《ひねくれ魔師が天才魔法使いよりも強い件について》第12話 蝶

五分ほど前

塡「舞、時間稼ぎ頼む。」

とだけ言い殘した塡は三十メートルほど離れ、徳を出來るだけ早く屠る為の準備をしていたのだが、塡が恐れていた事態が起きてしまっていた。

他部隊の合流による戦。

それにより、塡または舞もしくは雙方の喪失。

期末テストで學年上位を取るにはここで勝たないといけない。

そのためには四人の生存は必須條件であり、一人でも失えば上位三チームにる事すら危うい。

それを理解していたため塡は早めに戦闘を終了させようとしていたのだが、自分が戦闘するということを中心に考えていたせいもあり、無駄な手間を食ってしまった。

もし、舞にもまともな戦闘をさせるということを頭にれていたならこんなことにはならなかったかもしれない。

?「殘念、あんたの負けよ」

背後から聞こえる聲にハッと振り返った時にはもう遅く、を貫く刃にただ驚くことしか出來なかった。

?「良くもうちのチームを半壊させてくれたわね。おかげで一位が夢のまた夢じゃない。」

刃を押し付けたは風でなびく髪をウザそうに抑えながら、二本目の刃を取り出す。

?「念の為もう一本刺しておくわ。復活されて後ろから刺されるのは嫌だしね。」

避けなければいけないのは理解しているが、中に広がっている痺れのせいで上手くかない。

振り下ろされる刃を前に橫に転がることで何とか急所を外したが、それでも再び振られる刃は避けられないだろう。

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敗北を確信した時に事件は起きた。

ドォォォォン!!!という落雷のような音が鳴り響き、周辺を眩いが支配する。

魔法陣が地面を覆い、発の甲高い音はにピリピリとした覚をもたらす。

?「なに?」

衝撃により吹き飛ばされたはゆっくりとを起こし、まだチカチカする目をパチパチさせて周りを見渡していく。

そして、ある地點で目を止める。

それは、眩いと轟音の中心。

異様に白いに加え、頭には太の模式図の様な鬣、背中にある純白と漆黒の翼は、天使のような溫もりと、悪魔のような威圧を思わせる。

?「な、何よあんた」

?「▓▓▓▓▓▓▓▓。」

?「な、なんて」

?「▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓。あぁ、周波數が一定値に達してないのか。確かにこれでは、丸型のにサイズが合わない星型の質をねじ込もうとしているのに変わりないからか。」

?「何言ってんのよ。」

異質なのは重々承知だが、聲にならないような音によって更なる異様さが漂ってくる。

甲高くも超低音にも聞こえる音は鼓を刺激し、本能による危険信號が鳴らせないほどの威圧を與えてくる。

?「あんた、ほんとに人間なの?」

?「それはお前次第だよ、最も価値観、言うなれば▓▓▓▓▓、これもダメなのか、電波が悪いと話が伝わらなくて困るな。」

まるで世間話でもしているような調子で話す異はやれやれとでも言うように、話を続ける。

?「言語等という無駄ながあると不便だな。これだとまだ▓▓▓の真髄すら見れない。変だな、▓▓▓はこの世界でも使われているものだと言うのに。」

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?「訳の分からないことを・・・言ってんじゃないわよ!」

刃を持って切りかかるは念の為である防魔法と共に、背後から忍ばせていた攻撃魔法の発準備を始める。

しかし、魔法陣がり出すことはなく、異に近付くと同時にリタイア判定になり、は塵のようになり、消えてしまった。

?「・・・さすがの私もここまでかな。あとは前任者にお任せしよう。」

バタリと地面に倒れ込んだ異は灰に飲まれ、瞬く間に年へと姿を変える。

舞「塡・・・塡!」

駆け寄ったは倒れている年に回復魔法を発するが、反応はなく更に呼びかけてみる。

舞「塡!塡!」

叩いても痺れが蓄積するだけなので叩かないという選択肢を取るのは正解だったのだろうか、呼び掛けに応じる聲はなく、リタイアを強いられてしまうという考えが舞の不安を煽っていく。

魔法で強制的に起こす方法も考えたが、結局への負擔が強いためその方法は捨てざるを得なかった。

だが、以外にもそんなことは起こらずに、リタイア音ではなく、何度も聞いた事のある聲が響く。

満「あれ、舞達か?」

舞「満!」

承「ちょっとは待つことを覚えろっつーの。」

舞「承!」

草を掻き分けながら進んできたんだろう、中に付いた植の種や繊維なんかを叩き落としている承に対して、満の手にはちぎってきた草の束が握られていた。

満「どうかしたか?」

承「なんであんたはそんなもの持ってんのよ。」

舞「2人とも!そんなことより、塡が!」

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駆け寄ってくるや否や、「リタイアさせましょう」と騒な事を言った承に説得を試みようとする舞の意識を両斷するがごとく、満のハキハキとした言葉が周囲に響き渡る。

満「とりあえず運ぼうぜ!」

まともな意見ではあるのだが、満がそんなに頭を使えることに驚いていた二人にはそれの接近に気付かなかった。

視界にそれがった瞬間、熱気がを刺激し、黒い炎が周りの草木を一瞬で灰にし、吹き飛ばした。

承「何?あいつ・・・」

舞「あれって・・・まさか」

承「なんなの!あれ!」

舞「煉獄蝶、魔の一種なんだけど・・・なんでこんな所に。」

ヒラヒラと舞う三匹の蝶は、周囲溫度を急激に上昇させ、休むためか地面に止まり羽だけをかし始めた。

舞「あれはこんな所には」

承「舞ちゃん!そんなこといいからどうするの?」

ハッとしたは前方十メートルほどで羽だけをかしている巨大な蝶を見據えたのち、優秀な頭をフル稼働させる。

舞「・・・逃げるか戦うか・・・だけど。如何せん詳しい報が出てないのもあって、攻撃的なのかも、そうじゃないのかも分からないし、それに・・・」

満「とりあえず塡を運べばいいんだろ?何を迷ってんだ?」

と満が塡を抱き抱えた瞬間にそれはき出した。

三人が集まっているところに向けて漆黒の塊を三匹がほぼ同時に放ってきた。

見るからに危ない雰囲気がしているためだろう、咄嗟にとった回避行のおかげで四人仲良くリタイアなんてことにはならずに済んだのだが。

今の今まで大人しく止まっていたはずの巨大な蝶は、風と共に熱気を放ちながら四人の方向へと進んでいく。

承「ねぇ、これって。」

舞「うん、多分くもの全て敵だと思うのかも。」

満「どうするんだ?戦うか?」

承「バカね、あんなと戦って勝てるわけないでしょ。逃げるわよ。」

特に珍しくもない承の意見に驚く訳もなく、「でも、やって見ないとわかんないだろ?」とバカ丸出しの発言に多呆れている承は、「逃げるよね?舞ちゃん。」と同意を求めたのだが、予想とは大きく外れた。

舞「満の言う通りだよ。やって見ないと分からない。」

承「・・・は?」

その意見は決して、一人でも戦えるという証明を行ったゆえの慢心ではなく、ちゃんとした考えの元に導き出された答えなのだ。

舞「さっき飛ばしてきた黒い塊、あれは一発ずつだったけど、もしも、更に多く放てるなら?もしも、もっと広い範囲に攻撃できるなら?逃げ切れる可能は低いよね?」

承「でも、それなら戦って勝てる可能も低くない?」

舞「・・・・・・」

承「確かに防魔法を使っていれば防げるのかもだけどさ、防げるのかも分からないのにそれは危なくない?」

舞「・・・勝てるかもしれないじゃん。」

決して、自分はさっき戦えたから勝てるでしょという慢心などではない。

これはあくまでも合理的に學年上位を取る為の作戦なのである。

承「それに、倒すよりも放っておいた方が他の奴らの妨害になるし、何より大きなリスクを背負わなくていい。逃げるにしろ、最悪塡を見捨てれば良くない?」

舞「・・・勝てるもん。やって見なきゃ分かんないもん!」

承「戦いたいだけでしょ!」

舞「違うもん!」

満「來たぞ!」

くだらない言い爭いをしている間に距離を詰めてきていた三匹の蝶は、容赦なく黒い塊を発してくる。

満「避けろ!」

ギリギリで避けることが出來たが、冷靜に考えれば最悪の展開になってしまっている事に三人の二人は気付いていない(それ自が最悪ではあるのだが)、それ故に選択肢が一つに絞られてしまう。

舞「戦闘準備!」

そう、先程の三匹の蝶とある程度の距離があるという狀況ならば、逃亡という選択肢が取れたのだが、既に三メートルという絶的な距離まで詰められている時點で、舞の判斷は決まっていた。

舞「『水力アクア』!」

満「『水力アクア』!」

というかこの二人に関してなら最初から決まっていたという方が正しいのだが、そんなことを考えていても意味が無いため、諦めた承はさっさと戦闘態勢に移る。

承「『水力アクア』」

この三人の中で一番魔について詳しいであろう舞にならい、水力を高める為の魔法を発する。

舞「『水力アクア』」

満「お先に行くぜ!」

一人飛び出した満は右手に発生させた水の大玉を用に変化させ、數発の弾丸のような塊を作る。

満「『AMバレット・Wアンチ・マテリアルバレット・ウォーター』」

作り出された數発の大型の弾丸のような塊は、満の「バーン」という稚な言葉を合図に先頭にいる蝶目掛けて飛來する。

だが、大ダメージを與えそうな見た目に反して、蝶に接近した途端に蒸気へと姿を変えてしまった。

満「あれ?」

承「あのバカ、もっと火力を集中するのよ。」

特攻して行った満を追いかけた承は、満とは相反し、一本の矢のような形へと変化させる。

承「『魔弓・貫水矢かんすいし』!!」

放たれた水の矢は、満の弾丸よりもさらに早く、蝶に接近しても蒸発はしない、のだが、ヒラヒラと舞う蝶に直撃することはなく、三匹の蝶の背後でぜてしまった。

承「あれ?」

満「承も馬鹿じゃねぇかよ。」

承「うっさい。」

舞「二人とも!」

三つの黒い塊が二人を目掛けて山なりに出される。

掛け聲があったため間一髪で避けることが出來たが、言い爭っている場合ではないという事を知らないのかという呆れが舞というから伝わってくる。

舞「『水力アクア』・・・」

この『水力アクア』という魔法はで運エネルギーを発生させ、そのエネルギーを水に込めるという魔法なのだが、意外にも作が難しく、込めるエネルギー量を間違えれば、水が弾け飛んでしまうということに加え、一度に発生させるエネルギー量を大きくしすぎるとへの負擔が強くなるというリスクがあるのだが、稀有な効果な事もあり、実踐でも用いられている魔法なのである。

主な使用方法だが、一度に大きなエネルギーを込めるのではなく、小さなエネルギーを何度も込めることによって、大きなエネルギーをほとんどリスクがない狀態で使えるという使用方法が一般的である。

三人の中でそれを知っているのは舞だけなのだろう、何度も『水力アクア』を発させ、一人だけ段々と威力を高めている。

舞「『水力アクア』・・・」

満「『水力アクア』!」

もう一度どやれば當たるだろと言わんばかりの特攻に、そろそろ堪忍袋の緒がキレそうな承は、一度に勢を立て直すため、舞の元へと後進する。

満「威力と量があればいいんだろ!」

承「ねぇ舞ちゃん。あのバカどうにか出來ない?」

舞「でも、理論的には正しいんじゃないかな。避けられるなら量を増やせばいいし、蒸発しないほどに威力を高めれば理論上ダメージは與えられるはずだけど。」

ほんとに言ってんの?的な顔で舞を見つめた後、し前で水魔法を放っている満の援護に行くため承は『飛翔フライ』を発させ、全速力で満の元へと向かう。

満「おかしいな、なんで當たらないんだ?」

承「あんたが馬鹿だからよ。」

脇の下を抱えられる形で満のはゆっくりと上昇していく。

承「あんた重いんだけど。自分で飛びなさいよ。」

満「了解。」

言葉の直後に満のは落下を始めるが、淡いに包まれたは落下し続けずに、その場で滯空していた。

満「どうすれば當たるんだ?」

承「ていうかさっさと逃げればいいでしょ。あの見た目なら対して飛行スピードも早くないだろうし。」

満「あんなと戦える機會はそうそうないんだぞ?ここで経験積んでた方が後々に楽になるかもじゃねぇかよ。」

承「あんな訳わかんないと戦うくらいなら、あんたと戦ってた方がまだ強くなれるわよ。」

戦闘中の言い爭いにそろそろ舞が怒りを見せるかと思ったが、意外にもそんなことはなく、最大までエネルギーを込めた水を抱えて、あの魔にどうやって當てるかを考えていた。

舞(満のように數を増やせば威力が足りないから蒸発する、逆に數を絞って威力を高めれば避けられる可能がある。理論的には蒸発しない威力の玉を大量に放てば、ダメージを與えられるわけだけど・・・問題は形・・・威力を下げないように數を増やすには・・・)

抱えた水の塊がゆっくりとき出す。

舞(これしかない。)

二人と同じく『飛翔フライ』を発させ、滯空を始めた舞は満の方に顔を向け、言葉を放つ。

舞「塡の持ってて!」

満「お、おう。」

雑に寢かせてある塡のを抱えあげた満はゆっくりと上昇を始め、承に手伝いを促す。

満「承も手伝えよ。」

承「嫌よ。最悪塡は捨てるんだから一人でもいいでしょ。」

満「普通に疲れるんだぞ。」

承「だったら、捨てればいいじゃない。」

満「それだと元も子もないだろ!」

舞「2人ともうるさい!」

イメージを高めつつある舞の水の塊は魔法陣に乗せられ、直後に大化した。

舞の積の二十倍程度の水の塊は徐々に上昇し、三十メートルを超えた地點で落下を始めた。

徐々に加速していく水の塊が蝶の付近まで落ちたところで、巨大な水の塊がぜた。

辺り一面を水が多い盡くし、飛び跳ねる水は『飛翔フライ』で避けていた三人のも一部だけだが、濡らしていた。

舞「『ノアの大洪水』」

完全に勝った気でいる舞は地上に降り立ち、拠點に帰ろうとした時に気が付いた。

視界が白く包まれていることに。

舞「・・・まさか、水蒸気?」

承「舞ちゃん?どうしたの?」

咄嗟に振り返るも白いモヤのせいで蝶の姿は見えず、狀況を確認することすら出來なかった。

舞(もう一度上に上がった方がいいかな・・・)

再び『飛翔フライ』を発し、し上で滯空している満と承の元へと向かう。

舞「何か見えた?」

承「何も見えなかったけど、どうかしたの?」

舞「白いモヤが水蒸気の可能があるの。気化なんてさせてないから、煉獄蝶が蒸発させた可能が高いけど。」

承「けど?」

舞「他の生徒の可能も一応あるから、なんとも言えない。もし生徒なら、拠點まで尾行されて、一気に殲滅なんてされたら高い確率で全員がリタイアになる。あいにく防魔法は得意じゃないから、籠城戦も得策とは言えない。だから、ここで徹底的に潰すしかない。」

そう、舞の言ったことは正しかった。

隠れていた敵が大質量の水に驚き、咄嗟に防魔法や、炎魔法で蒸発させてしまった可能もある。

それになにより、煉獄蝶が生き殘っている可能もあるわけで、中途半端に攻撃して、退卻なんてしたら無駄にリタイアのリスクを増やすだけである。

そう、だから舞の言っていることは正しかった。

だが、行という點でいえば、煉獄蝶を認識した時點で、塡を連れて即刻退卻するという選択肢が正解だったのだろう。

そうすればあんな事にはならなかった。

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