《Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~》決戦への布石(5)
シューバッハ騎士爵邸とは名ばかりの家まで帰ってくると見たことがある後ろ姿をしたが母親と話をしていた。
「フィーナ?」
気がつけば俺はの名前を口にしていた。
魔王討伐には、不確定要素が絡みすぎると失敗する可能があったから、フィーナ達と會うことは避けていた。
――と、いうか……。
俺は、この世界に転生してきてから、大半は川沿いにいたから常に留守だった。
だからフィーナが尋ねてきても、が俺に出會うことはなかったのだ。
以前の、転生する前の世界で俺はフィーナを殺している。
それは勝手な俺の振る舞いの結果からであって、明らかに人災と呼ばれるものであって……。
――それでもフィーナは俺を信じてくれると言ってくれた。
だから俺は、また戦える。
そうじゃなかったら、俺は村を守るのではなく捨てるという選択肢をとっていただろう。
実際のところ、見たことが無い第三者がどうなろうと俺には関係ない。
――でも、それは……人として正しい選択肢なのだろうか?
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としては正しい選択肢なのかも知れない。
でも、俺は人間であり、人という存在。
そして人は、とは違う。
何が違うと問われれば、大勢の人間が答えるだろう。
人間は道を扱うことが出來る存在だったからだと。
……でも、俺は違うと思う。
地球で人類が、生の頂點に君臨できたのは道を扱うという一點ではないと思う。
それは、人類が何も持たない種族として生まれてきたからだと思う。
四足のように早く走ることも。
熊や虎のように強い力も。
魚のように早く泳ぐ能力も。
人類は持ち合わせていなかった。
だから、生き殘るために知恵を磨いた。
そして知恵を磨くことで他人との相互理解方法を確立した。
それが言葉であり文字。
そして、それはコミュニケーションの設立と維持にも寄與した。
コミュニケーションが出來れば、他者が困っていれば助ける場面にも出くわすし助けると言う行為が、経験として蓄積されていく。
蓄積された経験は文字や言葉として次代へと引き継がれる。
そして引き継がれた経験は技として伝えられ発展させられていく。
そうして、地球では生の頂點に立てた。
――そう、人類が地球に存在する生の頂點に立てたのは何のことはない。何も持たずに生まれてきたからだ。
何も持たずに生まれてきたから、臆病になり知恵を磨いたに過ぎない。
地球で人類が霊長類として頂點に立ったのは臆病だったからだ。
臆病だったからこそ、互いに協力し助け合い巨大な社會を作り上げることに功した。
――だから、俺がすることはフィーナが俺を信じてくれたように、誰かを信じることではないだろうか?
「アルスくん、大丈夫?」
ずいぶんと考えこんでいたのだろう。
は――フィーナは心配そうな顔で俺を見てきていた。
俺は、「あ、大丈夫だ」としか言葉を返せなかったが、は似懲りと微笑むと村へ戻っていった。
「モテモテね? あなたに好意があるようだけど?」
後ろに立っていたアリサが、俺の頭をでながら語りかけてくる。
言われなくても分かっているし、それと同時にフィーナは、俺が転生する前のアルスという年に好意を抱いているということも。
「……俺には関係の無いことですから――」
「――そう……」
俺の返答に納得いかなかったのか、不機嫌そうな聲でアリサが答えてきたが、俺は、そのことについて特に思うことは無い。
フィーナが、過去のアルスに好意を抱いているのはいい。
でも、それは俺ではないし……。
――何より俺はフィーナを殺した。
だから、彼には相応しくはないし人を殺した人間が、領主として領地を開拓するのも問題だとは思っている。
「アルス、フィーナちゃんと喧嘩でもしたの?」
「いえ、特に喧嘩は――」
母親が思案顔で俺に問い掛けてくるが、喧嘩はしていない。
ただ、俺とフィーナの関係は――。
誰かに言うことではないと思っている。
「ライラ・フォン・シューバッハ様。私は、アルセス辺境伯領の魔法師団長アリサと申します。アルス・フォン・シューバッハ様の魔力を確認したいので――」
「魔法指南書ね? いま、もってくるから!」
母親は、アリサの言葉を聞いて察したのか本とは名ばかりの青銅製の本の形をした何かを持ってくると、アリサに渡していた。
「アルスくん? この魔法指南書にってくれる?」
「はい」
俺は、アリサの言葉に頷きながら魔法指南書にるが変化はない。
「アルスくん、水を汲んできてもらえる?」
「わかりました」
俺は、青銅製の鍋を持って川まで走っていき水を汲んでくると臺所の瓶の中に水を注ぐ。
「それじゃってみて」
俺は頷きながら魔法指南書にれる。
すると本の中心に埋められていた石から微かなりが発せられていた。
「どうやら仮説は正しかったみたいね。アルスくんは、何か家の手伝いを領地で行うと魔力が回復するみたいね」
「……」
そうですか。
まさか、俺が魔力を回復させるのに、そんな制限がついているとは思わなかった。
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