……はぁ……」

 荒れ果てた床、壁には痛々しい刀による斬り込みがあり、俺は荒々しく息を吐きつつ扉が有ったであろう壁を見つめる。

 お嬢様が居なくなってからもう10分。ずっと絶え間無く刀を振るっていたが、ことごとく修復されてこの部屋からする事が出來ずに居た。ほら、さっきまで有った傷跡がもう無くなっている。

 この部屋ではスキルが使えない。それもお嬢様に関するスキルのみだ。一番重要なお嬢様に関するスキルが使えない事もあり、俺の焦りは留まる事を知らない。こうして息を吐いている間もお嬢様が消えた事に対する怒りが収まらない。

「…あの、し落ちつきませんか?こうして焦っていても何にもーー」

「分かってるっ!」

 メサの言おうとしていた言葉がこんな狀態でも予想出來た俺は聲を荒げて言葉を遮る。聞きたくなかったのだ、そんな現実をより意識してしまいそうな事は。

「分かってるっ。俺がそんな事、誰よりも分かってるっ。俺が焦ってもこの空間が変化する事も、お嬢様が急に現れる事も無いって。だけど、こうでもしてないと………気が狂ってしまいそうなんだ…」

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 自分の言葉が一番現実的な事を言っていて、それを意識してしまい膝をついて両手で顔を覆った。目からは涙が滲み出てきて、それを止めようと顔を覆っている手に力を込める。

 俺の重要な存在が突如消えた。それは想像以上に喪失が押し寄せるもので、耐え切れなくて弱々しくうずくまってしまう。

 お嬢様、お嬢様、お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様。どこにおられるんだ?どこに向かわれたのだ?どこへ……連れて行かれたんだ!?

「~~っ!!あぁぁっ!!」

「リクトさんっ!!」

 自分自が俺に現実を突きつける。それを理解したくなくて、俺は発狂しかけた。……だが、それはいとも簡単に収まった。メサが俺に抱きついてくれたのだ。強く抱き締められ、俺に溫や心拍が伝わってくる。……人の溫もりはこんなにも心落ち著くものなのか。

「大丈夫です。アカネさんなら、リクトさんと同じくらい強いんですから。今はここから出る方法を考えましょう」

「…………あ、あぁ」

 ゆっくりと優しく語りかけてくれるメサの聲が心地良い。……そういえば、前にもお嬢様に……。

 俺はいつの間にか寢てしまったようで、重いまぶたを開く。この部屋に差すは全く変化していない。この空間では時間の概念が無いのか、それとも寢ていた時間が短かったのかは分からないが。

 取り敢えず起き上がろうとしたところ、俺の背中にメサがもたれかかっているのに気付いた。そういえば、メサが俺を冷靜にしてくれたんだったな。

 メサが起きないように肩を摑んでゆっくりと地面に寢かす。頭の下に枕も敷いておいたのはお嬢様にいつもやっていた癖だろうか。

 余計な推測はほどほどに辺りを見渡す。辺りは全く変化なく、神聖さが損なわれていない完璧な空間のままだ。

 辺りの現狀を把握したので、今度は自の狀況を把握しよう。

 現在、俺はお嬢様に関するスキルが全て使用不可能になっている。続いてこの空間に関するスキルもだ。スキル空間把握を使おうとしたが、使えなかったので間違い無いだろう。

 破壊不可能な壁に特定転移が不可。はっきり言って手詰まりだ。今更、何かスキルを創っても意味は無いだろうし、もう変化が起きるまで待つしかないか。

「お嬢様の傍から離れないって誓った筈なんだけどな…」

「はい?もう一度言ってもらえませんか?」

「ですから、私の眷屬になりませんか?」

 現在、私は巧くんと一緒に謎の空間に拉致されています。真っ白な空間は地面なんて見えないのに確かに地面がある覚があり、私と治療を終えた巧くんがミスラ様と向き合っているだけど……。

「だからっ、そんなものに興味は無いから出せって言ってるだろ?」

「いいえ、良い返事をもらえるまで出しません」

 ほら、巧くんが堂々と斷ってもこれ。さっきからこのやり取りしかしてない。全く、早く帰らないと陸人に怒られちゃうというのに。

「ですから、私の眷屬になると言うまで帰さないと言っています。第一、何故私の眷屬になりたくないというのです?」

 ミスラ様は心底理解出來ないと言いたげだけど、そもそも私はあなたを崇んでいないし、こき使われるのは嫌だし、陸人と會えなくなりそうな事は極力控えたいし。

「私たちでは貴方様の傍に使えるのに不適合だと思います。是非、他の方を探してもらえたらと思います」

「あなた……建前と本音の差が凄まじいわよ」

 あれ?もしかして聞かれてる?そういえば、この世界に飛ばされる前に會った時にも同じ様な事を思ったような…。

「ここでは心の聲は丸聞こえよ。あなたの本音も、君の興味もね」

「「なっ、何の事ですかね~!」」

 ミスラ様の鋭い眼に私も巧くんも冷や汗をかきつつ、目を背ける事しか出來ない。本當にプライバシーの確保がなってない空間。

「いい加減にしないとあなたたちのーー」

「ミスラ様っ!大変です!!」

 青筋を浮かべて怒鳴りそうになったミスラ様を止めたのは、顔が完全に隠れるように不恰好な兜を被ったヒラヒラのワンピースを著た小さなの子だった。

 ミスラ様との長差がかなりあるので、ミスラ様が膝をついて耳打ちをしていた。その容はとてもヤバいものだったらしく、すぐに顔を青ざめたミスラ様は耳打ちを終えるや、すぐに腕を振って縦になった楕円形のものを出現させた。

「早くそこをくぐって帰りなさいっ!あなた達に構っている暇は無くなったわっ。早く出迎える用意をしないと……!」

 偉い人でも迎えるようで、焦っているミスラ様をもっと見たくなったけど、早く陸人の下にも帰りたかったので巧くんに先行してもらい、楕円形の空間をくぐった………。

「はっ、初めましてっ!私がこの世界『カルスト』を管理しているミスラと申します!前の管理者が不在になってからまだ80年ほどしか経っていないので、未だ戦乙ですが、近々神名を頂く予定です!!」

 ほんの數十分前まで神のような威厳を持っていたはずのミスラはその影を全くじさせないほどの低姿勢で來客者を出迎えていた。

 來客者は黒い外套にを包み、真っ黒な髪に黒い目、前にこの空間に拉致された者たちと酷似した外見だが、から滲み出ている圧倒的な雰囲気は明らかに強者のものだった。現に『カルスト』にいる神の中でも最も強いミスラが頭を低くするしかなかった。ミスラは分かっているのだ、本能的にも知識としても、彼には決して敵わない事に。

「それで、如何なる用が有って來られたのですか?『バランサー・・・・・』様?」

「……世界の管理者が正式に代する場合でも、しっかりとその管理者を見極めるのも俺の仕事だ」

 『世界の守護者バランサー』。それは世界の救世主でもあり、管理者の死神・・でもある、通常の神とは異なった人間のような倫理観を持った神。

 最強の神である神王に実力的にも最も近い彼の來訪はミスラの大きな誤算であり、決して表には出さずに彼は焦った。早く管理者とならなくては、と。彼に全てを悟られる前に………。

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