《悪役令嬢がでれでれに溺されるまでの話》9 白いドアの部屋 ②

よいしょ。ピアノの椅子に座って足をばす。

さすがは4歳、ペダルぎりぎりだ。

(ショパンなら簡単にぺらーっと弾けるし、間違えてもわかんないからいっか。)

ショパン ノクターン 20番

前世の記憶を頼りにして指をかす。

コレットの息を飲む聲が聞こえた。

高級なピアノなんだろう。調律もされていて象牙の鍵盤の冷たさが指に伝わる。まるで流れるように弾ける。演奏者にもわかる。空気が変わるということが。

(あぁ、素敵なピアノだ。)

ピアノの音に耳を潤しているとき

バンッ!!! 

不適切な不協和音が響く。

勢いよくドアが開いた。

そこには、私と同じの髪のをボサボサにばし、目は深緑。不健康な白いで、息も切らして肩で呼吸をするお兄様。アルベルト・ヴェルナーが立っていた。

今は6歳くらいだっただろうか。

「今のは…君が弾いたのか?」

とても久しぶりにお兄様の聲を聞いた。思わず張と勝手に弾いてしまって怒られるかもと思い手が震える。

「は、はい…」

お兄様は私の返事を聞くと、そうか…と踵を返そうとする。 

その後ろ姿を見て呼び止めてしまった。

「お、お兄様!!!まって!!!」

急いでピアノの椅子から降りようとする。焦ってドレスが引っかかる。

(このタイミングでか!!)

イライラしながら半ば強引にドレスを引っ張ってお兄様にてをばす。ぎりぎりというところで屆かず、転ぶ。

「お嬢様!!」

コレットが心配そうに駆け寄ってくる。

(あぁ、私は何をしているんだ。)

お兄様はこのゲームでは攻略対象。近づかない方がいいに決まっている。でも、あの後ろ姿…寂しそうで泣きそうな姿のお兄様を放っておけるほど私の格も悪くない。

まぁ、その手は屆かなかったわけだが。

「君は何をしてるんだ…。」

ひょいっと私を持ち上げる。その視線の先にはちょうどお兄様の目があった。あぁ、お母様と同じの目だ。

そこで、つい私のコバルトブルーの目から涙が出た。

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