《異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します》わがまま、そして生還

暗闇の中。記憶を「何か」によって喰われてしまってからどのくらいの時が経過しただろうか。

東は暗闇の中ただただ何も考えず、いや、考えることすら出來ずに意識を失っている。

そんな中、東は見ることの出來ない“夢”を見ていた。

周りを見渡せばどこまでも続いていそうな草原。木も道もない草原。

「あなたが、アズマくんね?」

突然背後から聞き覚えない優しく風鈴の音(ね)のような凜とした聲が聞こえたので振り返るとそこには、さっきまで誰もいなかったはずの見覚えのないが立っていた。

は20代後半くらい。白のワンピースとセミロングの金の髪が風に揺れる。目は蒼眼で耳が長い。つまりエルフである。

しかし記憶のない東には彼がエルフであること、エルフが何なのかすら分からなかった。もちろん、自分の名前は覚えてなどいなかった。ただ聲がしたから振り返ったのだ。

そして言葉を理解することは出來た。

「あなたは?」

「そんなことより、早く助けてあげたら?」

「?誰を?」

「今、君と同じところにいる子」

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「今一緒にいるのはあなたですが?」

「あらあら。言い方が悪かったわね、ごめんなさい。助けてあげるのは、今君が助けたいと思っている子」

東はわけが分からなくなる。記憶のない東には誰のことなのか、分かるはずもない。本當なら。

「誰のことですか?」

「....」

「答えてください」

「はぁー...いつまでもこんなのに囚われていたらあの子を助けられないわよ?」

そう言っての手の平に黒い「何か」が現れる。

「 ︎」

東はそれを見た瞬間、背中に冷たい何かをじて1歩、後退りする。

恐怖である。記憶はなくとも以前のことをは、“心”は覚えている。東のはそれによって反応したのだ。

「なな、何ですか⁈それは!」

「これは今、あなたとあの子の頭の、正確には心の中かしら?」

は小首を傾ける。

「これは魔道が生み出したモノではなく、人が生み出したモノ。人は神的に嫌なことがあると脳が記憶を隅へと置いて封じ込める。あの子もそう。あの魔道の力で過去を思い出して、神がやられた。だからこんなのが生み出されたの」

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し沈んだ顔を浮かべた。

「記憶を喪失(うしな)わせてまで消したかったのね、あの子。ごめんね(ボソ)」

小聲で呟いたため東には聞こえなかった。

はすぐにはっとして表を笑みへと変える。

「だからね....君の中にこれが現れたのは、あの子がいる結界(かべ)の中にったからよ」

東が神様に頼んだことは「ユキナと同じ次元にる」つまり「ユキナの神と同じ存在になる」ということだった。

なので同じ存在となってしまったため、ユキナが自分の記憶を封じ込めたのと同じ「何か」が東の中にも現れたのだ。そしてユキナと同じ狀態になってしまった。

「でも、君ならあの子を助けられる。君があの子の側に寄って、支えてあげて。そうしたらあの子もきっと...」

ピキッ!

ガラスの音のようなが鳴り、空に亀裂がった。

は空の亀裂を見上げて微笑む。

「記憶は...時期に戻りそうね」

ピキピキピキピキッ

空の亀裂がさらに広がる。その間から強いが差し込む。

「あなたは、一...」

「ただのよ」

は最後に飛び切りの笑顔を浮かべる。

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「娘をよろしくね....」

パキンッ!

完全に空が割れ、辺りが真っ白になる。

真っ白な世界が広がったかと思えば俺は意識を取り戻していた。辺りはあいも変わらず薄暗い。

しかし東はここがどこなのかはまだ分かっていない。なぜ自分がこんなところにいたのか。自分は誰なのか。

東の記憶は戻ってはいなかった。

「ここは...?」

周りを見回していると自分の下の方に人、ユキナがいることに気がついた。

「っ ︎」

ユキナの姿を見た途端、東は再び酷い頭痛に見舞われた。頭が割れそうなのはさっきと同じだった。

しかし今回の頭痛はさっきとはし違った。

さっきまでの頭痛は黒い「何か」が頭の中で暴れていた。しかし今回のはその「何か」で埋め盡くされていた頭の中の一部がで覆われ始めたのだ。

頭痛が酷くなるに連れそのは本當にしずつ大きくなっていく。

何と表現すればいいのか、脳みそにを開けられてそこから頭の中を覗かれているようなじで襲われている。吐き気すら覚えるほどだ。

そしての大きさが直徑4、5センチくらいで止まり、何とか頭痛も治った。

「はぁ...はぁ....はぁ....」

荒い息を整える。何秒、何十秒か経ってようやく息が整った。

頭を手で抑えながらもう一度下を向く。

「 ︎ユキナ!」

東はユキナの姿を見るなりそうんだ。東は急いで泳ぎ、ユキナへと近寄る。

「おいっ!ユキナ、起きろ!俺だ!俺...だ....俺は...誰だっけ?」

ユキナを起こそうと肩にれて聲をかけるが自分が誰なのかを思い出せなかった。

記憶はまだ戻っていなかったのだ。自分が誰なのか。なぜこんなところにいるのか。しかしユキナのことは思い出せていた。

わけが分からないが東は、「今はユキナを連れて帰る」という思いだけを抱いた。

「ユキナ!ユキナ!...くっ、こうなったら」

「...離し、て」

ユキナの手を取って無理矢理にでも連れて行こうとした時、暗闇の中ユキナの聲が聞こえるか聞こえないかのような小聲で返される。

東はユキナが返事をしたことよりもその返事に困を抱く。

「今...何て?」

「離し、て」

「えっと...自分で行ける?」

「...行か、ない」

「 ︎どうして⁈」

「私はこ、こがいい。ここにい、れば怖い思い、しなくてい、い。だか、ら、行かない」

東はユキナの言っていることの意味が分からなかった。なぜユキナが怖い思いをしているのか、東には分からなかった。

「....本當にずっとここにいるつもりなのか?」

「うん」

「...そうか」

しばらくの間、沈黙が走る。

「私はこ、こにいた、いの。だか、らアズマは帰、って」

「....」

「外で、みんな、が待ってる。みん、なアズマが、必要。だか、ら早、く戻ってあ、げて」

「そう...なんだな。じゃあ、俺帰るは」

東のその言葉を聞いて、ユキナは目を閉じる。

魔道によって見せられていたことが頭を橫切った。“東やキリ、サナやニーナに見捨てられ、自分がまた1人にされてしまった”という幻覚を。

「(やっぱ、り私な、んていらな、いよね。ごめんね、アズマ。みんな....)」

そう涙を流し、頭をさらに沈めるユキナ。

そんな時だった。右手首を摑まれた。ユキナが思わず顔を上げるとそこには帰ってしまったと思っていた東がユキナの手首を摑んで立っていた。

「何、で?」

「何でもなにも、帰るんだよ。そのみんな?がいるところに」

「....私、はここがい、い。みんなのと、こには行か、な」

「必要だから」

「....え?」

「さっき言ったよな?“みんな俺を必要としてる”って。なら俺にはユキナが必要だ。だからユキナを連れて帰る」

「....で、もそんな、のアズマ、のわがまま....私、は行きたくな、い」

「そうだな...確かにユキナの言う通り、戻ったら怖い思いをするかもな」

「だった、ら」

「でもそれって、わがままじゃないか?」

「...え?」

「確かにユキナが怖い思いをするかもしれないところに必要だからって連れて行こうとするのは俺のわがままだな。でもユキナを必要だと思って連れて行こうとしているのに怖いからって嫌がるのもわがままだよな?」

「....」

「ならさ。さっきまでユキナのわがままを聞いてたんだから、今度は俺のわがままを聞いてもらうぞ?それが終わったら外にいるキリやサナやニーナ。みんなのわがままも聞いてもらうからな」

そう、いつの間にか記憶が戻っていた東は悪戯小僧の笑みを浮かべる。

ピキッ!

ガラスが割れるような音が響く。そして薄暗かった辺りに割れた結界(かべ)からしのし込む。さらにヒビが広がっていく。

「それに俺が守ってやる。力になれるかは分からないけど全力でユキナを守る。だからユキナ、一緒に帰ろう」

そう言って東は優しい笑みを浮かべてユキナへと手を差しべる。

ユキナの頬を再び大粒の涙が伝う。

幻覚によって傷つけられ、閉じられていたユキナの心をこじ開けて手を差しばしてくれている東。

ユキナはその手をそっと、しかし力強く握る。

「....うん」

ピキンッ ︎

完全に結界が壊れ、暗闇だった辺りがに包まれていく。意識を失っていく2人だったがその間も手を離さなかった。

「...んっ...んん....」

目が覚めると高く、豪華な天井が視界にった。

何度か見たことのある高い天井...ああ、戻って來れたのか...

「...んっ」

「「「アズマ(さん)!」」」

俺が上半だけを起こすとキリたちが聲を荒げた。王様やトールさんも含めた彼たちの表は安堵の表だった。

「....そうだ!ユキナは⁈」

東はまだはっきりとしない意識の中で、ユキナのことを思い出す。

「....ん....んんん....」

すると隣から聲が聞こえたのでそちらを見ると、ユキナが眠っていた。俺の左手を握りながら。

「もしかして...ダメ...だったのか?」

俺は恐る恐る神様に質問する。

神様が渋い顔を浮かべたので「噓..だろ?」と思った。しかし神様はすぐに笑みを浮かべてあるところを指し示した。

俺はゆっくりとその指されている方を見る。するとユキナの腕に嵌(は)められていたはずの腕が外れていた。

俺はそれに安堵の息をらす。

「....ん....ん?ここ、は?」

そう言って目を覚ましたユキナがゆっくりと上半を起こす。

「「「「ユキナ!」」」

「 ︎」

ユキナが目覚めたことが嬉しかったらしく、聲を荒げた俺以外の3人、キリやサナ、ニーナが泣きながらユキナに抱きつく。

流石に俺は抱きつけはしないが、俺もユキナが戻ってきたことに喜んでいる。

「...みんな...ご...ひっ、ごめんな、さい...ひっく...迷か、けて...ひっく...ごめんな、さい....」

ユキナも涙を流して謝る。みんなも泣きながらユキナに「謝らなくていい」「帰って來てくれてありがとう」「泣かないで」など他にも々と言葉をわし合っている。

ふとキリたちがいた場所に知った顔があった。リリーである。リリーは泣きはせずともユキナたちに何かしらの想いを抱いているのは確かだろう。

キリたちはその後數十分くらいは泣き続けたのではなかろうかというところでようやく泣き止んだ。

泣き止んで、全員が息を整え終わるとユキナが俺のところへと寄ってきた。

「...アズマ....その...ごめんな、さい....」

ユキナは今にも泣きそうな聲でそう言った。

俺はそんなユキナをゆっくりと包み込むように抱く。

「...謝らなくていいから....」

「.....」

「...お帰り、ユキナ」

「....うん....ただい、ま。...アズマ....」

ユキナは俺の腕の中?で泣き出した。

時間がゆっくり流れているかのようにじた。

______________

「アズマ。その腕ごめ、んね...」

ユキナが泣き止んでからしばらくして再びユキナが泣きそうな顔で謝る。

「大丈夫だって。クエストとかはし足引っ張るかもだけど、全然戦えないこともないから。だから気にするな」

噓ではない。クエストでは剣を使っての戦いはもう出來ないかも知れないが、固有能力で多はいけるはずだ。ダンジョンでも何度かそれで戦闘をしているのだから。

しかしそれでもユキナは申し訳なさそうな顔をやめない。

「...トール、後は頼んだ」

「かしこまりました。ではアズマさん。こちらへ」

そうトールさんに言われ、わけも分からずさっきまでいた場所とは違う、ここでは普通くらい(なのだろう)の部屋へと通された。

そういえば、初めにここに飛ばされた時は痛みとか、ユキナのことで気がつかなかったけど...ゴスロリじゃあ...ない。

今の彼の服裝は、裃(かみしも)と呼ばれる、室町、江戸時代くらいに武士が平服や禮服。それに似た服を著ている。は灰ではなくほとんど白に近いだ。

「....々聞きたいのは分かりますが、先にそちらの腕を治しましょうか」

「治るんですか⁈」

「簡単...とまではいきませんが、それでも5、6分ほどで治せますよ」

「はやっ ︎」

腕ってそんなすぐに治せるなのか?

「と言いましても、人間ではそれほど直ぐには治せませんがね。グラ様から“しなら力を使ってもいいよ”と言われておりますので」

「ああ...なるほど」

他人が聞いたら意味が分からないだろうな...

「私もそう思います」

トールさんはそう言いながら、お茶を用意し始めた。あれ?治療は?

「お気になさらず。こんな時にしか休めないので」

「はあ....」

トールさんの返事にどう答えたらよいのか分からず、曖昧な返事しか出てこなかった。

「...それでは始めますか」

「はい」

ティーカップなどを用意し終わると、唐突にそう言われた。

「では....」

トールさんが手のひらを俺の右腕、正確には肩の方に向ける。するとトールさんの手からが発せられ始め、次に俺の腕からもが発し始めた。

腕のが右肩を覆い、徐々にび始めた。そしてある程度までびると、そこで止まった。不思議と暖かい。

「これで終わりです。あとは時間が経てば治っていると思いますので」

そう言ってトールさんはティーカップに紅茶を注いで飲み始めた。

え?もう終わり?

「はい」

「....」

もういいや。神様たちの力にツッコンでたら切りが無さそうだ。ほらトールさんも首を縦に振っているし。

とりあえず時間がくるまで何してようかな?

「それでしたら、先ほどの質問に答えましょうか?」

「さっきの...ああ、はい。お願いします」

先ほどのとは、多分服のことだろう。

「あの服はグラ様の気紛れ、というか冗談ですかね」

「...はい?」

「あの服は、私がアズマさんのところへ行く際にグラ様から「アズマくんはこういうのが好きだから著ていくといい」っと言って半ば無理矢理渡され、著せられました」

「.....」

あの神様、何やってんの?俺、別にゴスロリ裝とか好きじゃないから!確かにあれを見た時はし引いたし、それがし似合っていたトールさんを可いとも思ったよ?でも、別に好きではない!

ほらあ、神様のせいでトールさん嫌なこと思い出しちゃったじゃん。顔がし赤くなっている。怒ってしまったのだろう。

「ええ...ごほんっ...というわけでこの服を著ているんです」

「はい....お疲れ様でした」

そんな會話をしている間に腕のが薄れていき、完全に消えてしまった。

するとがまるで鎧だったかのように、が消え腕が見え始めた。

「おお...」

手を開いたり、閉じたり。腕を曲げたり、ばしたりする。ちゃんとく。元通りだ。

「問題ないですか?」

「はい。ありがとうございました。トールさん」

「いえ」

俺は新しいおもちゃを買ってもらった時の子どものようにはしゃぎそうになるのを抑えながら、右腕をかす。

部屋から出ると神様以外の全員が俺の右腕を見て驚いた。しかしキリ、サナ、ニーナ、ユキナはし驚いただけで直ぐに何か納得した表へと変わった。

「とりあえず、家へ帰って安靜にするといい」

と、王様が言ってくれたので、俺らは改めて王様とトールさんにお禮を言ってゲートで家へ帰ることにした。

しかし家へ帰る前にやらなくてはいけないことが殘っていたことを思い出す。それは、リリーのことだ。

一応自己紹介みたいなことを終え、これから彼、ではなく彼をどうするかについて話し合う。

「リリーはどうしたいの?」

「ボクは....あんまりあの國にはいたくないかな。だからこっちで暮らすことにするつもりだよ」

「暮らすって、あなた住むところとか宛とかあるの?」

「うーん...ないなぁ。どうしよう?」

リリーはそう言って困り顔ではなく笑って答える。

「...じゃあ、うちで暮らすか?部屋も全然余ってるし。みんなも別にいいだろ?」

「ええ、構わないわ」

「うん。だいじょ、うぶ」

「はい。大丈夫です」

「私も構わないわ。むしろ初めからその気だったし」

「ということだけど、どうかな?無理強いはしないけど」

「...じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

「やった!よろしく、リリー」

「よろしく、です」

「よろし、く」

「よろしく」

「よろしくな」

「うん。みんなありがとう」

陣がリリーに詰め寄って々と話し合いを始めた。

おいおい、嬉しいのは分かるけど一応ここ玉座の間だからな?

そんな俺のツッコミ?などお構いなしで話しを続ける陣たち。ふと後ろ振り返ると王様もトールさんも呆れた顔をしている。

本當にごめんなさい....

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