《村人が世界最強だと嫌われるらしい》 7

『ん……なんだろう、この覚……かない』

「逃げろ! ルーフ!」

「でもパパとママが!」

『何だこれ……誰かに追われてるのか?』

烈毅は、が一ミリたりともかせない中、頭の中に鮮明にその景、音、臭い、ありとあらゆる覚をじていた。ただ、聲は出ない。

「これを持って逃げるんだ! ババ様が言っていた『人間』に何としてでも渡すんだ!」

「で、でも!」

「ルーフ! いいかい? あんたが逃げてくれなきゃいよいよ『エルフ』は全滅しちまう。それだけは避けなくてはならないの。その薬も、屆ける人に屆けるの」

『薬? 人間? それにエルフって……まさか』

「……わかった」

「一つだけ気をつけなさい。それは道連れの渓谷だ。あそこは絶対に渡ってはいけない。いいね?」

「わかった」

「さぁ、お逃げ!」

そういい、ルーフと呼ばれたエルフは、ポーチの中にった薬と食料を持って走り去った。その背中を見つめる二人の夫婦の瞳は、暖かかった。

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『ルーフ……か』

そこからは深い眠りに付き、烈毅の意識は完全に途絶えた。死んだように眠った烈毅だったが、次の日起きるのは誰よりも早かった。

「…………ふわぁ〜。目が覚めた」

的には何十時間と眠っていたようだったが、実際はその半分くらいしか寢ていない。ほかの者は、皆ぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。

「コーヒーでも飲むか」

し離れた場所で、異次元アイテムボックスからコーヒーポットとマグカップ、水筒を取りだす。地面に胡座をかいて座り、コーヒーを作る。

立ち上る湯気を見ていると、昔の事を思い出した。

「そういや、あいつらとも一緒にこんな風にコーヒーを飲んだ事があったな」

それは、無殘にも殺されてしまった烈毅の數ない理解者兼友達の事だ。まだ本當にこの世界に來たばかりの頃、よくこうして暖をとって與太話をして、笑いあった。

「今じゃもう一人だよ……」

『そんなことは無いぞ、烈毅』

ただの獨り言に返事が返ってきたことに驚き、後ろを振り向くと、そこにはファイアがいた。

「ファイアか……」

『もう一人ではないだろ。こんな事を言うと不謹慎かもしれないが、烈毅には新しい仲間が増えた。そうだではないのか?』

「ふん、そうだったな……俺はし、視野が狹いのかもな」

『全くだ。コーヒーの一杯くらい、我をっても良いと思うのだがな?』

「今度からはそうするよ」

「ならば、私も混ぜてもらおうか」

「お前まで來たのか……クルル」

さらにもう一人、クルルまでもその場に歩いて來たのだ。

「私は烈毅に助けられた。烈毅の友人達とはいかないかもしれないが、私も付き合わせては貰えないか?」

「そんなことないよ。お前も立派な友達だよ。……これからはマグカップ三つ用意しないとな」

『そうだな』

そして三人は他も無い話をしながら、至福の一時を過ごした。そして時は経ち、再び出発の時間になる。この時間が、ずっと続けばいいのに―

そして時は経ち、道連れの渓谷まで殘り一日の距離まで來た烈毅達は、最終確認の為皆で集まり話し合いを始めたのだった。

「いいか? 俺は"異次元アイテムボックス"を使ってお前らを安全地帯に移させた後、速攻で道連れの渓谷とやらを渡る。直ぐに出られたら功、直ぐに出られなかったら落ちたと思え」

「補足だが、俺は烈毅と一緒に渡る。どのタイミングで來るかは分かっているからな」

「本當にそれでいいのか? 俺には念話もある。それを使えば話せるが」

「直接の方がいいこともある」

「父上……」

心配なのか、キュウはどこか寂しそうな目をしてシェルドを見つめる。シェルドは何も言わずキュウをでる。それを見ているネキツも、顔には出していないが、腕を組みながら摑んでいる裾に皺がよる。

「それにな、俺にはあそこを渡りきらなきゃならないんだ。そうでないと落ちていった仲間に顔向けできん」

「シェルド……」

「俺はあの日逃げてしまった。だから今度こそは……!」

「もし、お前が危機に陥ったら俺はお前を助ける。お前が落ちたとしても、俺が一緒に落ちて下からお前を橋の上に投げる」

「……わかった」

「そうなると、私達も落ちて死んじゃうんだけど?」

「心配すんな。俺はそう簡単には死なないから」

どこからそんな自信が出てくるのかはわからないが、ミーシュ達は烈毅を信用している。そのためか、何も文句は言わず、烈毅について行く覚悟が出來ている。

「よし、とりあえずは今確認した通りだ! それじゃ解散!」

皆がバラバラに散らばって行く中、烈毅はネキツにその場にいてくれと頼まれ、その場に殘る。

「烈毅はん、行ってしまう前に一つだけ頼みがあるんやけど、ええか?」

「なんです?」

「シェルドを……よろしゅうな。烈毅はん」

「…………絶対、とは言えません。ただ、俺は一人も死なすつもりありません。それだけは言っておきます」

「ああ、よろしゅうなぁ……」

そう言って重い足取りでネキツは自分のテントへと帰って行った。正直、烈毅にはその背中が小さく見えた。あんなに頑固そうなネキツが、旦那の事を思って小さく見える。本當に仲のいい夫婦だなと、烈毅は心底思った。

「……よし、渓谷の向こうは何があるか分からないけど、とりあえず気を引き締めて寢るかな」

烈毅は、あの日見た夢を覚えてはいなかった。否、夢を見た事すら覚えてはいなかった。

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