《村人が世界最強だと嫌われるらしい》最善策 9

「はぁ……はぁ……キツいな」

一萬の相手と戦いを繰り広げた烈毅。そして、目の前には、先程と変わらない一萬……いや、それ以上の數の過激派。地面には気絶して転がる一萬の過激派。まさに地獄絵図だ。

額からを流し、腕は痣だらけ。口の中はの味で充満し、呼吸は整わない。

「かれこれ一時間は戦ったか? もうあいつらは遠くへ逃げきれたとして、ここからどうするかな……」

膝を付いて肩で息をする烈毅。が頬を伝うのがわかり、荒く手で拭う。そして、その自分のを眺め、目の前の地獄を見る。

「さて……じゃあ第三ラウンドと行きましょうかね」

その言葉と共に、烈毅は強く地面を蹴って一萬以上の軍勢に立ち向かう。全員が五本以上の尾を持つ強者。その中に、一人で烈毅は立ち向かう。

――時間は遡り、その頃のミーシュは。

「早くお城まで行って、シェルドさんとネキツさんにキュウを屆けないと!」

今自分が出せる全速力で町中を駆け巡るミーシュ。烈毅のように、ピョンピョンと跳ねて行ければ良いのだが、ミーシュにそんな力は無い。

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ミーシュの全速力だと、城までは何日も掛かってしまう。その力の無さに、ミーシュは躍起になる。

「あぁ! もうちょっと痩せとけば良かった! 最近怠けてたから足遅くなっちゃった!」

ぶつくさと大聲でびながら走り続ける。すると―

「う、うぅ……ここは……」

「キュウ!?」

ミーシュは両足で急ブレーキをかけ、地面には十メートル程のブレーキ痕が殘る。

「起きたの!? 大丈夫、怪我は無い!?」

し首の裏が痛むくらいで、後は何ともないのじゃ……」

「良かった〜、でもまだ安靜にしててね。後何日かは走ってかないとならないから」

「そうなのか……すまんミーシュ殿。迷をかけるのじゃ……」

「謝らないで。迷なんかじゃ無いわ」

ニッコリと優しく微笑みかけるミーシュ。その顔を見て、キュウも疲れきった顔ながらも笑顔を作る。

「さぁ、ここからもうひと踏ん張りね!」

「頑張れなのじゃ」

そして、さらに走り続けていると、キュウの耳がピクピクとき、その瞬間キュウは顔をあげて、目をキラキラと輝かせる。

「どうしたの?」

「このじ……父上なのじゃ!」

「えっ……」

次の瞬間、ミーシュの上に突如覆いかぶさる影。そして、それに気づいて見上げた頃にはもう誰もおらず、ミーシュは後ろへ振り向く。

そこには、殺気を全開に出しながら仁王立ちしているシェルドの姿があった。拳にはぎゅっと力を込め、踏みしめる一歩は、その場に小さいクレーターが出來るほどに力強い。

ミーシュは、その姿を見た瞬間に足がかなくなり、聲も出せなくなる。その殺気に當てられて。

やばい……聲が出せない…………怖い!

「お前は俺の娘を抱えて何してる?」

言葉に込められた殺気でさらに怖じ気立つミーシュ。正直、この時は死を覚悟した。自分でも、弱くはないと自負しているが、そのプライドが一瞬でズタボロに砕かれる。

「違うのだ父上! この人はミーシュ殿といって、我を助けてくれた人なのじゃ! だから殺気を納めてください!」

そうキュウが言うと、シェルドはすぐに殺気を納める。その瞬間、ミーシュは恐怖とももに、自分の自が削がれ落とされる。

「すまなかった。確認せず殺気を放ってしまったことは詫びをいれよう。それで、なぜこんなところを走ってる?」

「そ、それは……」

まだし、気持ちが落ち著いていないため、頭の回転が鈍い。そのため、うまく話そうとしても口がかず聲も出ない。

すると、ミーシュは一度深呼吸をして、自分のを噛み、冷靜さを取り戻す。口端に溜まったが頬を垂れたのをキュウが見つけ、聲をかける。

「ミーシュ殿、大丈夫か?」

「ええ、ありがとう。もう大丈夫よ」

「ふっ……強いな」

「何か言いましたか?」

「いや、何も」

「なら、話させて貰います。まずは―」

それから、丁寧にこれまで起きた事を話すと、シェルドはしワクワクした顔になりながら何かを急かすような作をする様になる。

「それで、その『人村烈毅』というのは今は何処にいるんだ?」

「多分まだ同じ所にいると思います。もしいないとなると、私もわからないです」

「そうか……まぁ何とかなるか」

「あの……良ければ、人村烈毅を手伝ってあげてください。彼、無茶ばっかして見てられないところがあるので……」

「わかった。キュウを救ってくれた恩人の言うことは聞こう。……『人村烈毅』だな?」

「そうです。よろしくお願いします」

そうして、シェルドは先を急ぎたがる子供のような顔つきで烈毅の元へと走り去っていった。

その後ろ姿を見つめ、ミーシュは靜かに呟く。

「私、もっと頑張らなくちゃね……」

「ん? 何か言ったかミーシュ殿?」

「いや、何も言ってないわ。さて! じゃあここから長い旅になるけど、全速力で帰るわよ〜!」

「わかったなのじゃ〜!」

ミーシュは、キュウを抱えたまま再び走り出す。靜かに決意を固めながら。

『烈毅。私強くなるわ。私はあなたに合ったとき、賢者になるのはめんどくさいと言ったけれど、やっぱり賢者目指してみるわ!』

そう、心の中で呟いた。

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