《Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~》運命の歯車。
アルセス辺境伯が父親とアリサを連れていく姿を見たあと、母親に抱き上げられたまま騎士爵邸に戻り居間で時間を潰していると、臺所に通じる扉が大きな音を立てて開かれた
「アルス!」
そこには息を切らせたアリサが居て、俺は驚いてしまった。
「アリサ先生、どうかしたんですか?」
「どうもこうも……」
アリサは俺の手を引っ張って「アルス、すぐに靴を履いて!」と命令してきた。
何か大事な事が起きているのだろうか?
俺は首を傾げる。
「アリサ先生、そんなに慌てて、どうしたんですか?」
「いいの! 今は! それよりも早く!」
よくは分からないが、もしかしたら辺境伯が俺のことを呼んでいるのかもしれない。
「わかりました」
俺は水汲みの手伝いをしてから用意された木を削っただけで作られた靴を履いてから、アリサ先生に手を引かれて家を出ようとすると「アリサさん」と母親が後ろから聲をかけてきた。
振り返ると怒った表をしている。
「アリサさん。昨日は、息子が怪我をして戻ってきたのはお忘れですか? それに……もうアルスには魔法を教えないという約束をお忘れですか?」
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「――そ、それは……」
魔法を教えない?
つまり、俺には魔法の素質が無いから魔法を教えないということか?
それって……もう俺には何も期待してないってことじゃ……。
「お母さん、それって――」
「何をしている? どうしてアルスを連れ出そうとしているのだ?」
「アドリアン卿――」
「君は……」
父親であるアドリアンと、アリサの間に張のある空気が生まれる。
初めてじる嫌な空気。
「お父さん。一、何があったのですか?」
俺が、父親の名前を呼んだときに父親が悲痛な表を見せたのが分かった。
でも、それが何故だか分からない。
「アルス、一つ聞きたい」
「はい?」
「お前は……誰だ?」
「――え?」
一瞬、父親が何を言ったのか理解できなかった。
どうして、そんなことを聞いてくるのか分からない。
「アルス?」
答えを躊躇していると、アリサ先生が、俺の名前を呼んできた。
その表から読み取れるのは落膽?
俺は……何か答えを間違えた?
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「どうして、僕は……」
俺は日本人の桜木優斗で、そしてアルスで……。
意識や記憶や知識が混ざりあった……。
深く考えてこなかった。
元の記憶や経験が、その人間を構する領域だとしたら、それが混ざりあった自分というのは、どういうものだ?
「よく分かった」
父親は、俺と手を繋いでいたアリサの手を払うと俺の手を摑んで歩き始めた。
歩みがとても速い。
まったく子供のことを考えてない歩みで――。
「あなた! アルスがどうかしたの?」
母親が走ってくると、俺と父親の前に立ちふさがった。
「アリサ殿! 眠りの魔法を! これは辺境伯の命でもある!」
父親が、いつもとは違った威圧的な聲で、アリサに命令すると、數秒間、迷ったかと思うと母親が膝から崩れ落ちた。
「――なっ!? アリサ先生! どうして!?」
突然のことに俺はんだ。
俺の言葉を聞いたアリサが一瞬、何かを堪えるような表をしたあと、俯いてしまう。
彼が何も説明してくれない。
もしかして、先ほど俺を家から連れ出そうとしたことに関係しているのでは?
だけど――。
どうしてだ?
理解が追いつかない。
一、何が起きている?
アリサの方を見ても、彼は俯いたままで表を見せてくれない。
ただ一つ分かったことは、辺境伯が関わっているということ。
そうじゃないと、整合がつかなすぎる。
「ごめんなさい、ライラ。ごめんなさい、アルス……」
彼は、俯いたまま謝罪の言葉を繰り返すだけ。
どうしてだ?
どうして、謝ってくる?
問いただそうとしたところで父親が俺の手を引っ張ってくる。
母親の橫を通り過ぎようしたところで「アルス……」と、魔法で殆ど意識が無いというのに俺の名前を弱弱しく紡いできた。
「ここは……」
父親に連れてこられたのは川原だった。
そこは魔法の練習をしていたところ。
そして周りには円陣を組んでいる1000人以上もの兵士達。
何が起きている?
円陣の中心には、俺と父親だけ。
これって、まるで――。
――まるで何かを討伐するようではないか?
「アルス、最後に問う。お前は誰だ?」
父親は腰に刺していた剣を引き抜くと俺に向けてきた。
これで2度目の問いかけ。
さっきは沈黙で答えた。
そして父親の態度が変わった。
もしかして、俺が転生者だということが分かっているのか?
ただ、それを言っていいのか?
貴方の子供は、貴方の知っている子供ではありませんと――。
――桜木優斗だと言うのか?
異世界から來たというのか?
どういう冗談だ……。
異世界人だから、殺される世界なのか?
そんな世界なのか?
「ぼ……僕は……痛――ッ」
話をしている途中で、飛んできた矢が軽い音を立てて、左肩に刺さっていた。
「アルセス辺境伯! まだ、息子への問いかけは済んで――」
「即答しなかったのが! その答えだ! アドリアン卿を保護しろ! 魔王カダードが覚醒する前に殺せ!」
父親が、「待ってください! まだ!」と言いながら俺に近づいてきようとしたところで、兵士達が父親を押し止めた。
「魔王カダード? 誰だ……ソイツは――」
「白々しい」
忌々しそうな顔をしてアルセス辺境伯が手を振り下ろす。
すると引き絞られていた矢から數百に及ぶ矢が、俺の立っていた場所に降り注ぎ最初の數本は痛かった。
でも、途中から痛みが分からなくなっていき、何かが刺さる音だけが聞こえてきた。
「あ……ああ……」
俺は川辺に倒れる。
力がらない。
から何かが抜けていく。
急速にから熱が抜けていき凍えるほどの寒気が押し寄せてきて、急速に眠気が襲ってきた。
意味が分からない……。
転生者は……、魔王と呼ばれるまで嫌われる存在なのか……。
なんだよ……。
転生が良かったとか思っていたけど、そんなのまったくの噓じゃないか――。
「魔王カダード! これで止めだ!」
かすことが出來る目だけを聲がしたほうへ向ける。
そこには、アルセス辺境伯が両手で剣を握り締めている。
そして、その剣先は俺の元に向けていた。
きっと、あれが振り下ろされたら俺はすぐに死ぬ。
いや、振り下ろされなくても、もう助からない。
自分のだからこそ分かる。
「……アルス、すまない。父さん、母さん、そして――アリサ、幸せにできなくてごめん」
きっと、俺の行が悪かったのだろう。
自分の選択した行が、誤解を生んだのだろう。
だから、父親や母親が、アリサが――、傷つくことになった。
「俺は、本當にダメだな……」
心臓の鼓が。
心臓の律が遅くなっていく。
聲を出そうとしたけど……聲にならない呼吸しかでない。
「何故だ? 何故……壊れたを捨てて……正を現さない? それに何故、両親やアリサのを案じる?」
アルセス辺境伯が揺した表で俺を見下ろしてきている。
両手に握っている剣も、先ほどとは違って震えているようにも見えた。
その時だった。
ほとんど聞こえていなかった鼓を揺さぶるほどの巨大ば音が聞こえてきた。
「魔族だ! 魔王を助けにきたんだ!」
「魔王を助けにきた? 愚かな人間共よ! 我は四天王の魔法王ラルググラスト! 魔王様を殺した勇者を殺しにきたのだ! それが何だ? 貴様ら人間は、その勇者を殺そうとしているとは稽ではないか! アハハハッハ」
「魔王を……ころ……した……?」
辺境伯が顔を真っ白にして俺を見下ろしてきた。
「知っているか? 人間よ、魔王を殺した勇者というのは全ての力を失う。それは――」
魔族と自稱した者の言葉に「うそだ、うそだ! そんなバカな……。それでは私は魔王を倒した勇者をこの手に――」と錯気味に辺境伯はんでいた。
「興が削がれた。貴様らのような短絡的な人間を相手にするのも時間の無駄と言うものよ。それでも勇者の縁者は殺しておかねばな」
「……す?」
今、両親を殺すといったのか?
ようやく理解した。
俺がじていた悪寒は、この魔族のものだったと――。
父親と母親が殺されてしまう。
助けないと――。
ようやく見ていられる片目で、父親が立っているほうを見ると、父親を遮っていた兵士のが鎧ごと紙くずのごとく切り裂かれていた。
「貴様が! このガキ――勇者の父親だな? 次代の力あるものが生まれる前に死んでもらおう!」
魔法王ラルググラストが、魔力を纏った杖を父親であるアドリアンの元に向けて突き刺そうとしている。
鎧を著ていた兵士の鎧すら紙くずのように砕した杖の一撃。
あれをけたら父親は助からない。
その様子を見ていて、俺は既視をじていた。
まるで同じ風景を見たことがある。
その時は、何もできずに全員が殺されて――。
だから……。
その時にじた思い。
父親を、母親を、守りたいという気持ち。
また、何もできない思いを――。
また、何も出來ない気持ちを俺は……僕は……。
「馬鹿な……瞬間移の魔法……だと?」
「…………った…………こん………るから――」
助ける。
今度は助けるから――。
そのために……僕は……。
混在した意識が、アルスの記憶を思いを俺に伝えてくる。
気がつけば、俺のは父親と魔法王ラルググラストとの間に割ってっていた。そして、魔法王ラルググラストの杖は俺のを貫いていた」
致命傷も致命傷。
絶対に助からない。
だけど……。
ようやく理解した。
俺の魔法発に必要なのは誰かを守りたいと思う気持ち。
「おのれ! 化けめ!」
魔法王ラルググラストが、そこでようやく事態を理解したのか魔法を放とうとしてきた。
俺は、最後に笑う。
どんな魔法だろうと俺が今から使う魔法には葉わない。
その魔法は――。
「崩れる!? が!? 不死たる私のが!? おのれ! 勇者! 貴様は一何者だああああああああ」
魔法王ラルググラストが消滅すると同時に俺は川原の上に落ちた。
きっと、その衝撃で刺さっていた矢は、さらに刺さってきたと思う。
でも、もう……何もじない。
何も聞こえない。
ただ、誰かが泣いているような聲だけが聞こえた。
「アルス、起きなさい」
 優しげな母親の聲が聞こえてくると同時に俺は目が覚める。
「ここは……」
周りを見ると、母親が心配そうな表をしていた。
自分のをるが、どこにも傷がない。
「お母さん、アリサ先生は?」
「アリサ先生? 何を言っているの? ほら! 早く起きて顔を洗ってきなさい」
一、何が起きた?
さっきまでの出來事は全て夢だった?
幻だったのか?
いや、あのリアリティは、どう考えても……。
俺は顔を洗いながら考える。
もちろん瓶にっている水にも々なが浮いているし、どう考えても――。
「巻き戻った? それとも……」
くそっ……。
訳が分からない!
ただ、最後に聞こえた泣き聲。
それは、どこか知っている聲だった。
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