《ひねくれ魔師が天才魔法使いよりも強い件について》第13話 水
地上付近を覆い盡くしている濃い水蒸気が掻き分けられ、赤黒い塊が飛來する。
三人に當たることはなかったが、その投擲はある生の存在を証明した。
空気を押しのけ、水蒸気ごと掻き回す巨大な羽はみるみるとその生の姿をわにして行く。
舞「煉獄蝶。」
承「倒せてなかったの?!」
満「蒸発させられたのか?」
舞「違う・・・と思う。多分だけど、攻撃は當たってる。蒸発させられたのは殘った水だけ。でも・・・」
そう、攻撃自は當たっていたし、舞の言う通り水蒸気の正は、地面に落ちた大量の水なのだが、問題はそこでは無い。
舞(問題は・・・限界までエネルギーを込めて、大質量を高い位置からぶつけることで大ダメージを與えるつもりだったのに、それが響いてないこと。そして、どの攻撃ならダメージを與えられるのかと言うこと。)
優秀な頭が様々な仮説を立てていくが全てが仮説止まりになり、一向に前に進まない。
舞(絶対零度近くまで急激に冷やした魔法?それとも、太と近しいほど熱した炎?人間にそんなエネルギー作り出せるの?魔法を與えられても、絶対零度まで下げてしまえば魔點がどうなってしまうのかも分からない。どうすればいいの?)
仮説が不安を導き、の思考を敗北へとっている時に、その思考を両斷するがごとく、とある言葉が聞こえてくる。
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塡「・・・・・・じゃ・・・めだ」
魔法で滯空している年に背負われた、意識を失っていた年。
その口から小さな言葉が微かに聞こえてくる。
舞「塡!もう一度!」
塡「それじゃ・・・ダメだ。」
満「それじゃダメだって言ってるぞ。」
舞「どうすればいいの?!」
自信が招いた結果だと自覚しているのか、その表や聲からは焦りが見えてくる。
すぐにでも意識が離れようとしている年に向かって、強制起床魔法をかけようとする気持ちを抑え付けて、直接話す為に塡の元まで移していく。
舞「どうすればいいの?」
塡「・・・レベルを・・・上げろ・・・・・」
舞「塡?!塡!」
気を失ってしまったのだろう、呼吸音しか聞こえなくなった年を満に預けて、舞は塡の短い言葉の真意を見つけるため全力で自の優秀な頭脳を回す。
舞(レベル・・・・・・魔法ランク?ニヴルヘイムのような上級魔法を使えばいいの?)
考えている間も、蝶の羽は熱波を運び、黒い塊は容赦なく四人をリタイアに導こうと発され続ける。
舞(早くしないと、魔點は大丈夫でも集中力が持たない。・・・・・・『大規模範囲氷結魔法ニヴルヘイム』と同等の魔法。それでいて、炎にダメージを與えられる屬。)
様々な魔法名が思考を飛びい、あるひとつの魔法名が引っかかる。
舞(『強制意識昏倒魔法ヘルヘイム』?)
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『強制意識昏倒魔法ヘルヘイム』とは、その名の通り、ある條件を満たした相手を強制的に昏倒させる魔法である。
その取得難易度は上級魔法である、『大規模範囲氷結魔法ニヴルヘイム』と同等であり、使用難易度はそれ以上と言われている。
もちろん中學生が扱える代ではないはずなのだが、この學校の生徒の大半はいわゆる天才と呼ばれる人間達であり、それはひとえに中學生と馬鹿には出來ないものである。
事実、藤原舞というは『大規模範囲氷結魔法ニヴルヘイム』を使用出來るし、『強制意識昏倒魔法ヘルヘイム』だって発は可能かもしれない。
舞(一度見た事はあるけど、『大規模範囲氷結魔法ニヴルヘイム』と違って間近で見たわけでもないし、回數もない。発が失敗すれば、反があるかもしれないし、魔點の無駄にもなる。)
だがしかし、舞に殘された道は半強制的に決められていた。
魔法を使わなければ煉獄蝶に消耗させられる、使ったとすれば失敗する可能がある、もちろん他の魔法を使えば良いのかもしれないが、他の魔法を探す猶予が舞以外の三人にあるのか分からない以上、その選択は避けるべきだろう。
それに、チームの績を背負って普段通りの思考をめぐらせることが出來るかと問われれば、はにかみ笑いで首を橫に振りかけながらも、結局は困ったように首を傾げることだろう。
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舞(・・・やるしかないよね。)
中々決心が付かない間も、煉獄蝶からの攻撃は止まずに、じりじりと三人の集中力を削っていく。
舞(・・・・・・)
鼓が高まり、汗が吹き出す。
痛みはじないはずなのに、心臓が握られるような痛みが走る。
張によるものに加え、煉獄蝶からの攻撃で舞の集中力や思考力は格段に低下していた。
舞(失敗しても・・・いいよね。)
あやふやな決心を抱えたまま、魔法の発準備にったの意識を引き上げるように、何度も何度も聞いたことがある聲が鼓を振させる。
承「舞ちゃん!これは全部、塡のせいだから!だから!失敗しても大丈夫!全部全部、塡のせいだから!舞ちゃんは、失敗しても大丈夫!」
その言葉に大きく心が揺らいだ。
あやふやだった決心が、強く結びつき、背負っていたプレッシャーはゆっくりと消えていった。
単なる言葉に過ぎないが、効果は絶大で舞の頭の中にある不安は力へと換算され、一瞬で準備が完了した魔法を容赦なく発させた。
舞「『強制意識昏倒魔法ヘルヘイム』」
突如、姿を現した巨大な門は四人と三匹の空間を區切るようにそびえ立ち、異質な雰囲気を漂わせていた。
舞「出來た!」
承「何あれ。」
満「門だろ、見てわかんないのか?」
承「そうじゃないわよ。」
舞「私の魔法だから安心して。」
承「初めて見た。」
空中をひらひらと舞っている三匹の蝶に知能があるかどうかは定かではないが、明らかに異質な雰囲気を放つ門に近寄ろうとすることも無く、ただただその場で羽をはためかせていた。
塡「上級魔法だ。見た事ある人間の方がないだろう。」
満「起きてたのか。」
塡「わざわざこのランクを出す必要はなかったが、まぁ良いだろ。」
やはり回復しきっていないのか、し息切れを起こしながらも、上から目線で話をする塡に多の不快をじたのだろうか、し口調が強くなっている舞が地面に足をつけ、塡に言葉を投げる。
舞「塡がレベルを上げろって言ったんでしょ。文句あるの?」
塡「文句はないが、魔點の消費量と失敗した場合のリスクが大きすぎるだろ。」
舞「レベルを上げた結果でしょ。」
塡「魔法ランクのことじゃない。屬レベルだ。」
満「なんだそれ。」
呆れた表で満を見つめる承というは、諦めたようなため息をつき、あのね、という言葉から解説を始める。
承「あんた初等教育けてないの?」
満「けたぞ。」
承「じゃあよっぽどの馬鹿なんだろうけど、屬レベルってのは、魔法の難易度と比例する屬の事よ。」
満「そんなの人によって違うんじゃないか?人によって屬が違うんだし。」
はぁ、と大きなため息をつき完全に諦めた雰囲気を出しながらも何かと解説はしてくれるという矛盾を抱えた承は、そっちじゃないわよ、とし強めの言葉から解説を再開する。
承「四元素の屬じゃなくて、それ以上の屬の話よ。例えば毒とか催眠とか神系とか々よ。」
満「へー」
承「火、水、風、土を元にした四元素同士を組み合わせたもので組み合わせは々あるし、元素の細かな要素だけを取り出すことだってあるの。組み合わせの數とか取り出す要素が細ければ細かいほど、屬レベルは上がっていくわ。」
満「・・・初めて知った。」
承「基礎知識でしょ。」
呑気に解説していたせいかもしれないが、一番の要因は舞の魔法により勝ちを確信してしまっていたせいだろう、飛來するそれに気付かなかった。
塡「・・・満、避けろ。」
満「え?」
四人の中でただ一人だけ気付いていた年は自分を抱えている年に警告をしていた。
それもあってか、誰一人としてリタイアすることは無かったのだが。
三人全員が黒い塊が地面に著地したことに驚きを隠せなかった。
満「・・・!」
承「・・・!」
舞「なんで?!」
塡「不注意だったな、門が崩れた。」
その言葉に全員が同じ方向を向いた。
先程まであった明らかに異質な雰囲気を放つ巨大な門、その門が影すら殘さずに消えていたのだ。
塡「上級魔法は発も難しいが、何より維持が難しい。使い慣れていない中學生が話をしながら維持できる代じゃない。自分の力を過信しすぎだ。」
やはり上から目線で言葉を放つ年にイラつき隠せないが反論する前に、上から目線の年が更に言葉を投げる。
塡「無駄に解説をするんだったらここじゃなく、拠點でするべきだったな。判斷ミスだ。」
その言葉に、二人のの中で何かがキレた。
承「あっそ、だったらあんたが」
舞「だったら最初から塡が戦えばいいじゃん!上から目線で文句言うなら全部塡がやればいいでしょ!!私たちに言わないでよ!!!」
どちらかを擁護する気は無いが、無參加も好ましくないと思った年は「まぁそういう意見もあるよな。」と參加表明を出すが、「馬鹿はってこないで!」とあっけなく返される。
舞「毎回毎回、一人で飛び出して、支援組のこと考えたら?」
承「そうよ!あんたのせいで支援魔法だけがびて行ってるじゃない!」
舞「承もうるさい!」
先程まで二人で塡を責めていたはずなのに、急に承にも矛先を向けられたことに裏切られたが否めない中、とりあえず「あんたのせいで怒られたじゃない」と満を責めておく。
塡「じゃあ俺とチーム組まなければいいだろ、文句があるなら最初から別の所に行けばいいだろ。」
舞「承が居るから來てるだけだもん!塡が居るからじゃないもん!」
大変微笑ましい會話なのだろうが、現在戦闘中ということは決して忘れてはいけない。
この十數秒の間で力を回復した蝶達は容赦なく四人に攻撃を仕掛ける。
満「俺の背中で喧嘩するなよ。」
塡「それよりもお前は避けることに専念しろ。一発でも當たれば即リタイアだぞ。」
満「人使いの荒いやつだな。」
相変わらず黒い塊を飛來させてくる蝶の異変に気付いていれば、もっと楽に戦えていたかもしれないが、たらればで話したところで時間は流れてしまっているためやめておこう。
そんなこんなでもう一度休憩のような制にった蝶を確認し、塡は満にも休憩の指示を出す。
塡「見ろ、休んでる。お前も休んだ方がいい。」
満「このタイミングで逃げられないのか?」
塡「逃げられるが、次の演習の時にもう一度出てくるなら今データを集めておいた方がいい。」
満「なるほどな。でも、次の演習のでも逃げれば良くないか?」
塡「試しに逃げてみればいいだろ。やって見ればわかる。」
完全にハテナを浮かべている満は塡を背負ったまま、逃げの制にる。
その行に殘り二人も同じように魔法を発させ、満に続いて飛び出していく。
満「逃げれるんじゃないか?」
塡「逃げ始めたら全力で逃げろよ。後ろは振り向くな。」
満「?」
三人は知る由もないだろう、それもそのはずだ。
攻撃手段は黒い塊を投げることに加え、熱風だけ。
近付けば燃えるのかも知れないが、近付かなければ問題はないし、近付いて來る作も見せなかった。
あくまでも黒い塊の程範囲で戦うことを戦闘スタイルにしているという事しか見ていなかったためだろう。
それの本質には気付かなかった、否、気付けなかった。
後ろを向くなという言葉に、止されるほどやりたくなるという俗に言う、『カリギュラ効果』でも発してしまったのだろうか、ふと後ろを振り返った時に目を疑った。
それは、二人のの後ろから黒煙を上げながら、追いついて來ているのだ。
満「來てるのか?!」
塡「振り向くなと言ったろ。追い抜かされるぞ。」
舞「どうしたの?」
満「あんなに早かったのか。」
塡「脳ある何とかだ、お前とは違うんだよ。」
人一人背負っているのにも関わらず、飛行する三人の中で常に先頭を飛んでいる満は、「落ちるなよ」と言い放った後に更に速度を上げた。
塡「・・・二人とも引き離してるぞ。」
満「お前が追い付かれるとか言うからだろ。」
塡「・・・いいか、もうしだけ速度を上げた後、いきなり著地しろ。」
満「は?そんなことしたら追い付かれるだろ。」
塡「いいから。言う通りにしろ。」
言葉通りに速度を上げた満は數秒間速度を保ち続けた後、地面に衝突する形で著地する。
魔法の使用により衝撃はなかったが、塡のは大きく揺れ、やっぱり言わなければ良かった的な後悔に駆られてしまう。
満「大丈夫か?」
塡「いいから、上見てろ。」
數秒の後、満の頭上を通り過ぎてしまった二人の後ろをほとんどの差がなく、三匹の蝶が追っていく、が奇妙なことに三匹とも地面に激突した。
塡「あいつらは脳ある何とかなわけだが、そのせいでこうなる。スピードを出しすぎた弊害だな。」
満「ここからどうするんだ?」
塡「あいつらはここで狩る。どうせ逃げられないからな。」
満「承と舞はどうする?」
塡「放っておけば戻ってくるさ。」
大した時間が経つことなく、またヒラヒラと舞い始めた三匹の蝶は先程と同じように二人の年に黒い塊を飛來させる。
満「で、的にどう倒す?」
塡「さっき承から屬レベルのことを聞いたろ。あいつらに弱點を突くことの出來る屬を使う。」
満「で、それは?」
塡「神系を絡ませた水だ。」
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