《Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~》私は信じているから。

「――そ、それは……」

俺は、ジャイガルドとアレクサンダーを睨みつける。

報が洩れてしまった以上、既存の計畫は使えない。

なら、臨機応変に計畫を変更するしかない。

――大丈夫。

まだ3週間もあるのだ……。

いや、正確には2週間だが――。

「それにしても、まさか引きこもりをしていたお前が魔法を使えたなんて始めて知ったぞ? 誰に習った?」

父親であるアドリアンは、疑問に思っただけなのだろう。

軽く口調で問いかけてくる。

誰にならったと聞かれても俺の魔法の師匠はアリサだ。

ただ、アリサについて話をしたところで理解はしてもらえない。

それなら――。

「分からない、無我夢中でフィーナを助けたいと思ったら出來た」

「そうか――」

フィーナが俺に助けられたと言っていた言葉から推測した結果、今の言葉がベストだろう。

「それよりも、この荷車と馬は?」

「これは、フィーナの妹レイリアを乗せるだよ」

「――え?」

「お前は、まだ地理をきちんと理解していないようだからな。商業國メイビスにいくよりもアルセス辺境伯が治めるアルセイドに向かったほうが道は平坦だし近い。それにアルセイドにも醫者はいる」

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「……」

そこは、商業國メイビスに行くと言うべきところだろうに!

「どうかしたのか?」

アドリアンが不思議そうな表で俺を見てくる。

「い、いえ……」

俺の計畫が臺無しだ。

それに領民一人を救うために、ここまで大掛かりな対応をするなんて馬鹿げている。

本當に助かるかどうか分からないのに……。

「それに、アルセス辺境伯へ願い出れば借金をすることになるが、領民を救うことも出來るからな」

「……それは、まずいのでは?」

あまりにも一人のためにハルス村全員に迷がかかる。

そんな采配をすれば、俺だったら一人だけを優遇するなと文句を言う。

「どうかしたのか?」

「いえ……ですが、借金をするということは返すということですよね?」

「そうだな、だが人の命には代えられない。俺もずっと考えていた、一人の領民のために、借りれまでして村の全ての人間に迷をかけていいものかどうかとな……」

「なら!」

「アルス! お前が目を覚まさせてくれた」

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「え!?」

「魔法で治療費を稼ぎ、そのお金で商業國メイビスから醫者を呼んでくると、ジャイガルドとアレクサンダーを説得したらしいな? それで山脈を越えるために食料と防寒著がしいとお願いした。――そうだな?」

俺が出任せで言った言葉が全部、曲解して伝わっている……。

しかも、俺は村を見捨てる気まんまんだったのに――。

ただ、ここで本當のことを言うわけにはいかない。

「は、はい……」

「さすがは私の息子だ! 自らの命を帰り見ず魔を倒して治療費を稼いで領民を助けるとは! お前も知らないうちに次期領主として長しているんだな!」

どうしよう……。

なんだか、いいじで話が纏まっている。

「村の皆は、許可をしたのですか? 一人のために借金をすることを了承したのですか?」

「もちろんだ! お前が一人でも! フィーナの妹レイリアを子供ながら助けようと隠れながら戦したことを聞いた村の人間は全員、子供にばかり負擔はさせられない! と、言っていたぞ?」

「……そ、そうですか……」

こいつら、みんな……お人よしすぎる。

何が! 子供が! 頑張っていたら、大人も手助けしないといけないだよ……。

大人は、そんなものじゃないだろ?

もっと自分のため!

自分の利益のためだけに他者を食いにするのが人間の本質だろ!

何を……。

何を偽善ぶっているんだ……。

くそっ、俺の知っている大人は、もっと――。

――もっと自己保の塊だったのに!

それなのに目の前で、たった一人の人間を助けるために行している人間たちを見ると、何故か知らないが無償に苛立ってくる。

俺のときは、誰も手をばさしてくれなかったのに!

どうして……。

「――大丈夫? アルス」

考えこんでいると、後ろから俺を母親が抱きしめてきた。

「なんだかすごく辛そうな表をしていたけど、何か悩みごとでもあるの?」

母親が悲しそうな表で俺の目を見てくる。

「べ、べつに……」

何故か分からない。

でも母親の瞳を見ていると自分がどうしようもない人間に見えてくる。

「ライラ、アルスをアルセス辺境伯のアルセイドに連れていこうと思う。フィーナの妹レイリアの容態がお前も気になるだろう?」

「……はい……」

まったく俺のシナリオとは関係ない流れになってしまった。

俺には頷く以外の選択肢はなかった。

明日には、出発すると言う話になり俺は川原の巖場の上で溜息をつきながら小石を川へ投げ込んでいた。

「はぁ……、最悪だ……」

一人、溜息をつきながら悪態をついていると、巖場の下から俺を見上げて「アルスくん……」と、フィーナが話かけてきた。

「何だよ?」

「……しアルスくんと、お話がしたくて――」

「……そうか、良かったな。村全員が協力してくれることになって」

「うん、これも全部、アルスくんのおかげだね……」

「おれのおかげか……」

俺は村を捨てるために行していた。

それが結果的に、フィーナの妹レイリアを助ける結果に繋がっただけだ。

そう――。

全ては偶然が重なっただけ。

俺は、何もしていない。

俺がしたことと言えば俺自のためにフィーナとジャイガルドとアレクサンダーを騙しただけだ。

「俺は何もしてないさ」

「ううん、アルスくんが行したから、今があるんだよ? だから……」

「だから! 俺は何もしてないって言っただろ!」

思わず怒鳴り聲が出てしまった。

本當は、彼に渡していたを誰にも見せないように説得するつもりだった。

でも、ばずにはいられなかった。

拒絶の言葉を紡がずにはいられなかった。

自分が何もしていなのに、それなのに褒められるなんて、そんなのは、耐えられなかった。

それは、他人を苛めから助けたあと、やってもいない事を、やったように言われて全ての俺のせいにされたときと同じだから。

それだけは認められない。

そんな俺の心境を理解していないのだろう。

フィーナが巖場を登ってくると俺の両手を摑んできた。

「ううん、アルスくんが何を思って、私に頼ってきたかは分からない。でも――。妹を助けるために手を差しべてくれたのは……」

「ちがう……」

「――え?」

「俺はお前を利用しようとしただけだ」

「……やっぱり……、そうなのね……」

フィーナは、俺のことを悲しそうな表をして見てくる。

その瞳は、どこまでも澄んでいて青い。

「私のアイテムボックスは、収納したときにね。全てのが一覧で表示されるの」

「――なっ!?」

俺は驚きの聲を上げた。

つまり、それは……。

がアイテムボックスに木箱を収納していたときには、すでに中を知っていたということになる。

「そうか……あの怪訝そうな表をしていたのは……」

「うん、箱の中がね、アルスくんが言っていたのと違ったから――」

「なら……、どうして父親に言わなかった?」

「だって、私はアルスくんに助けられたし、それに信じているから――」

「何をだよ……、さっきも言ったろ。俺はお前たちを騙していたんだよ」

「……でも、アルスくんは妹を見て話しをしていたとき、すごく苦しそうな顔をしていたから……きっと――」

俺は彼の手を振りほどき立ち上がる。

「誤解もいいところだ! はっきり言ってやるよ! 俺は村を捨てようとしたんだよ! そのために、お前のアイテムボックスの能力が必要だっただけだ! 商業國メイビスに著いたらお前と別れるつもりだったんだよ!」

俺は、めていた言葉を口にする。

「それにな! この村は魔王が封印されているんだよ! もしお前が俺達についてきて醫者を連れてきたとしても、レイリアは死んでいた可能の方が高いんだよ! 分かるか? 俺は自分の事しか考えていないゴミ屑だ!」

息を切らせながら、ずっと心の中でフィーナに隠していたことを告げる。

どうせ、失敗したんだから、もうどうでもいい。

隠しておく必要もない。

それに、下手にいい人に見られるよりも真実の俺を見てもらって嫌ってもらったほうが遙かにマシだ。

いい人なんて……偽善者なんて反吐が出る。

ましてや勘違いされたまま、そう思われるなんて気が狂いそうな程、れることが出來ない。

「わかったか? 俺がどれだけ最低な人間だってことを! 幻滅しただろ? 俺は最低の人間なんだよ! 好きなだけ罵ればいい!」

「……私は、それでもアルスくんを信じるよ?」

「どうしてだよ! どうして俺なんかをそこまで!」

「だって、私達の仲間では一番、弱蟲で力も良かったアルスくんが、一生懸命になって泣きながら私を助けてくれたから――だから、私はアルスくんが好きだから信じるよ!」

「……理解ができない。そんなの狂ってる……」

「うん。私も、そう思う。でもね……あの時の思いは、たぶん私だけにしか分からない。アルスくんがして守ってくれたから、私は、今、ここに居られるし妹も助けられるかもしれない。それは結果かもしれない。それでも、アルスくんが私を助けてくれたから、今があるんだよ? だから、私はアルスくんを信じる」

「何でだよ! 何で、そんなに誰かのために、肯定的にいい方向に、その人間を評価できるんだよ! 人間なんて、どいつもこいつも自分たちの事しか考えられないクソみたいなもんだろ! どうして、誰かのために――、たった一人のために自分たちの生活が苦しくなるかも知れないのに、どうして助けようとするんだよ!」

「それじゃ、どうしてアルスくんは私を助けてくれたの?」

「それは……」

その時の記憶が、俺にはない。

フィーナを助けようとしたときの記憶が俺にはない。

それなのに……。

答えられるわけがない。

「アルスくんは……誰かを助けようと思ったことはないの?」

「俺は――」

誰かを助けようと――。

誰かを助けようとしたことはある。

「アルスくんは、誰かを助けようとしたときに、理由が必要だったの?」

「理由――」

俺は――。

苛められている人を助けようとしたのは、正義からじゃなくて――。

その人が困っていたから衝的に助けただけで……。

落ち著け……。

俺は裏切られたんだぞ?

それを無かったことにはできない。

「私は、アルスくんが、どうしてそんなに苦しい表をしているのか分からない。でも、私はアルスくんを信じているから! たとえアルスくんが私を殺そうとしても最後までー―、みんながアルスくんを裏切っても最後まで私はアルスくんの味方でいるから! だって……私はアルスくんのことが好きだから――」

「…………好きか――」

こんな小さな子供にまで、諭されるとは思っても見なかった。

それに、皆が俺を裏切っても最後まで味方でいるか……。

なんだよ、それ――。

それがどれだけ大変なことか理解しているのか?

いや、理解しているかどうかは問題じゃない。

自分の意思を彼は俺に伝えてきた。

それも10歳にも満たないが……だ。

巖場から俺は川へ飛び込む。

冬に向かっているということだけあって川の水は冷たい。

ただ、火照っていた頭を冷やすには丁度いい。

「そうだな……誰かを助けるのに理由はいらないよな……」

たった一回だ。

たった一回の失敗だ。

何も考えずに行した結果、自分自が殺された。

それは自分の迂闊な行の結果であって、ハルス村の住人には関係の無い話だ。

それに、誰かのために行できる人間を放っておいたら、それこそ、過去の自分が犯してトラウマになった事件を肯定するようなものだ。

「フィーナ、すまなかった。ようやく俺は理解したよ」

俺は、巖場の上を見る。

そこに立っているであろうフィーナを。

「――え?」

そこには、黒い蝙蝠の翼を背中から生やした赤い長髪の男が立っていた。

その男の左手には、フィーナの首だけが乗って――。

は、ゆっくりと巖場を転げ落ちてきた。

俺は、その様子を呆然と見ていた。

、何が……それより、どうして、フィーナが……どうして……。

「貴様が我を封じるタリスマンを外してくれたおかげで我は復活することができた。禮を言うぞ?」

俺は慌てて山の中腹へ視線を向ける。

「そ、そんな……」

山の中腹には、アリサ先生が魔法を放った白い城が存在していた。

男が言うことが真実なら、俺が魔法を封じるタリスマンを外したから……。

俺のせいで、フィーナが殺され……。

俺の……おれのせいで!!

「きさ――」

びながら男のほうを振り返ろうとしたところで、自分のが真下に見えた。

そのとき、理解した。

おれは、魔王に殺されたということを。

「今回の勇者は、ほんとうに愚かであったな」

意識が閉じる瞬間に、魔王の言葉が聞こえた。

「うあああああああああああああ」

俺は、目を覚ました。

橫に寢ていた母親はすぐに俺を強く抱きしめてくると「怖い夢でも見たの?」と語りかけてきた。

「俺のせいで……おれのせいで……」

「アルス?」

許さない、許さない、絶対に許さない。

フィーナを殺した魔王は、絶対に! 俺のこの手で殺してやる!

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