《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第三十話

  王との謁見は、斬鬼やアンリの心配を余所につつがなく終わった。

  先程のサカグチの件から、アンリは國王すらも変わっているのではないかと、自の知識に不安を覚えていたが、良い意味でそれは裏切られ、國王は以前見た時と変わらない髭面の偉丈夫であった。

  ヴィルヘルム達は國王から簡単な歓待をけた後、『長旅故に疲れているだろう』という事で正式なパーティーは翌日に回され、先に迎賓館へと案される。

  それなりに金をかけたであろうその外裝や裝には目もくれず、部屋に案され使用人達がドアの外に出て行った途端、斬鬼はアンリに向かって指示を言い渡した。

「おい貴様。とりあえずさっさと外に出てこい」

「著いて早々にいきなり過ぎるでしょうよ!?  せめて頼み事するならしばかり申し訳なさを演出しなさい!」

「……?  申し訳、無さ?」

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「あ、うん、良いわ。それを貴に求めるのがそもそもの間違いだって言ってから気付いたから」

  本気で不思議そうな表を浮かべる斬鬼に、アンリは頭を抱える。彼の辭書に『反省』や『謙虛』といった類の言葉など存在しないのだと、出會った時からわかっていた事だろうに。

  アンリの反応に小首を傾げていたが、まあ良いかと斬鬼はそのまま話を進めた。

「ここは貴様の祖國だろう?  ならばある程度は市民達にも顔が効く筈だ。私やミミが出向くより、その方が効率がいい」

「ちょっと、いきなり出向けって言われても何をすれば良いのか分からないわよ。それに迎賓館には警備もついてるし、私一人じゃ抜け出すことも難しいじゃない」

「惚けるな。貴様も既に分かっているだろう?  どうにもこの國に踏みってから、違和ばかりじると」

「……それは」

  確かに彼の言う通り、この街にはおかしな所がいくつかある。一度も訪れたことが無い斬鬼でも分かるような、どこか薄気味の悪い雰囲気。

別に彼らを排斥しようとするではない。いや、むしろそうであった方が自然ですらあっただろう。異様なまでの歓待合に、さしもの斬鬼すら居心地の悪さをじる程、この街の反応はどうにもすんなりとれがたいがあった。

それはかつてよりこの街と長を共にしていたアンリにとっても同じこと。慣れ親しんでいる分彼よりもより敏にその空気をじ取ってはいたが、しかしその原因を突き止めるには至っていなかった。

「他の者が出張ってもいいが、私ではあまりに目立ちすぎるし、ミミでは不測の事態に対応できない。この中で調査に出張るなら、どの道貴様が適任だ」

「ま、確かにそれもそうだけど……」

ちなみにこういった會話でナチュラルにヴィルヘルムが省かれているのは、最早様式である。確かに彼自、スキル以外では対して仕事が出來ないという事は理解しているが、それでも若干の疎外を毎回覚えているのは緒である。

「だが、確かにこの迎賓館から抜け出すのはやや面倒だな……警備もそれなりに厳重、使用人までも一人一人に付くと來た。いっそ全員縊り殺すか?」

騒な事言わないでよ! 仮に功したところで、明日には全部バレちゃうじゃない!」

「フッ、冗談だ。ヴァンパイアジョークだ」

基本スペックは高いが、生憎とジョークセンスには恵まれなかった斬鬼。珍しく機嫌の良い笑い聲を上げているが、それを聞かされた側にしてみれば、々しすぎて一切笑えるものではない。

  當然アンリもミミもげんなりとした表を浮かべるが、斬鬼はそれに気付いた様子もなく話を進める。

「しかし、ふむ……幻魔法を扱える者がいれば良かったのだが、確か貴様達は使えないのだろう?」

「ま、私は基本的に攻撃魔法と簡易的な補助魔法しか使えないしね。多數を騙せるレベルのになると流石に専門的な話になるから」

「み、ミミはそもそも魔法なんて使えません……」

「チッ、やろうと思えば習得は出來るだろうが、今から私が學習するには時間がないか……」

  を噛んで一人思案する斬鬼。こう行った力を制限された狀態で狀況を打開するというのは初めての経験の為、どうにも上手い考えが思い浮かばずにいる。

  と、現狀を卻する方法が無く膠著した狀況の中、唐突にヴィルヘルムがき出す。

「……?  ヴィルヘルム様?」

  困の聲を余所に、彼は徐に自らの服へ手を掛け、ボタンを外し始めた。

  金の刺繍が編まれた豪奢なマント、り輝く勲章が元に付けられた禮服。どれも庶民では到底手の屆かないレベルの服を、彼はどれも無造作にベッドの上へと放り投げる。

  真っ白なシャツに黒のズボンと、先ほどまでとは打って変わってシンプルな服裝に変わったヴィルヘルム。平凡な顔立ちや雰囲気も相まって、知らない者が見ればそこらの一般市民と何ら見分けが付かないであろう。

  いや、実際偶然手にした地位を除けば彼はそこらの市民と変わらないのだから、當然といえば當然のことがなのだが。

  さて、このヴィルヘルムの唐突な行。別に彼からしてみれば大した事はなく、ただいつまでも暑苦しい裝を著ているのが辛くなっただけの話である。

  がしかし、それを見ていた斬鬼がどう思うか。最早恒例行事のように、彼の行の意味を深読みするだけである。

「……服をくれ」

(この服生地厚すぎない? 風通し悪すぎてすっげー気持ち悪いわ)

持ちがどこにあるか分からなかった為、替えの服裝を要求するヴィルヘルム。斬鬼は彼の要求に一度目を見開くと、すべてを察したと言わんばかりに深く頷いた。

「……そういう事ですか。ヴィルヘルム様の決定でしたら、私も引き留めるなど無粋な事は致しません。ミミ、使用人の服をしばかり頂いてこい」

「使用人の服……? えっと、一何に使うのでしょうか?」

「相変わらず察しが悪いな貴様は。ヴィルヘルム様は自ら、直々に出ると仰られているのだ! それも下々の、質の悪い使用人の服をに著けてまで!」

(あれ、また空気おかしいことになって無い? なんか勘違いされてない?)

僅かに目を見開くことで驚愕、そして反対の意をわにするヴィルヘルムだったが、當然その機微が伝わる筈もなく。

「我々が不甲斐ないばかりに手を煩わせてしまうのは不甲斐ない事この上ない……だがそれが心だというのであれば、私達にそれを引き留めることは出來ない。ここまで私が説明してやったんだ、後は分かったな?」

「は、はい! 不肖ミミ、任務を遂行して見せます!」

「……なんか日を重ねるごとにミミのキャラが分からなくなっていくわね……」

同じヴィルヘルム崇拝者としての誼よしみか、珍しく斬鬼が夜な夜な、直々に『偉大なるヴィルヘルム様崇拝講座』なるものを、ミミ相手に開いているという事をアンリが知ることになるのは、まだまだ先の話である。

結果、ヴィルヘルムとアンリは外で。斬鬼とミミはでそれぞれ報を搔き集めることとなった。

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