「クッ……離せ」

「じゃあキュウを返せ」

「……それはできん」

「ならこっちも同じだ」

キュウは気絶しており、だらんとした狀態で抱えられている。周りの者も、烈毅に近づこうとするが、デッドを人質にされて迂闊に近づけない。

「何故キュウを狙う？」

「人間如きに教えるわけ無いだろ」

「はぁ……わかった。じゃあやり方を変えよう」

烈毅は、デッドの右腕を摑み、関節技を掛ける。徐々に力を強めていき、折れる寸前まで來るも、口を割ろうとしない。

「早く吐かないと、腕折れるぞ？」

「…………カゲロウ、やれ」

「何を言って……！？」

デッドを抑えていた烈毅の顔面に、カゲロウと呼ばれる妖狐の膝蹴りがモロにる。かなりの強烈さに、烈毅は數メートル程吹き飛ばされる。

「いってぇ……」

口端からはが垂れて來る。口の中は、の味で満たされ、烈毅は口の中に溜まったを吐き出す。

「こいつを持っていろ。すぐに片付ける」

カゲロウと呼ばれるその者は、キュウを起き上がったデッドに渡すと、前に出て來る。

二メートルはあろう長に、発達した筋。八本の尾。長い金の髪を後ろに束ね、幾つもの死線をくぐり抜けてきたような鋭い目、角張った郭、溢れ出る殺気。その者全が、死を象徴するような恐ろしいその妖狐は、烈毅へと近付いていく。

「立て。簡単には終わらせないぞ」

烈毅は無言で立ち、口端から垂れたを荒く拭う。視線が會い、數秒の間睨み合う。

デッド達は、し下がったところで、映畫でも見るような目で見ている。きっと、カゲロウが勝つと確信しているからだろう。

烈毅は、じ取った。カゲロウは只者ではないと。

先にき出したのはカゲロウ。今まで出會ってきたどんな奴よりも速いスピードで距離を詰め、大木のように太い腕を上げ、拳を作って毆りかかってくる。

烈毅はギリギリでそれを躱すと、風が遅れてやって來て、ピシッと空気を叩く音が鳴り響く。完全に避けたと思ったが、烈毅の右頬に薄い切り傷が付き、が垂れる。

「ほう、今のを避けるか」

そうカゲロウが呟くと、次は右足で強烈な蹴りが、烈毅の左肋へと向かって行く。烈毅は、それを左手だけで防ぎ、デッドの腹を目掛けて強烈な毆打。だが、それはバックステップをして躱される。

「へぇ、今のを避けるんだ」

お互い再び睨み合う形になり、両者ともに様子を伺う。その際、烈毅はしほかの場所を気にするきを見せる。それを見逃さなかったカゲロウは、その一瞬の好きを見てき出す。

「余所見とは余裕だな」

カゲロウがそう言いながら、突進の勢いを載せた重い右ストレートを烈毅にれようとする。

烈毅はニヤリと笑いを見せ、殘像を作りながらカゲロウの後ろへ回り込む。そして、カゲロウはその殘像を毆りつけ、が無いことに気がついた時には、既に烈毅の強烈な右足蹴りが、カゲロウの右肋にもろにっていた。

流石に鍛えられているだけあって、骨折まではいかなかったが、それでもかなりのダメージは與えられた。

カゲロウは、痛みを堪え、すぐに振り返り攻撃を無闇矢鱈にする。これは、相手を間合いから離れさせようとするためだ。

烈毅は、それを橫に高速でズレて躱し、カゲロウの攻撃が止むのを待つ。そして、また他の場所を気にするきをする。

「おいカゲロウ、お遊びはその辺にして、さっさとその人間をぶち殺せ」

「わかってる。だが、もうし時間がかかる。大人しく待っていろ」

その返答を聞いた一行は、目を見開いて驚いた表を見せた。それもそのはず、カゲロウは今までそんな要求をした事が無かったからだ。

カゲロウは、いついかなる時も素早く仕事を終わらせて見せた。強者故に、時間を掛けることなど無かったからだ。

それ程までに、烈毅が強大な相手だと言うことを、その時デッド達は、悟った。自分たちも、覚悟をしなければならないと。やられる覚悟を。

「お前、名前は？」

「人村烈毅」

「俺はカゲロウ」

「カゲロウ……なぜお前は戦爭を起こそうとする？」

「……話す気は無い」

「……そうか。じゃあこうしてくれ。俺が勝ったら、なぜそんなにも戦爭をして領土を拡大したいのかを教えろ」

「……わかった。なら、こっちにも條件がある。俺が勝ったら……一緒に戦ってくれ」

その言葉を吐いた瞬間のカゲロウの顔は、どこか寂しそうで、どこか悲しそうで、何かを耐えているような目をしていた。

「けは無しだ。本気で行くぞ」

「ああ。俺も本気で行く」

両者ともに力をため、全にオーラを纏う。地面が揺れ、周りの者に存在を強く與え、その場にいるだけでも息苦しくなるような熱気に當てられ、思わずデッド達は、立ちくらみをしてしまう。

「さぁ、第二ラウンドの始まりと行こうか」

烈毅が指を鳴らし、それが合図かのように戦いが始まる。そして、激しい轟音と共に、その場には暴風が吹き荒れる。

そんな中、かにく一つの影が―

「さぁ、こっちもき出しますかね」

息を殺し、その影は近づく。一歩、また一歩と……。