《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第十八話
さて、そんなこんなあってからの後日談である。
まず勇者がに送り込んでいた偵達だが、これは斬鬼の盡力(というか逆鱗)によって全て壊滅。殘黨も報告をけたアルミサエルの部下が回収した。彼らは恐らく、口にするのも悍ましい仕打ちで報を引き出させられる事になるのだろう。
結局斬鬼の仕事も大方ヴィルヘルムの手柄だと報告されることになり、またまたヴィルヘルムの名聲度がレベルアップ。姿が出回らないまま、名前だけ先行して魔王領にその名聲を轟かす事になるのだろう。
戦爭時のプロパガンダとしてはある種仕方のない事かもしれないが、虛実りじった噂を立てられるとしては溜まったものではない。
一番タチが悪いのは、斬鬼自は一切虛構を伝えているつもりはないという所だ。
勇者を見つけられたのはミミを見繕ったヴィルヘルムの手柄。その殘黨まで燻り出せたのは勇者を叩きのめしたヴィルヘルムの手柄。彼がやった事と言えば勇者を良く分からないまま吹っ飛ばした事くらいだと言うのに、彼は心の底からそう思っているのである。
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  勿論ヴィルヘルムもの丈に合わない評価に対し、初めの頃は異議を唱えてみせた。だが、以前彼のない口數でどうにか説得しようとした所いつもの勘違いが発し、結果としてより悪化してしまった経緯もある。
  結果、それ以來彼が口を出す事はなくなっていた。彼とて自の欠點は重々承知しており、それをなんとかしたいとも思っているのだが。
  そして、二つ目に変わった大きな點は。
「ぐっ……貴様、新りの分際でヴィルヘルム様に近付き過ぎだぞ!  いや、それ以前に誰が貴様に付いてきていいと言った!」
「殘念ながらヴィルヘルムから許可は貰ってますー。貴に態々お伺いを立てる必要なんて無いのよ!」
「このっ、ヴィルヘルム様を呼び捨てなどと……!  やはりあの時に斬り捨てておくべきだったか!」
(う、うるせぇ……)
  休暇のような任務を早々に(不本意ながら)終わらせ、アルミサエルの寄越した馬車で自の領地へと戻るヴィルヘルム。だが、行きの際の人數と比べて、およそ二名ほど頭數が増えていた。
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「アンタが第一の家臣だろうとなんだろうと、このアンリは既にヴィルヘルムの元で雇われるって決めたのよ!  夕焼けのあの時にね!」
「み、ミミもいる事を忘れないでしいです……」
  言うまでもなく、アンリとミミである。
  二人は遠慮して主君の前に座っている斬鬼を差し置いて、ヴィルヘルムの両隣を陣取っていた。
  禮を失したこの仕打ち、勿論斬鬼が許すはずも無くその手に刀を攜えるのだが、アンリは兎も角、斬鬼には頭が上がらないミミすら退く様子は無い。
  ヴィルヘルムのノーリアクションをオーケーのサインと取ったのか、今日の彼達はやけに強気だ。當の彼は心でパニクっているだけであろうとは、この場の誰一人思っていない。
「な、ミミは兎も角貴様は人間であろう!  勇者側を裏切るとでも言うのか!」
「別に魔王側についたつもりなんて無いわ!  ただヴィルヘルムに付いていこうと思っただけ。あの場で『好きにしろ』って言われたから好きなように判斷したまでよ!」
  なんとヴィルヘルム、無責任に放った一言がここでブーメランとなって強かに彼の背中を打ち據える。
  別に彼自深い意味を込めた訳では無い。ただ『どうすればいい』と聞かれたから『好きにすればいい』と答えただけである。それが曲解されたのは……いや、やはりヴィルヘルムが言葉なであるせいであろう。
「チッ……だが主人に引っ付く事まで許可した覚えはない!  そら、貴様もこっちに來るんだ!」
「キャァッ!?」
「み、ミミもですか……グスン」
  遂に痺れを切らしたのか、斬鬼は二人の首っこを摑み自の側へと引き寄せる。ミミは泣き真似までしてみせたが、流石に今更それに騙される者はこの場にいない。
(……や、やっぱり子供を手荒に扱うのはアレだよな……)
  ……いや、一人だけ居たが。
  さて、そんなこんなである意味和やかな空気が流れていた馬車の中だが、それは唐突に破られる。
  ヴィルヘルムの腰元に提げられた紫の石がり輝き、魔王からの通信をけ取っていたからだ。
『ハッハッハ!  王たる我が直々に通信を掛けてやったぞ!  謝して頭を……む?  なにやら見知らぬ顔が多いな』
  高笑いを契機に響き渡る魔王の聲。慣れた斬鬼はスムーズに頭を下げるが、初めてのアンリとミミはびくりと肩を震わせる。因みにヴィルヘルムは慣れているけど毎回驚く。
  魔王からの通信は、何も聲を伝えるだけではない。彼謹製の魔導石を使えば、周囲の景すら彼に伝わってしまうのである。いわゆる監視も兼ねた、防衛機構の一種とも言えた。
『ふむ、狐人族フォクシーの娘と……うむ?  これは人族か。どうにも待遇を見るに捕虜ではないだろうが……』
  しばし考え込む魔王に、張した面持ちでその宣告を待ちけるアンリ。敵対している國の長とあっては、流石の彼も張せざるを得ない。
『……わかった!  ヴィルヘルムの婦イロじゃな?  このこの〜、鉄面皮の下はムッツリだったかこの男め!』
「だ、誰が婦よ!」
  ……魔王の発言で張など何処かへ飛んでしまったようだが。
  先程までじていた張は何処へやら、思い切り異を唱えてしまうアンリ。直後に自信が誰に向かって言ってしまったのかを思い、顔を青くする。
『ハッハッハ! 相変わらず人間共は生きが良いな。そう恥ずかしがらずとも良い。漸くこの冷男にも春が來たかと喜んだだけだからな』
「……だから婦じゃないってのに……」
  小聲で文句を言いつつも、それ以上何か異議を唱えることは無い。いくら魔王が気にしていないと言えど、いつ気が変わるか分かったものではない為だ。
『……と、雑談をする為に通信した訳ではないんだったな。改めてヴィルヘルムよ、此度の働きに謝する』
「……俺は何もしていないがな」
『ふ、謙遜は徳だが、それも過ぎると徳ぞ。賛辭くらいは素直にけ取れ』
  本心から言った言葉も謙遜とけ止められてしまえばどうしようもない。
『ただ、勇者の討伐をこなした後に悪いのだが、しやって貰いたい事があっての。重要な事だ、悪いが拒否も許さん』
「やって貰いたい事……聞く限りでは余程重要そうな事ですが」
『その通り、これは國益に関わるレベルでな。危険度も高い為、個人で圧倒的な戦力を持つヴィルヘルムが適役なのだよ』
「お言葉ですが、個人で高い戦力という意味ならばノーチラス様にヴェルゼル様も……いえ、勿論ヴィルヘルム様が一番でございますが!」
  誰に向かって言い訳をしているのか、斬鬼が慌ててフォローをれる。勿論それで機嫌を損ねた訳でもないヴィルヘルムは、ただ首を傾げるだけだ。
『まあ確かに奴らでも戦力的には良いんだが……いかんせん頭の方が、な』
  辛辣な一言である。
「となると……もしや外的な件でしょうか?」
『相変わらず察しがいいな斬鬼よ。その通り、此度は他の國ーーマギルス皇國から書簡が屆いてな。何でも我が國と國の樹立、そして不戦協定をんでいる、と』
「マギルス皇國ですって!?」
  と、そこで激しい剣幕で立ち上がるアンリ。
「魔王様の前ぞ、控えろ」
「これが控えてられないわよ!  マギルス皇國って……私達を送り込んだ國なのよ!?」
  その一言に、斬鬼も思わず黙り込んだ。
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