《職業通りの世界》第82話 止まらない
  分厚い外壁の上を通って異様な景が広がっている門の外へ降りる。降りる前にアンカーを突き刺し、鉄のワイヤーでゆっくりと音を立てないように降りた。これらの道もスキル道作で作り出したものだ。
「おいっ、さっさとかかってこい」
「は、はい」
 今まで距離があり過ぎて聞こえなかったが、流石に付近まで來ると聞こえてくる。どうやら遠くで見た通り、何らかの訓練をしているようだった。聞こえてきた聲は堂々としているのが男、弱々しく返事をしたのがの聲だった。
 現在、そいつらの姿は見えない。何故なら俺たちが降りた場所は唯一ある建と外壁との間の隙間にを隠しているからだ。
 お嬢様は同じが苦しんでいるかもしれないのに今回は大人しい。無闇に何かをしようとしても狀況が悪化するだけだと理解しているのかもしれない。
「陸人、何か聞こえる?」
「……先ほど聞こえたの荒い息遣い、恐らく運によるもの。…複數人の息を潛めるかのような小さな過ぎる呼吸音、恐らく順番待ちで張している人たちかと。………他は近くにはいません」
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 お嬢様の指示で耳を澄ませて周囲の狀況を確認する。一応、スキル空間把握も使って確かめたので確実だ。
 お嬢様はし悩んだ後、真剣な表で俺に命令した。
「陸人、指導者とおぼしき男を拘束して。なるべく音を立てずに」
「承知しました」
 いつもと違うお嬢様なのに俺は自然に命令をけれて、既に男の方へ足音を立てずに走っている。それに何故か全に力が漲る。お嬢様が何かしてくれたのかもしれない。
「キャァッ!」
「チッ!使えねぇなぁ!?今のままだと前のようにーー」
「くな」
 を飛ばして威圧的に迫ろうとしていた男の首元にスキル無限収納から取り出したナイフの刃を向ける。男が橫目で俺の姿を確認しようとしたのでナイフをより一層近付けて中斷させる。
「別に命を取るわけでは無い。聞きたい事があるだけだ」
 男はナイフに當たるのを避けるように僅かに首を縦に振った。それを確認し、うなじ辺りに手刀を強く當てて倒れさせた……。
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 狹い狹い街の裏路地を素早く駆ける。木の箱や痩せこけた人にれる事も悟られる事も無く躱しながら小のように素早く移する。
 念のためスキル姿隠しを使用しているので萬が一覗き込んでいる人が居ても気づかれないようにある場所を目指していた。
 後ろからメイカが付いて來ているのは覚で理解しているので、速度は落とさず最速で移する。他の街なら何処かで表路地に出ないといけなかったけど、この街は規模に比べて敷地が狹いのでほとんどの建が集していて表路地に出る心配は無い。
 ……どれほど走ったのだろう。表路地に比べて裏路地は狹く複雑にり組んでいて、いくら組織の中でもトップの績だった私たちでも一度休憩を挾まずには居られなかった。
「……はぁ、ここいくら何でもり組み過ぎ」
「そうは言ってもここぐらいしか無いしね……」
 私たちは向き合う壁を互に蹴って屋へと上がり、晝食を取っていた。もしもの時に備えて路地から死角になる場所で。
「それにしても懐かしいよね。昔はこうして一緒に街を駆け巡ったよね」
「うん、そうだね~。みんなが取り損ねた首を狙いに行ってさ」
 私は懐かしい軽さ重視の黒裝束を見ながら頷く。
 私たちはリクトさんたちに出會う前までは組織の中で一番の暗殺者だった。きっと、心の底で傲おごっていたのかもしれない。だけど、それをリクトさんが々に砕いてくれた。私たちに命を奪う以外の選択肢をくれた。なら、全力でリクトさんたちに応えないと……。
「よ~し、そろそろ行こっか?」
「え~、もうちょっとゆっくりしない~?」
 メイカのいつもの面倒がる返事。いつもならあれやこれやでやる気にさせるような事を言うだけだった。だけど、頭に思い浮かんでいた臺詞は第3者の聲によって全て消えてしまった。
「そうだよね~、もっとゆっくりしたいよね?」
「「……っ!?」」
 反的に聲のした方へ距離を取る。聲のした方は私たちが死角に利用していた一番高い屋の頂上。そちらに視線を向けるとそこには好青年らしい男が小振りの包丁みたいなナイフを片手で用に回しつつこちらを見ていた。
 彼から伝わる気配は紛れなく騎士団長様やリクトさんと同じくらいの強いもので、今まで會ってきた誰よりも禍々しかった。間違いない、この人が私たちが任務で殺さないといけない『暗転クロッド』!
 だとしたら、早く逃げないと!私たちだけじゃ絶対勝てない…!……いや、リクトさんたちでも勝てるの!?
 私とメイカの考えは同じだったようで、すぐさま背を向けて逃げ出そうとした時辺りが闇に包まれた……。
「さて、お前は何をしていた?」
「……訓練だ。弱い奴らのな」
 現在、男を建に連れ込んで拘束して報を聞き出している。建の中は予想通り、マンションのようになっていて今はあの時ののスペースに居る。
「何の為の訓練だ?自衛か?護衛か?兵士か?それとも……共殺しか?」
 俺が提示した選択肢、そのうちの共殺しの時に眉が僅かにいた。なくとも共殺しに関するものだと分かった。後は明確な目的を……
「……陸人、退いて」
「はっ」
 今までし離れたところで椅子に座って見ていたお嬢様が男の近くへ向かった。俺は言われた通りにし離れる。
「早く答えて、じゃないと死ぬよ?」
「ギャァァァァッ!!!???」
 お嬢様は俺の予想の遙か斜め、拷問によって聞き出そうとしている。それも、手に纏った火屬魔法で足を焼きながら手を押し付けて。
 その余りにも酷い景にはへたり込んで涙を浮かべ、そういう俺も聲が出なかった。いつものお嬢様ならそんな事はしないはずだ?それほどまでに焦っているのか?
 考えている間にも男の斷末魔は部屋に響き、結局俺は何もする事が出來ず、男が目的を吐くまで黙って見てる事しか出來なかった。
「つまり、あなたたちの目的は周囲の森へ生息する魔を打ち倒す為の鋭部隊を作る為に人を厳選していたーーって事?」
「は……はい…、1年の間に死んだ者を除いた全員を対象に総當たりを……何度もさせて厳選しています……」
 からからに乾いた涙痕、爛れてが落ち骨まで焼けた足を死んだ目で見つめながら男は言う。それをお嬢様は申し訳なさそうにする訳でも無く、ただただ見つめて言葉の真偽を考えているように見えた。
「……陸人、この男の言う事は信憑が高い?」
「…恐らく極めて高いと思います。彼の神狀態や置かれている狀況からして噓をつく事の方がリスクですので」
 「そうだね」とお嬢様は無理に作った笑みで微笑んだ後、男の頭を消しとばした。文字通り跡形も無く。その後も炎で消しとばす様子は単純作業をしているだけの従業員のようだった。
「ヒィィィッ!」
 その様子を見てまともな人が耐え切れる筈も無く、失をしながらも匍匐前進で出口へと向かっている。このまま助けを呼ばれたらちょっと面倒だな。拘束して何処かへ隠すか?
「アァァァァッ!!」
 そんな心配も他所に、お嬢様は躊躇いも無くを炎で焼き消した。それをただ見つめていた俺に、お嬢様はまたも不出來な笑みを浮かべた………。
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