《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第十話

  さて、そんなこんなでミミがヴィルヘルムの新たな部下として加わった翌日。

  ヴィルヘルムから『その標的が本當に勇者なのか査せよ』との命をけ、ミミは一人ターゲットの男の後ろを付け回していた。

  ちなみに斬鬼は狀況証拠だけで勇者と決めつけていた自の淺慮を恥じていたが、ヴィルヘルムにそんな思は一切無く、ただ『もうし滯在時間引きばしとこう』という単純な思考の元に判斷された支持である。これに振り回されているミミも文句を言っていい立場だ。

  とはいえ、既に勘違いという病に侵されてしまった彼も殘念ながらその真意に気づく事はなく、無事斬鬼と共にヴィルヘルムの事を尊敬し始めていた。病狀で言えば既に末期である。手の施しようが無い。

(……一何をやっているのでしょうか)

  フラフラと人混みの中を歩く一人の男を、ミミは冷めた目で見つめる。こんな弱な男が本當に勇者だとは、彼には到底思えなかった。

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  大した武裝もせず、つきも瘦せぎす。縦には長いが、恐らくあれではリーチの長さもろくに使いこなせないだろう。

  腰に提げられた剣は豪奢だが、ゴテゴテとした裝飾が付いている分どうにも儀禮用という印象が拭えない。

  実際裝飾が付いている剣というのは、一般の剣よりも脆い傾向にある。細かな細工が出來るというのは、その分らかい金屬を使用している事に他ならない為だ。

  固く、く、堅く。ただひたすらに切れ味を追求した剣には、ほぼ確実に裝飾は施されていない。無駄なを付ける余裕があるなら、その分鉄を錬する。それが普通の職人の思考だ。

  勇者は聖剣とやらを持っているらしいが、あの分ではそれも大した事は無さそうだとミミは當たりを付ける。

  あっちへフラフラ、こっちはフラフラ。たまに他の通行人へとぶつかりへこへこと頭を下げては、またフラフラと歩き出す。

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(……本當にあの人が勇者なのか、ミミは自信を無くして來ました)

  もしや途中で見る相手を間違えてはいないだろうか。いや、初めからあ・あ・なのだ、それは無いだろう。だが、幾ら何でもあの言で勇者として潛り込むなど流石に無理がある。

  とはいえ、現狀潛り込んで來た勇者である可能が一番高いのは彼であることも間違いない。故に彼は疑いつつも、彼を付け回す事を余儀無くされていた。

  時折出店の商品をしたり、何気なく屋臺に寄ったり。スリをする際に培った技憾なく発揮して、ミミは男の跡を付ける。

「おら、さっさとぶつかって來た詫びれろや!!」

「誠意を見せろっつってんだよ!」

(……あれ、何やらめ事ですかね)

  と、何やら例の男を複數人の魔人族が囲んでいる。どうやら彼が男達にぶつかってしまったようで、辺りに響くような大聲で怒鳴られている。

  彼らの顔はミミも知っている。この村ではそこそこ幅を利かせている、不良達の一員だ。絡まれると必ず面倒な事になるので彼はひたすらに避けていたが、どうやらその事を知らない彼は巻き込まれてしまったようだ。

  同はするが、助ける義理もない。首っこを引っ摑まれ路地裏へと引きずられる男を、ミミは冷たく見送る。関わったところでメリットは無いし、何より彼には戦闘能力がない。だからこそ、彼んでもいないのにスリを繰り返さねばならなかったのだ。

  しばらく経ってから路地裏のに消えていった彼らを追い、さり気なく覗き込む。

(……暗くてよく見えませんね)

  これでは監視の続行が出來ない。ここで見失ったと報告してもいいのだが、彼が本當に勇者だというのなら何がしかのアクションを起こす筈。ここは事実を確かめる絶好の機會だ。

  仕方なくミミは多のリスクと引き換えに、路地裏へと歩を進める。

  背の高い建が両脇にあるからか、晝だというのに路地の中は非常に薄暗い。幸いにしては雑多に転がっている為、小さいミミのくらいならば隠す事は出來るだろう。

(この音は……毆打の音ですかね。気分が悪くなります)

  そんな薄暗い空間に響く鈍い音と、かすかなき聲。スラムで育った彼にとって、それは子供の頃から慣れ親しんだ、それでいて気分の悪くなる音だ。

  彼が特別待をけた訳ではないが、し外を歩けばそういった音は溢れていた。そしてその中にめられた僅かな悲鳴ときが、また不愉快だった。

  だが、そんな中でもミミは僅かな違和に気付く。

(……おかしいですね。奴らならもっと騒がしく暴力を振るうはずですが)

  不良達が誰かをリンチする際は、ほぼ確実に暴言を吐きながら誰かを毆りつけるというのが通例のはず。だというのに、その喧しい聲がしない。

  普段ならば騒がしくなくて良かったとで下ろすところだが、今回ばかりはそうもいかない。ミミは足音を立てないよう、ゆっくりと路地裏を進む。

  そして、漸く男達の郭が見えてきた。

(ーーあ)

  そこには、死累々と力を失って倒れ込む幾人もの男達の姿が。

  大多數は既に意識を失っており、きを上げる者も既に意味のある思考は出來ていないだろう。周囲には痕が飛び散り、既に息を引き取っている者すらいる。

  正に慘狀。ミミもを見たことが無いわけではないが、ここまで酷い殺の現場は初めて見た。込み上げてくる吐き気を、咄嗟に手で押さえることで封じ込める。

  そんな中でただ一人、ユラユラと左右にを揺らす男が立っている。

「……んー、こいつらじゃなかったんかぁ?  どうにもただ絡んできただけの不良ってじだったからなぁ」

  クルクルと豪奢な剣を弄び、そこらに転がった死へと突き刺す。に突き刺さる音と、その度に舞い上がる飛沫が、凝視していたミミの脳裏に焼きつく。

  と、その時怯えたような男の聲がか細く響く。

「……た、助けてくれ」

「んー?  あ、お前まだ居たんだ。うわ、しかもらしてるじゃん!  くっせ!  マジ巫山戯んなよお前!  さっさとどっかイけよ!」

  果たして彼が本當にらしているのか、鼻が曲がるほどの死臭に曬されているミミには、全く判別がつかなかった。

  だが、シッシと手を払う勇者と思しき男の作に助かったとじたのか、へたり込んで居た男は慌てて立ち上がり駆け出す。

  路地裏の出口、つまりミミのいる方へと駆けてきた男を見て、慌てて彼は頭をへと引っ込める。

「ギャッ!?」

  だが、次の瞬間つんざくような悲鳴。続いて何か重いものが倒れるような音。

  顔を出さなくても分かる。この音の正はーー。

「ったく、クソゴミの魔人供を逃がすわけねぇだろって。誰が逃げていいっつったよ、『どっかに逝け』つったんだよこのクソッタレが」

  ギリ、と歯噛みするミミ。間違いない、この魔人族に対する敵対心は、紛れもなく斬鬼から聞いた勇者だ。

  彼の振る舞いに思う所はあるが、彼にはどうすることも出來ない。ひとまずここを出して、ヴィルヘルム達に報告しなければ。

「何をしている」

「っ!?」

  そんなミミの背後から、唐突に掛けられる聲。彼は一気に振り返ると、袖口から護用にとけ取った短刀を取り出す。

  しっかりと刃を向けて、重を乗せる。こうすれば大抵の相手には通用する。そうだ、斬鬼から教わった通りにやればーー

「踏み込みは良いが、甘いな」

  がしり、と手首を摑まれる。それだけ、たったそれだけの作で、ミミの一撃はけ止められた。

  けない彼の首元を抑え、高く持ち上げる禿頭の男。

(何で……!?  もしかして、跡をつけられていたのは私ってこと!?)

「勇者様の跡をつけていたのは知っていたからな。悪いが、君にはしばかり寢てて貰うぞ」

  段々とミミの視界がボヤけていく。頚脈を締められ、脳に酸素が行き渡らない。

(……いきなりミスをしてしまうなんて、ミミはヴィルヘルム様の部下しっかく……です……)

  ぐにゃりと曲がり切った男の姿を最後に、ミミの意識は途切れた。

(……ざんきさま。あとは、おねがいします……)

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