《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第二十二話
  真下にぽっかりと空いた、巨大な孔。重力に引かれて竜車は、そのまま落下を始めるーー
「させっかよ、『ドラゴニック・スケイル』ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
  と思われた瞬間、ヴェルゼルがスキルを解放して、一瞬の間に竜車の真下へと回り込む。ズン、と一際強い衝撃と共に、落下は止まった。
  一同が安心しをで下ろしたのも束の間、再び竜車には強い衝撃が。ただし今回じたのは腹の底が浮かび上がるような気味の悪い浮遊ではなく、上から急激に押さえつけられるような圧迫だ。
  そのきから竜・車・が・放・り・出・さ・れ・た・と、ヴィルヘルム達が気づく事が出來たのはその數瞬後の事。全にかかる強烈なGに、思わずき聲がれる。
  そして、著地。
  ズドン、とおおよそ竜車が立てて良いようなものではない音が立ち、轍を殘しながら元の地面へとたどり著く。
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  ガクンガクンと揺れる車に、激しくシェイクされる一同。下手に悲鳴の一つでも上げようものならすぐ様舌を噛み切りそうな勢いに、誰一人聲を上げようともせずに衝撃へ耐える。
  だが、嵐がいつか収まるように、この勢いもいつまで続くものではない。
  しばらくして、漸くきを止めた竜車から、ゾロゾロとアンリ達が出てくる。三半規管をひどく揺らされたのか、アンリとミミはまともに立って歩く事もままならない様子であり、斬鬼にしてもふらついてこそいないが、その表には疲れが見て取れた。
「つう……一何だって言うのよもう……」
「ヴェルゼル様……助けていただけたのは素直に謝いたしますが、この助け方はいかんせん雑過ぎはしないでしょうか。魔王様から賜った貢もっているのですよ」
  斬鬼が呆れた聲で肩を竦めるが、の中から飛び上がって來たヴェルゼルは何処吹く風といった様子で泰然としている。
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「折角助けてやったっていうのに、相変わらず張り合いのねェ奴だ。急時だったんだからそんくらい許せよ」
  彼のその姿を見て、アンリとミミはそれまでじていた吐き気も忘れて思わず息を飲む。
  爬蟲類のような縦長の瞳孔。全を覆うエメラルドの鱗。手足には鉤爪、腰元には長ほどもある尾と、それまでの人間らしい姿とは打って変わって、まるで噂に語られる『ドラゴン』の様な風貌となっていたからだ。
  いや、それはある意味でドラゴンそのものだったのだろう。彼の種族は『竜人族ドラゴニュート』。遙か太古の時代に幻想の種族であるドラゴンとわったとされる、魔人の中でも特殊な存在である。
  竜という一個人が持つには過ぎた力をそのに収めている為か、竜人族は軒並み『本來の姿でいるとに負擔が掛かり、場合によっては壽命すらまる』という本的なデメリットを背負っている。その為、彼らはスキルという形で本來の姿を封印し、普段は普通の人間の姿を取る事で、自への負擔を軽減させているのだ。
  そして重い代償を背負っている分、元の力を取り戻した際の恩恵は絶大だ。力だけで見れば魔王すらも上回る程であり、魔人の中では隨一と言ってもいい。
  ヴィルヘルムが『靜』だとすれば、ヴェルゼルは圧倒的な『』だ。タイプの違った彼の荒々しい風貌を目の當たりにする事で、アンリ達は改めて天魔將軍の脅威を思い知る。
「にしても……こいつは隨分と大掛かりな仕掛けだな。確実に天魔將軍レベルを想定として作られてやがる」
  ヴェルゼルが振り返って先を見渡す。
  そこに広がっていたのは、地の果てまでぽっかりと口を開けた大だった。
  底は覗いても地が見えないほど深く、今にも吸い込まれそうなほど暗い。一度ってしまえば、などと出てこられないような恐怖があった。
「ご丁寧に地の底へ引きずり込む様な式まで用意してやがる。オレが空飛べなきゃし危なかったかもな」
「それにこうも端で止まれたのは、偏にヴィルヘルム様の警告のおでしょう。下手に踏み込んでいればそのまま式の餌食になっていたやもしれません」
「チッ、癪だが認めてやる。確かに今回ばかりはオレも気付けなかった……奴の警告で気付かされたのは不満だがな」
「……あれ、そう言えばヴィルヘルムは?」
「貴様、だから様を付けろと……む、確かにいらっしゃらない」
  ふと辺りを見回すと、相変わらず勘違いをされている當のヴィルヘルムがいない。
  が、彼達が探そうとする意志に応えたかのように、ほぼそれと同タイミングでヴィルヘルムはややひしゃげた竜車の中から姿を現した。
「ヴィルヘルム様!  申し訳ありません、この様な不測の事態を招いてしまい……お怪我はございませんか?」
「……問題ない」
  慌てて駆け寄った斬鬼に対し、あくまでも冷靜にその手を押し退けるヴィルヘルム。
(……ッ、やはり許される事では無かったか……しかし、これも仕方のない事。素気無く払われたこの手は、私に対する罰……)
  だが、彼の何気ない作は、それはもう痛く彼の事を傷つけていた。
  ヴィルヘルムの第一の臣下と自稱し、彼に心酔しきっている斬鬼からすれば、ばした手を払われるというのは最大級の罰にも等しかった。
  今回の件はヴェルゼルにも予想出來なかった襲撃だ。それを探知に優れているわけでもない斬鬼が見つけるなど、本來なら有り得るはずがない。
  しかし、彼にしてみれば『それがどうした』という話だ。主人を危険に曬すなど、臣下として言語道斷、あるまじき行為。自の能力が足りなかろうが、そんな甘えた泣き言は許されない事である。
  今にも跪いて懺悔を乞いたいというが湧き上がってくるが、それをしてしまえば軽く見られるのは自だけでなく、主君のヴィルヘルムだ。故に彼は、その様な醜態は曬さないと涙をぐっと堪える。
「……何を立ち止まっている。行くぞ」
  が、そんな心には構い無しに、ヴィルヘルムが彼の肩を軽く叩く。
「あっ……」
  その瞬間、斬鬼のに電撃が走った。
  いや、これは比喩だ。勿論ヴィルヘルムに電撃をる能力がある訳ではないし、他の外界的な要因でもない。正真正銘、ただの直喩である。
  だが、確かに電撃が走った。そう思えるほどの衝撃が、彼の背筋を貫いた事は間違いない。
  それは理的なものでは無く、あくまで神的な、彼の面で起こった出來事。ただ単純に、斬鬼のがオーバーフローを起こし、それが擬似的な衝撃となって沸き起こった衝だった。
  自らの失態を許されたという事実。本來ならばれる価値すらない自の事を、態々れて下さったという悅び。そして自分に対してまだ期待を込めてもらっているという満足。その全てがないまぜとなって、斬鬼のを一瞬にして駆け巡る。
  その絶頂にも似た快にゾクリと背筋を震わせると、靜かに一禮しヴィルヘルムの後をついて行く。
  ……さて、當然のことながら、ヴィルヘルムには彼を責め立てる様な意図はこれっぽっちもなかった。では何故、彼の接近を一時は阻んだのか。
  それは実にシンプルな理由であり、しかしだからこそ絶対に発覚させるわけにはいかない事。
  何故彼は竜車から暫く出てこなかったのか。普段は気にもしない彼の接を何故拒んだのか。
  そう、その答えはーー。
(俺のリバース現場など絶対に見せるわけにはいかない……!!)
  ……考えてみれば自然な事ではある。あれだけの暴な運転に加え、トドメとばかりに車を見舞ったシェイクの悲劇。それだけのことを食らって、全ステータスが一のヴィルヘルムが吐き気を耐えられるわけがない。
  全員の目が離れたところを見計らって、こっそりと奧まで溜まっていた衝を解放したヴィルヘルム。どうにかこうにか隠し通せた所までは良かったが、そこで斬鬼達に呼ばれた事で仕方なく彼らの元へ行く事に。
  しかし、せっかくそこまで隠し通しても、近付いてきた斬鬼にバレれば全てが終わり。軽蔑程度で済めばいいが、下手すれば離反なんてこともあり得る。故に、彼は必死で彼の事を竜車から遠ざけたのだ。
  実は実にしょうもない理由だったが、かといってそれが周囲に伝わるわけもなく、結果としてこの事態は彼が冷や汗を流すだけで終わることになった。
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