《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第十七話
「ねぇ……ちょっと良い?」
  夕暮れ時、辺りが段々とオレンジに暮れ行く中、鬱な表を浮かべたアンリは靜かにヴィルヘルムを呼び止める。
  ゆっくりと進めていた歩を止めて、彼は振り返る。腕には未だ笑顔のミミがぶら下がっている為若干格好が付いていないが、それでも彼の視線からじる剣呑とした雰囲気は消えていない。
  そう、例えるならばこれは元に突きつけられた一本のナイフ。いつでも相手を殺せるように研ぎ澄まされた、純然たる殺意だ。
  ーー最強にして至高。
  ーー冷酷にして無比。
  ーー従順にして高潔。
  全ての人像が彼に一致する。どれだけ脳で否定しようと、頭の片隅では間違い無く彼・なのだと認めてしまっている。
  だがどうしても否定したくて、それでも疑い切れなくて、彼はいても立ってもいられなくなった。
Advertisement
  おそらくこれを聞いてしまえば、元の関係には戻れなくなるだろう。だが、例えそうだとしても、このまま曖昧に済ませたく無いという思いが彼の中にはあった。
「貴方は……本當にヴィルヘルムなの?」
  側から聞けば意味不明な問い掛け。だが、彼にはこれで伝わるという確信がアンリにはあった。
  だが、期待とは違いその問いに答えたのは、ヴィルヘルムに抱き付いていたミミだった。
「そうだよ。この方こそが天魔將軍の一人、《瞬刻》のヴィルヘルム様。紛う事無き本なの」
「……アンタに聞いたつもりは無いんだけど?」
「そんな分かりきった疑問でヴィルヘルム様のお手を煩わせるつもり?  なくともミミは許しませんよそんな事」
「アンタも変わったわね。それも全部ヴィルヘルム様とやらの影響かしら?」
「勿論。ミミの運命を変えてくれた人なんだから、ミミが命を捧げるのは何もおかしく無い事なんです。恩をけたら返すのが當然でしょう?」
Advertisement
  それは三日前の彼からは考えられないような発言。この僅かな間でヴィルヘルムとれ合ったミミは、最早狂信とも呼べるようなを彼に抱いていた。
  それが斬鬼の教育によるなのか、それとも彼が自発的に考えついた結論なのか。今となってはそれも分からないが、それを心地良く思っているミミが今更この考えを手放す事はないだろう。
「……やっぱり、そうするしか無いのね」
  アンリは靜かに溜息をつくと、懐から一本の杖を抜き払う。
  僅かな逡巡の後、その先を真っ直ぐにヴィルヘルムへと向けた。
「……それは何のつもりですか?  まさか命を救ってもらったヴィルヘルム様に楯突くと?」
「私は勇者よ。國の威信を背負って、皆の期待を一にけてここに來てる。だから、例え命を救われたとしても、貴方を倒さなきゃいけない」
  間に立つミミがヴィルヘルムを庇うように手を広げる。その夕日に照らされた景を、アンリは垂れた前髪の奧から覗く。
  言い切った彼の杖先は、しかしその意志とは反対に小刻みに震えている。そこには強大な力を持つヴィルヘルムへの恐怖もあるだろうが、何よりその心のを占めていたのは、自への逡巡であった。
  これまで彼と接して、話を聞いて。そうして関係を育んで來た結果、彼がここで死んでいいような、そして矛を向けるような相手ではない事はとうの昔に分かっていた。
  それどころか、勇者が言ったように彼に対して仄かな好意のようなすら持ってしまっていたのだ。
  そして、先日にわした約束を直ぐに反故にして何も思わない程冷なでも無い。故に、恩人に弓引く行為をしている彼の心中は、非常に荒れていた。
  だが、例えまぬ対立だったとしても、彼にこの場で退くという選択肢はなかった。
  ヴィルヘルムに夢を聞いたように、彼にもまた夢がある。
  それは『貧しい家族に楽をさせたい』という至極単純な、それでいてしい願いだった。
  父親が心つく前に亡くなり、殘されたのは母親と娘が三人、そして多額の借金のみ。田舎の為大した職にもつけず、それでも必死で母親は三人の娘を育て上げたのである。
  そんな母親に対ししでも恩を返そうと、長であったアンリは早々に職に就く。幸いにして魔法の扱いには優れていた為、選り好みしなければどんな職にもありつけた。
  だが、一人の給料が足された所で焼け石に水。それどころか借金の利子はますます膨れ上がり、日々稼いだ金を橫に流すという自転車業の狀態に。
  このままではどうしようもないと、アンリは一念発起して勇者パーティーに參加した。そうすれば給料が家族に出る上、いざ魔王を討伐すれば多額の金がってくる。そうして彼は並み居る候補者を退け、無事勇者の一員となったのである。
「……っ」
  しかし。だからといってそれを免罪符に悪辣を働ける程、彼の神は腐っていなかった。
  信頼と裏切りが天秤に掛かり、ユラユラと不安定に傾く。
  と、その時。ヴィルヘルムがき出した。
  前に立ったミミをまた庇うように背後に據え、アンリに対して諸手を広げる。それはまるで、彼の全てをけれると言っているようで。
「……あ、アアアアアアア!!!!!」
  らしからぬ咆哮と共に、アンリは杖を思い切り振るう。
  次々とヴィルヘルム目掛けて飛んで行く數々の魔法。それはまるで溜まった鬱憤を晴らしているようでも、収まり切らなかったを溢れ出させている様にも見えた。
  著弾。著弾。著弾。著弾。一発として避けられる事なく、ヴィルヘルムのにとりどりの魔法が突き刺さって行く。
  やがて蓄えてあった魔力が全てすっからかんになり、アンリの攻勢はあっという間に止んだ。打って変わって靜まり返った夕焼け空に、アンリの荒い息遣いだけが響く。
「ハァーーーハァーーーや、やっぱり、あり得ないほどの耐久力ね……」
  だが、《ジャイアント・キリング》を発したヴィルヘルムにとって、その程度の連撃は雨に打たれるよりも軽いものだった。
  ヴィルヘルムより後方に一切の傷跡は無く、彼の服にも煤一つすらついていない。狀況だけ見ればどちらが攻撃していたのか分からないほど、両者の間には隔絶した力量差があった。
  詰まる所、彼が全霊を掛けて放った攻撃は、天魔將軍たるヴィルヘルムにとって取るに足らないだったのである。
  全力を盡くして、尚この有様。己の無力さを噛み締めることになったアンリは、そのまま地面へと仰向けに寢転んだ。
  真っ赤に染まった夕焼けをみながら、風景だけは故郷と何も変わらないな、と益も無い事を考える。著しい郷愁に襲われた彼は、気付けばポツリと口から弱音がれ出ていた。
「……これからどうすればいいのかな」
  寄る辺も目標も失い、挙げ句の果てには自の貧弱さまで思い知らされる事になった彼には、もう既に夢らしい夢など持つことは出來なかった。
  あれだけヴィルヘルムに講釈を垂れておいてけない、と自でも思うが、これだけ多くの事が一度に起こったのだ。パニックを起こすなという方が難しい。
  だが、そんな彼に対してもヴィルヘルムはいつも通りだった。
「……好きにしたらいい」
  それは傷心の相手に掛けるにはあまりに無神経な言葉。聖人というわけでも無いアンリの癪にるには十分すぎる発言だった。
「好きにって、私もそんな簡単に出來たら……!」
  ガバリと起き上がり、まくし立てようとするアンリ。だが、彼の気勢がそれ以上続くことはなかった。
  なぜなら、ヴィルヘルムから手が差しべられていたから。
「……あ」
  その瞬間、何かが心の中にストンと落ちる音がした。
  問題が解決した訳ではない。世界が変わった訳でもない。ただ、何故だかわからないがーーその瞬間彼は確かに安・心・し・た・の・だ・。
  暫しの茫洋の後、アンリは彼の手を取る。その手は冷酷という通り名に反して、とても暖かかった。
大好きだった幼馴染みに彼氏が出來た~俺にも春が來た話
ずっと一緒だと思っていた。 そんな願いは呆気なく崩れた。 幼馴染みが選んだアイツは格好よくって、人気者で... 未練を絶ち切る為に凌平は前を向く。 彼を想い続ける彼女と歩む為に。 ようやく結ばれた二人の戀。 しかし半年後、幸せな二人の前に幼馴染みの姿が... 『ありがとう』 凌平は幼馴染みに言った。 その意味とは? 全3話+閑話2話+エピローグ
8 5712ハロンのチクショー道【書籍化】
【オーバーラップ様より12/25日書籍発売します】 12/12 立ち読みも公開されているのでよかったらご覧になってみてください。 ついでに予約もして僕に馬券代恵んでください! ---- 『何を望む?』 超常の存在の問いに男はバカ正直な欲望を答えてしまう。 あまりの色欲から、男は競走馬にされてしまった。 それは人間以上の厳しい競爭社會。速くなければ生き殘れない。 生き殘るためにもがき、やがて摑んだ栄光と破滅。 だが、まだ彼の畜生道は終わっていなかった。 これは、競走馬にされてしまった男と、そんなでたらめな馬に出會ってしまった男達の熱い競馬物語。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団體・國などと一切関係がありません。 2018/7/15 番外編開始につき連載中へ狀態を変更しました。 2018/10/9 番外編完結につき狀態を完結に変更しました。 2019/11/04 今更ながらフィクションです表記を追加。 2021/07/05 書籍化決定しました。詳細は追ってご報告いたします。 2021/12/12 書籍化情報を追記
8 63【書籍化】王宮を追放された聖女ですが、実は本物の悪女は妹だと気づいてももう遅い 私は価値を認めてくれる公爵と幸せになります【コミカライズ】
聖女のクラリスは王子のことを溺愛していた。だが「お前のような悪女の傍にいることはできない」と一方的に婚約を破棄されてしまう。 絶望するクラリスに、王子は新たな婚約者を紹介する。その人物とは彼女と同じ癒しの力を有する妹のリーシャであった。 婚約者を失い、両親からも嫌われているクラリスは、王子によって公爵に嫁ぐことを強要される。だが公爵はクラリスのことを溺愛したため、思いの外、楽しいスローライフを満喫する。 一方、王子は本物の悪女がクラリスではなく、妹のリーシャだと知り、婚約破棄したことを後悔する。 この物語は誠実に生きてきた聖女が価値を認められ、ハッピーエンドを迎えるまでのお話である。 ※アルファポリスとベリーズカフェとノベルバでも連載
8 108異世界転移で無能の俺 ─眼のチートで成り上がる─
淺川 祐は、クラスでの異世界転移に巻き込まれる。 しかし、ステータスは低く無能と蔑まれる。 彼が唯一持ったスキル「眼」で彼は成り上がる。
8 139職に恵まれた少年は世界を無雙する
ある日突然、出雲高等學校2年2組にやってきた、異世界から來たというエルバという人間。 その異世界は今、滅亡寸前!助けを求めてやってきたらしい。主人公はその異世界を救うために異世界へ転移した。ありきたりなファンタジーがここに來る! チート級スキルの主人公無雙! 感想とか間違いとかコメントくれたら嬉しいです!入れて欲しいキャラとかこうして欲しいとかあったら遠慮なくコメントしてください。 表紙→picrew「君の世界メーカー」 Twitter→真崎マサキ @skmw_i 投稿→不定期 気長に待てる人は読んでください。
8 198私、いらない子ですか。だったら死んでもいいですか。
心が壊れてしまった勇者ーー西條小雪は、世界を壊す化物となってしまった。しかも『時の牢獄』という死ねない効果を持った狀態異常というおまけ付き。小雪はいくつもの世界を壊していった。 それから數兆年。 奇跡的に正気を取り戻した小雪は、勇者召喚で呼ばれた異世界オブリーオで自由気ままに敵である魔族を滅していた。 だけどその行動はオブリーオで悪行と呼ばれるものだった。 それでも魔族との戦いに勝つために、自らそういった行動を行い続けた小雪は、悪臭王ヘンブルゲンに呼び出される。 「貴様の行動には我慢ならん。貴様から我が國の勇者としての稱號を剝奪する」 そんなことを言われたものだから、小雪は勇者の証である聖剣を折って、完全に勇者をやめてしまった。 これで自分の役割を終えた。『時の牢獄』から抜け出せたはずだ。 ずっと死ねない苦しみを味わっていた小雪は、宿に戻って自殺した。 だけど、死ぬことができなかった。『時の牢獄』は健在。それに『天秤の判定者』という謎の稱號があることに気が付く。 まあでも、別にどうでもいいやと、適當に考えた小雪は、正気である間を楽しもうと旅に出る。 だけど『天秤の判定者』には隠された秘密があった。 アルファポリス様、カクヨム様に投稿しております。
8 145