《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第十四話
「……オイオイ、これは何の冗談だ?」
  剣を持った手を広げ、肩を竦める勇者。
「確かに鑑定では、お前の評価はEだった……なのに何だ?  その手はどういうこった?」
  疑問をひたすら投げかけ続けるが、當のヴィルヘルムは何も答えない。ただ自のの中に収まっていたアンリを背後へと移させ、一歩だけ前に出る。
「あーあれだろ!  お前、手を出しただけなんだろ?  カッコつけて右腕出して、『封印されし俺の力が〜』ってヤツ?  子供のママゴトでよく見るよな、ヒハハ!」
  度重なる罵倒にも顔一つ変えないヴィルヘルム。相手を激昂させ冷靜さを失わせるという自のやり口が一切通じない事に、勇者は苛立ちを隠そうともしなかった。
「……チッ、何も喋らねぇとか人形かよ。いいぜ、その気丈さがどこまで持つか試してやる」
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  苛立ちと共に懐から取り出した、一つのガラスケース。その中を見て、スルトは驚きの聲を上げる。
「なっ、勇者様!  それは持ち出しがじられている薬の筈!」
「ああ、こないだの奴から貰ったんだよ。あんたらの國王も、さっさと魔族共を皆殺しにするのがおみなんだってさ!」
  ケースの中にっていたのは大量の真っ赤な錠剤。スルトの王國で開発されていた、服用者の力を魔力によって一気に引き上げる薬品だった。
  だが、直接的に魔力を取り込むという事で暴走も起きやすいという危険を孕んでおり、現時點では未だ試作段階。実用化にはまだまだ程遠い代である。いや、その筈だった。
  しかし、現に薬品は彼の手の中にある。果たして実用化に功したのか、それとも。ショックをけるスルトを他所に、勇者はキャップを開けると一気にそれらを口へ流し込む。
「勇者様!  それを一気に摂取されては……!」
「アンタ、まさか死ぬつもり!?」
スルトもアンリも、その存在だけは知っていた。何より、アンリはその開発に一時期だけ攜わっていた事すらある。それ故に、それがどれだけ危険なか十分に把握していた。
  一つでも大半の者は命を落とすというのに、それを二十以上は同時に摂取したのだ。自殺志願者でも無ければ起こさない行に、二人は思わず聲を上げる。
  だが、彼らの制止も聞かず勇者は錠剤を噛み砕く。
  ゴリゴリ、ゴリゴリ。口の端からり切らなかった錠剤の破片が零れ落ちるのも構わず、彼は食べ続ける。
「……はぁ、生憎と、俺はコイツと相が良いみたいでね。何回も食ってきたが、一度も副作用が出たことは無いんだよ」
  そして、中が空になる。用済みになったガラスケースは投げ捨てられ、甲高い音を立てながら石畳の上に破片として打ち捨てられた。
「……は、ははは。良いぞ、最高だ。力が次々と溢れてくるこの覚ーー」
  ゾワリ、と背筋の凍るような覚。勇者から立ち昇る多量の魔力が、辺り一帯を覆い盡くす。
  ボコリと不自然に隆起する勇者の。すわ暴走の兆候か、とアンリらは構えるが、勇者は狂ったように笑い続けていた。
「ハハハはハハハははははハ!!  これがコイツらの本當の力か!  分かった、ならば全て解放してやろう!!」
  そしてーー彼のは変異する。
「なっ……勇者様が……」
「そ、そんな……」
「チッ、面倒な事をしてくれる」
  彼の背中から奇怪な羽が生える。
彼のが大する。
彼の額から角がびる。
が徐々に――異形へと変異する。
「ギヒヒヒヒヒヒヒ!! これだけありゃ魔王だって一瞬よ! いいクスリだぜこいつは!!」
とても人間とは思えないような笑い聲を上げ、変貌した勇者は一同を睥睨する。
人間どころか魔人でも存在しないような、あまりに悍ましい風貌。彼は走った眼をギョロリと走らせ、ヴィルヘルムの事を見やる。
「まずはテメェだ! その四肢を捥ぎ取って、死ぬよりもつらい苦しみを味合わせてから最後に殺してやるよ!」
ブン、と風を切って振るわれる異形の腕。その手に聖剣こそないが、そんなものを使わずとも人の一つなら容易く破壊出來る程の膂力がめられている。
だが、ヴィルヘルムは微だにせず、靜かにその手を軽く上げる。
そして――激突。
(ヴィルヘルムっ……!!)
次の瞬間に広がるであろう殘酷な景に、思わず目をつむってしまうアンリ。だが、現実から目をそらす訳には行かないと恐る恐る目を見開く。
そこには――真っ赤なが石畳に広がっていた。
「……え?」
ただし、異・形・と・な・っ・た・勇・者・の・、であるが。
「……あ?」
綺麗さっぱり無くなっている肘から先を、異形と化した勇者は茫然と見つめる。
斷面から溢れ出す自の。そしてあちこちに散らばる皮の破片。尚且つ、何故か未だ立っているヴィルヘルムの姿。
すべての景が信じられない。まるで脳が処理を拒否しているかのように、目の當たりにした景を彼は理解出來ないでいた。
「れ、れ? 俺の、腕は? なんで、お前がまだ立ってる? 何で? 何で何で何で何で何で何で何で」
勇者がうろたえる様を見て、斬鬼は口の端を三日月のように歪める。
「貴様のような畜生にも劣る雑種、わが主が意を掛ける筈も無いだろう? 火のが降りかかって來たから、その手で払った――ただそれだけの事だ」
「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがッ!!! 俺は最強なんだ! SSSなんだ!! それが、こんな、Eランク如きに負ける筈がねェだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
殘された右腕を振り上げ、再度ヴィルヘルムへと叩きつける。最早相手を苦しめる事も、技を使いこなすことも、すべてが頭から飛んでいた。
ただ一つ殘された思考は、奴を殺すというその一點のみ。それだけを考えて、勇者はその鉤爪を振る。
  だがーーそれも無駄な抵抗だった。
「オイオイ、フザケンナよ……こんな事あってたまるかよ!」
  叩きつけたはずの右腕は、ヴィルヘルムの左手にガッチリと摑まれ、そのきを止めている。
  必死にかそうと力を込めるが、まるで空間ごとい止められたかのようにピクリともかない。きを上げようが、どう足掻こうが結果は同じだ。
「くそ、離しやがれ……!」
「……」
  そこで、初めてヴィルヘルムがきを見せた。
  勇者の腕を摑んだまま、思い切り上方へ振り上げ。何気ない所作とは裏腹に、恐ろしいほどの風切り音が空間を震わせる。
「ぐ、おおおおおおおお!?」
  全に掛かる途轍もないGに、勇者のがミシミシと悲鳴を上げる。
  だが、彼のプライドに掛けてやられっぱなしでは終われない。背に生えた翼を用にかしどうにか勢を整えようとする。
  やがて上方へと向けられたベクトルがそのエネルギーを失い、勇者のへ掛かるGの拘束が徐々に消える。
  そして、上空へ飛ぼうとする力と地へと吸い寄せられる力が釣り合った瞬間、一瞬の浮遊。
(クソが、ここから一気に直下降して踏み潰す……!)
  怒りをわにし、自の真下を睥睨したその瞬間。
「ーーは?」
  間近に
  ヴィルヘルムの顔が
  あっ
「ーーぎ」
  ぐしゃり、と。
  骨が砕ける音と共に、勇者の顔面へと鋭く拳が突き刺さる。
  瞬間、空気が割れた。
「お、おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!????」
  音速を超え、雲を吹き飛ばしたヴィルヘルムの一撃は、勇者のを真芯に捕らえて吹き飛ばした。
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