三剣豪との戦で兵士の注意がそちらに集中したおかげでアンネの聖杯捜索は順調に進んでいた。

「こちらは片付いた。後は殘った兵士とあの指揮を目指してく」

「お疲れ様。それとこっちは聖杯を見つけたわ」

「この先か。では帰り道を確保しておこう」

役目を終えたコウモリは本の方へと飛び去る。一人になったアンネは先へと行き、開けた場所に出ると聖剣を掲げると目の前の巖に紋章が浮かび上がり、門が出現した。

この先に聖杯がある。それは聖剣の持ち主である彼自が知っている。本人もどうしてこんな事を知っている不明だが今は気にする事なく、ただ聖杯を手にする為に門へと近づく。

「待っていたぞ、聖剣の後継者」

「誰⁉︎」

不意に話しかけられ、聲の方を構えながら向くとそこには見覚えのある男が立っていた。

「お前に名乗る名などない。ただ封印を解いてくれた事には謝しよう」

シュエルの育ての親であり、ハインツの魔法研究局の局長であるバディハ。アンネは驚きを必死に隠し、口を噤む。

つい自分はシュエルなのだと口に出しそうになったが転生したなど信じてもらえない。勇者、シュエルはもう死んだ。そう自分に言い聞かせ、アンネとして発言する。

「聖杯は渡さないわ」

「聖杯？　私はそんな不確かなものなどに興味はない。そもそも寢返ったのはここへ潛する為。しかし、まさかここでハインツの兵に手助けされるとは思いもしなかったが」

「手助けなんてしてないわよ」

「いいや、してるね。君がそう思ってもこちらからしたら手助けとなっている。潛したのはいいものの封印が解けなく困っていた」

「聖杯が目當てじゃないならどうしてこの封印を？」

「聖杯の守護者を狙っているからだ。聖剣は選ばれた者しか手にらないが聖杯は違う。だがそう簡単にるものではなく、四大霊が守っている」

「その四大霊が目當て？」

「正確には四大霊の力だ。私が開発したこの魔力吸収裝置を使うとーー」

門を手に裝著している籠手のようなものでれると門から大量の魔力が吸い出され、裝置にその魔力が集中した。

「この通り、四大霊の力は私のものとなった。そしてこれを元に魔法を使うとどうなると思う？」

「狂ってる。四大霊はこの世界の魔力の均衡を保っているのを知らないわけじゃないでしょ」

聖杯の伝説と同様に誰もが知っている伝説。この世界は四大霊に守られているのだという伝説。聖杯の伝説とは違い、これは周知の事実。戦爭に介した時代もあったと聞く。

聖剣が出現したのは確かその後。霊は人間を裏側から支える存在となった。その霊の代表格である四大霊を吸収するなど世界にどんな影響を及ぼすか考えただけでも恐ろしい。

「流石に私も世界を滅ぼすほど馬鹿ではない。その問題は既に私の開発した別の裝置で解決済みだ。四大霊も不必要なのだよ。だから私の野の糧となってもらう」

彼の背中から炎、水、風、土系統の上位魔法が出現してそれらがアンネへと襲いかかる。

聖剣で弾くが風はすり抜け彼の服と皮を切り裂いた。

「貴方のような霊も人も道みたいに扱う奴の糧になってやる気はないわ」

同時に四つの屬、しかも強力な魔法を放つバディハと聖剣一本で闘するアンネ。相は悪く劣勢だが、自分の信念を貫く為に地に膝をつけずに剣を振るう。

「流石に粘るな。だが聖剣を持ってしても四大霊全てを相手にするのは辛いようだな。諦めたら楽になるぞ」

「無駄口を叩く前に自分の心配をする事ね。次で決めるから」

聖剣に魔力を込め、次の一撃の準備をする。これを人一人に向かって撃とうとするのは初めてかもしれない。

「それは知っているぞ。前の勇者も同じものを使っていた。良いだろう。私もが騒いでいたところだ。正面から相手をしてやる」

四つの屬の魔法が合した巨大な魔法の弾丸、聖なる魔力が地面を吹き出す黃金の斬撃。

お互いの最大の一撃で決著がつくかに思えたが、それは突如二人の間に出現した謎の男によって阻まれた。

どちらも大軍を蹴散らすほどの威力だというのにその灰の髪をした左右の瞳が異なる彼は何もなかったかのように無傷でそこにいる。

「何者だ？　さっきまで気分が良かったのに臺無しになってしまった」

「それは僕も同じだ。よくも四大霊をやってくれたね」

アンネは何が起きたか理解出來なかった。反撃する間も無く、バディハはその場から姿を消した。互いの強力な一撃が消えたように。

「僕は霊の長、ファウスト。神の命により聖杯を守りに來た」