「何ぃ～！ 先発隊が壊滅狀態じゃと！？」

補助隊を率いるバダック尉は額に青筋を浮かべながら報告を聞いていた。

偵の話からは簡素な村に百人程度の獣人がいると聞いていたバダック。

バダックは先発隊があっさり殲滅し、自分達は捕虜の輸送をすれば良いだけの仕事だと思い、設営所で優雅に食事をとっていた。

それなのにボロボロの狀態で報告しに來た兵士の話によると先発隊がほぼ壊滅してしまったというものだった。

やや膨れた腹部を掻きながらバダックは今後の方針について悩んでいた。

本來ならば、先発隊の救助に向かい、先発隊の代わりに村の殲滅に向かうべきだろう。

しかしたった百人で帝國兵三千をほぼ壊滅狀態まで追い込んだ方法がわからず恐怖を覚えていたバダックは進軍に二の足を踏む。

そんな様子を見た副が助言を行う。

「バダック尉。相手には魔法に長けた者がいたのでしょう。しかし帝國兵を壊滅に追いこむほどの魔法は宮廷魔法師様でも連発は出來ない。私はむしろ相手が大規模な魔法を使った後の今こそ進軍すべきかと思います。」

バダックはし考える素振りを見せたが、副の考えに賛同する。

確かに先発隊を壊滅するほどの獣人の魔法師は脅威だが、先発隊のおかげで獣人の魔法師は魔力を枯渇している狀態だろう。

もし捕まえれば褒は思いのままだ。醜いにかられたバダックは急ぎ進軍の準備を進めた。

バダックが進軍の準備を進めている頃マヒアは次の戦いに向けて部下に弾薬の裝填をしておくように指示を出していた。

遠距離魔法に備えていたフィオが興味深そうにライフルと弾薬を見つめながらマヒアに問う。

「ねぇねぇマヒア。さっきのは何？」

「あぁ。これは魔法について大地殿に教えた時に大地殿が試しに作ったでな。なんでもこの弾薬には火魔法の魔力が込められているらしくて。銃を撃つだけで魔力消費無く火の魔法を発現出來る便利な代だ。大地殿が出発前に大量に作ってくれていたのだ。しかしもうこの弾薬も底をつきそうだがな。」

「え？それって大丈夫なの？」

「さあな。今はまだロケランがあるから大丈夫だろうが・・・私には今後の展開は読めんよ。もしもの時はわかっているな？」

「うん。わかってるよ。もう我儘は言わないから。じゃあ補助隊に備えてゴーレムとガラン達の為の防壁作ってくるね！」

フィオはそういって、城壁を降り、村の外へ出て行った。それを見つめながらマヒアはフィオの無事を祈る。

進軍の準備が整った補助隊は、道中逃げてきた先発隊を加え三千強の軍勢に膨れ上がっていた。

バダックは先発隊から聞いていた赤い閃に気を付けながら慎重に進む。

しばらく進むと先発隊が攻撃をけたと思われる場所に土壁で出來た大きな砦がたっていた。

バダックは警戒心を強め魔法師隊に防態勢を整えるように進み、兵士に偵察に向かわせた。

偵察の兵士より中に誰もいない事を確認すると、バダックは砦にり魔法師には前方を警戒させ、他の兵士には前方以外の全方位の警戒にあたらせる。

砦にったバダックは副に獣人の意図について問う。

「獣人どもは何故こんな所に砦が作ったのだ？」

「多分ですが、私達の進軍が予想より早く、慌てて砦を捨てて逃げたのではないでしょうか？報告にあった赤い閃の程範囲にっても攻撃の気配はありませんし、やはり予想通り魔力が盡きてしまったのでしょう。」

「そうかそうか！ 先発隊がやられた時はどうしようかと思ったものだが、所詮は獣人。こちらが油斷しなければなんてことはないな！」

満足そうに笑みを浮かべるバダック。赤い閃の事を魔法だと勘違いしているバダックは程範囲にったのにも関わらず魔法を撃ってこない段階で相手の魔法師の魔力が枯渇しているのだと疑ってなかった。

その為、自分が死地に招かれているとは夢にも思っていなかったのだろう。

ガラン達はバダックが砦にったのを確認すると部下に左右から囲むように指示を出し、その場でマヒアからの合図があるまで待機する。

マヒアはガランから帝國兵が砦にってから五分後に襲撃を行うという指示に従い、殘りの火の魔法の弾薬を打ち込む準備を進める。

「お前たち準備は出來たかい？」

マヒアの部下達はマヒアを見ながら頷く。

マヒア達は前方の魔法師に向けてライフルを構える。

一時の靜寂の後、マヒア達は一斉に引き金を引き始める。

赤い閃は瞬く間に魔法師達の眼前に現れ、頭部を打ち抜いていく。隣の仲間が頭を撃ち抜かれ燃える様を見て、帝國兵は初めて敵襲に気付いた。

「敵襲だ！ 例の赤い線で攻撃されているぞ！」

バダックはないものと思っていた赤い閃に襲われていると聞き、取りし始める。

「どういうことだ！ 例の魔法は魔力枯渇でもう使われることはなかったのではないのか！」

「そんなはずはありません！ あれだけの威力であれば消費魔力もかなりのものになるはず。そう長くは出來るはずがありません。」

副も予想を裏切られたとばかりに苦々しい顔をする。

帝國の魔法師はすかさず、屬に応じて様々な魔法障壁を展開させ、赤い閃を防ぐ。死に狂いで魔法師が防いだ結果、赤い閃が止み、九死に一生を得る帝國兵達。

バダックと副も冷や汗をふきながら自の無事に歓喜の聲をあげたと同時に、赤い閃を放った獣人に憎悪の念を覚える。

砦から顔を出し、狀況の確認を行うバダック。辛うじて助かった兵士達だが、さっきの襲撃で三分の一の兵士が死んでいた。自分の隊の散々たるありさまに額に青筋を浮かべながら號令を出す。

「くそ。獣人どもめが。楽に死ねると思うなよ。全兵士に告ぐ！ 獣人どもを皆殺しにしろ！」

しかし、兵士達が獣人の村まで進軍することは葉わなかった。

隊列を整えようとした瞬間、左右の林よりガラン達がロケランを発した。

白煙を上げながらひし形の弾頭が砦を襲った。

ひし形の弾頭は著弾と同時に炎をあげ、すさまじい破裂音と共に全てを破壊した。

撃跡には何も殘っておらず、赤い閃から辛うじて命を拾ったバダックを含む二千の兵士はその命をあっという間に消滅させていた。

ガラン達は撃跡を確認し作戦の功を喜ぶ。

ガランも軽く肩で息をすると、トーム連合共和國がある方角を向き「ありがとうな」と小さくつぶやいた。

しかしその歓喜はつかの間のものとなっってしまった。

帝國兵が進軍してきた先から急に大きなが現れたのだ。

それを見たガランはそのを見た瞬間、背筋が凍る覚を覚え、に気付かず砦近くでいまだに喜んでいる獣人達にんだ。

「みんな、林の中に逃げ込め！」

ガランがんだと同時にその大きながはじけた。

はじけたは砦跡や獣人の村を含んだ広範囲に渡り矢のように降り注ぐ。

ガランは木々の間にりの矢からを隠すが、砦跡の方からは獣人達の悲鳴が聞こえた。

ガランは「くそ！」と作戦が功し、一瞬でも警戒を怠った自分に苛立ちを覚えながら村の方角を心配そうに見つめていた。

同時刻マヒアも目の前に現れた大きなに気付いていた。

マヒアもガラン同様に嫌な予がした為、部下にを隠すように指示を出そうとした時にが弾けていた。

マヒアは辛うじて城壁を盾にしてを守ることに功したが、部下はの矢に撃たれ半分以上が絶命または負傷していた。

マヒアは負傷した部下の治療を行いながら、村の確認を行い絶句する。

建は全て半壊か全壊しており、村のいたるところから悲鳴が聞こえていた。

「マヒア！ マヒア！ 生きてるならお願い返事して！ マヒア！」

大聲で自分を呼ぶ聲に気付いたマヒアは自分の場所をぶように伝える。涙目になり混した狀態のフィオがマヒアの元に駆けつける。

「マヒア！ 無事でよかったぁ ！死んじゃったかと思ったよぉ！ 」

「フィオか。そっちの被害はどうだ。」

「こっちと同じで半分以上の人達があのに・・・・」

「そうか。とりあえずは負傷した彼らを城壁裏に連れていくぞ。大地殿が作ってくれた城壁ならさっきのにも耐えられる。」

「わっわかった！」

マヒアとフィオは無事だった部下達と一緒に負傷した獣人を城壁裏に連れていく。

全員を城壁裏に移したマヒアはフィオに治療を任せ、ゼーレとガラン達の無事を確認するために再度城壁に上る。

林を見てマヒアは安堵の表を見せる。ガランやレイにルルの姿を確認出來たからだ。

しかしガラン達の方もかなりの被害が出ている様子が見て取れた。

次にマヒアは村の方を見ながらゼーレやパーキ達の姿を探す。しかしいくら探しても見つからない。

マヒアがゼーレ達の事をガラン達に伝えようと林の方を向いた時、マヒアに戦慄が走った。

ガラン達の一キロ先に帝國の本隊が來ていたからだ。

マヒアは急いで城壁裏で治療を続けるフィオに狀況を伝える。

「フィオ！ 殘念だけどもう敵の本隊が來てしまった。しかしゼーレの姿が確認出來てない。私は今からガラン達に合流してルルに戻ってきてもらうように伝えるから、フィオはゼーレやパーキ達を探してきて。そしてルルと合流次第ここより反対側に逃げなさい。」

「負傷している人がこんなにいっぱいいるのに逃げるわけにはいかないよ！」

負傷兵の治療をしながら、マヒアの指示に拒否を示すフィオ。

頑なに拒むフィオに対して語気を強めて説得するが、フィオは一向に首を縦にふろうとしない。

そんな様子を見て負傷した獣人が力を振り絞るように話し出す。

「フィオ・・俺たちのことはいいから・・逃げろ」

「本當に・・・最後まで聞き分けがない奴だな・・・・・」

「俺たちのせいでフィオまで死んだら俺らは死んでも死にきれねえぞ。」

「みんな・・でも・・・・・」

フィオは目に涙を溜めながら、何かを言おうとするが言葉に詰まってしまう。マヒアはそんなフィオの頭を優しくでる。

「フィオはどんなにつらい時でも優しかったし明るかった。そんなフィオが私を含めみんな大好きでたまらないんだ。だからフィオにはどんなに辛くても笑って生きていてしい。フィオ。私の最後の我儘聞いてくれないかな？」

「・・・・・・うん。私もマヒアが大好きだよ。」

我慢していた涙腺が崩壊しマヒアの腕の中で泣きじゃくるフィオ。

負傷した獣人達もそんな二人の様子を微笑ましく見つめる。

泣き止んだフィオはこれまでには見た事のない真剣な顔つきになる。

「私がゼーレとパーキ達を絶対に探してくるから。」

「頼んだぞフィオ。」

フィオは「うん！」と勢いよく返事をすると住宅地の方へかけていった。

マヒアはそれを確認すると無事だった兵に一言聲をかけ、の中に広がる不安を圧し殺しながらガラン達のもとへ向かった。