突如現れた魔に話しかけたのは面識のあるアルチナ。

「メディア、お元気そうで何よりです。クロアムとキルケはお元気ではなくなりましたが」

「獣の魔は殺してはいない。しばらく、こちらには來られないだろうがな」

まるで二人とも亡き者にされたような言い方だったのでルインが補足をしておく。

「る程、貴方がそちら側に回ったとなると僕たちの劣勢は目に見えていましたね。けど、僕の自信作もこうも簡単にあしらわれてしまうとは」

「そちらは私ではなく、その方が」

と丁寧に紹介するアルチナ。

間違いではないので何も言う事はない。

「見たところ一人を除いて魔ではないね。これは二人の侵者と関係があると考えても？」

「そうだ。それとこいつを連れ戻しに來た。実は俺たちもこいつも別の世界から來てな」

「別の世界から。それは興味深いね」

表に変化が見られないからそれは適當な返事ように思えるが今はどちらでもいい。

「興味深いと言えばその霧野郎を自信作と言ってたよな漆黒の魔」

「ああ、言ったよ。君は確か……アルチナが拾った子供か。隨分と生意気に長したね 」

「お様でな。それでどうなんだ。自信作ってのはこいつを実験にしたって意味なんだろ」

ルインたちが気になっていたところをロニが代わりに突っ込んだ。

そして返ってきた答えは意外と普通で「察しがいいね。その通りだよ」と開き直ったようなものだった。

「そんなあっさりと……」

「噓は確実に騙せる相手にしか使わない主義でね。それにその男には十二分に働いてもらったからもういいんだ」

「最近、何処かの偉い奴が死んだとか噂を良く聞くがもしかしてそいつは……」

「うん。彼に殺らせた」

門番が最近、騒だからと言っていたがその人もまさかその発端がこの中にいるとは思いもよらないだろう。

しかし、霧化の魔法は痕跡も殘さないので暗殺等には最適でそれを自分の都合の良いように使うのが魔という生きだ。

「殺人か。このせいで転生出來なくなるとかはないよな」

「今回のはられたようなものだし、それに転生に殺人をしたかどうかなんて関係ないわよ。殺された人には申し訳ないけど」

何とも都合の良い話だ。

だが人を殺めたら転生出來ないのであればシュエルは店に來れなかったはずだ。あいつは勇者ではあったが敵國の兵を聖剣で薙ぎ倒しているのだから。

「では俺たちはこの男を連れて帰らせてもらうぞ。止めるなら地獄を見てもらう事になるが」

「止めない止めない。その男はもう用済みだし、僕の野は著実に進んでいるからね」

「野？」

彼が力がしくて頼み込んでもそれがメディアの利益にならなくては協力する必要などない。

つまり彼が力を手にしたのはそうする事によって與えたメディアに利益があるから。今回で言えば邪魔者の排除といったところか。

ではなく、自の損得でく魔らしい。

「おっと、僕とした事がお喋りが過ぎたよ。まあ君たちは気にせずどうぞ。後は魔同士で解決をするからさ」

「何よそれ。私たちが邪魔者みたいじゃない」

その嫌味な言い方が引っかかったらしく、リルフィーが口を挾む。

「部外者なのだからそれに近いものだろ。それと帰る前に聞かせてもらうがこの男に魔法を使えるようにする時、魂に何か細工をしたか？」

「魂にはしてはいないよ。そんな事をしたら神崩壊の原因になるから」

となるとこのまま転生させても影響はなさそうだ。アズリエが見たという死相はこいつにやらされた件で狙われているからで、俺たちが連れ戻せば問題はないと思われる。

この魔の態度からして彼は利用したら捨てる気だったと考えられる。

「そうか。それを聞いて安心した。セリエ、移を頼む」

強引ではあるがこの世界に置いていけばロクな目に遭わない。説得は転生屋でするとしよう。

「……分かりました。では皆さん、準備を」

「待った。この天才ロニ様を出し抜こうたってそうはいかんぞ。何の為にここまで案してやったと思っていらのだ」

「おっと、忘れていた。俺のが目當てであったな」

本音を言うとこれ以上、魔には関わりたくはないが約束を守るのは人として當たり前。

俺が化けという屁理屈は通じない。

「彼の？　それは君が協力に足りるものなのか」

「漆黒の魔殿には関係ない。ほら、さっさとこれにありったけれろ」

と手渡されたのは大きめのフラスコと短剣。

注のような便利なものがなく、まるで自殺を勧められているみたいだ。

「だが錬の魔が求めるものとなると、さぞ貴重な素材に違いないと愚考したのだが」

そんなやり取りをしている中、ルインは躊躇なく腕の脈を短剣で切りつけフラスコが満杯になるまでを注ぎ込んだ。

「ほら、これで約束を果たした。ではこれで……」

「傷が勝手に再生した……まさか普通の人間ではない？」

メディアは目を輝かせ、再生する腕を凝視していた。

「ああ、こいつは不死の化けだ。この天才ロニ様が普通の人間のなんてしがる訳ないだろ」

「その、僕にも分けてくれないか。良いポーションが作れそうだ」

「一滴もやるもんか。どうしてしいなら本人に言いな」

こっちを見るな。

もうこれ以上、面倒事に巻き込まれたくないというのに。

だがならいくらでも出せるし構わないかと思ったその時、アルチナが不意に驚くべき発言をした。

「待ってください。その前にルインさん、メディアを殺していただけますか？」