「――いえ、別に……」

「遠慮しないで――、娘のレイリアを診てくれたお醫者様を手配してくれたのは貴方だってフィーナから聞いているから……」

「……そうですか」

本當は斷るつもりであったが、話の流れからして斷るのは逆に不自然な気がする。

ここはお茶を一杯ご馳走になってから離れるのが得策だろう。

「ほら――」

レイリアとフィーナの母親と思わしきに半ば無理矢理、家の中に連れ込まれ居間に通される。

すると、水を沸かすからとは臺所へ向かってしまった。

手持ち無沙汰になった俺は、仕方なく居間の中を見渡すが、特徴的ななどは置いていないし、せいぜい繕っている途中と思われる服が床板の上に置いてあるくらいで――。

「まだ、お湯が沸くまで時間があるから――、娘のレイリアが貴方に會いたがっていたから會ってもらってもいいかしら？」

別に斷る理由もないし、やることがない俺はの言葉に無言で首肯する。

前回と同じように居間から寢室の方へと歩いていく。

寢室へ続く扉を何度かノックすると「誰ですか？」と、聲が中から聞こえてきた。

俺が、「アルスだ。君の母親に――」と、言葉を紡いだところで「どうぞ、中にはいってください」と、――、レイリアの聲が聞こえてきた。

寢室の戸を開けて中にると、以前と変わらない４歳くらいのが寢ていて戸を開けた俺へと視線を向けてくる。

以前と同じく目の焦點が合っていないよう。

「フィーナから話を聞いたがの方は、療養をすれば良くなると聞いたが……大丈夫なのか？」

「――コホッコホッ。はい、大丈夫です。それよりも――、どうしてアルスさんは皆さんから距離を取っているのですか？」

「距離を？」

レイリアの言葉が一瞬、俺には理解できなかった。

「何を言っているのか分からないな」

「そうですか……」

「アルスさん、お醫者様を連れてきてくれてありがとうございます。お姉ちゃんがアルスさんを連れてきたらお禮を言うようにって――」

「いや、俺は何もしていない」

レイリアの言葉に俺は頭を振る。

結局、俺はフィーナの力にはなってやれてない。

彼の力がアルセス辺境伯に知られてしまう要因まで作ってしまった。

むしろ事態は悪化したかも知れない。

「そんなことないです」

「……買い被りすぎだ」

「そうでしょうか？」

「――ああ」

俺はレイリアの言葉に頷きながら否定的な言葉を返す。

「でも、アルスさんは――、前回も私を助けるために失敗してしまいましたよね？」

「――な！？」

レイリアの――、彼の問いかけに俺は顔を上げる。

は、焦點の定まらない青い瞳で俺をまっすぐに見てきているが、その表からは……、どのようなも読み取ることが出來ない。

「……君は一、何を言って――」

「前にも私は言いましたよね？　はい、こちらこそ短い間ですけどと――」

俺は座りかけていた腰を浮かすとから無意識的に距離を取る。

「お姉ちゃんも、薄々気がついていると思いますよ？　だって――、時巡りには齟齬が発生するから……。アルスさんが、最初に出會った私が、その影響を一番けていますから――。そうですよね？　桜木悠斗さん？」

「――ッ！？」

レイリアが親しそうに俺に語りかけてきた。

「――一何を言って……」

「惚けるのですか？　今回は順調に言っているので貴方に話かけたのに……。ああ、そうですか――、そこまで記憶を失ってしまっているのですね」

レイリアは、小さく咳き込むと悲しそうに視線を向けてくる。

「それでは、ライラさんが貴方を召還したというのも忘れてしまっているのですね？」

「――どういうことだ！？」