《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第三十三話

  ヴィルヘルムらが住民へ聞き込みに行っていた頃、斬鬼とミミもそれぞれ行を起こそうとしていた。

「さて、ヴィルヘルム様直々にいて下さっているというのに、我々だけ何もしないという訳にはいかない。いや、私は別に疑っているわけでは無い。寧ろヴィルヘルム様なら、既に真相の核心すら摑んでいて然るべきとも思っている。だがしかし、それに甘えてするばかりでは私達眷屬が長しないのだと、多大なる慈悲によって思われているのだよ」

「はい、重々分かってます」

  斬鬼の長々とした臺詞に、ひたすらコクコクと頷くミミ。頷く度に狐人族フォクシー特有の三角耳がぱたぱたと揺れる。

「故にこの不審な皇國の謎を、我々は我々自の手で解き明かさねばならない。この位は貴様でも理解しているだろう?」

「はい、それも承知してます」

  一際強くブンブンと頭を振る。勢いの強さに、尾もぱたぱたと揺れる。

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「良し、ならばこの辺りで今一度怪しい部分を再確認しておく。まず第一に、この國で明らかに『おかしい』となった點はどこだ?」

「それは勿論、『この國の待遇の良さ』です。王様とかの態度は同盟相手と考えれば分かるんですが、普通の人の喜び様がどうにも理解出來ません」

「その通り。理解出來ないことを行うのがニンゲン共のだと理解していたが、これはそれ以上の問題だ。長年戦爭狀態にあった國の使者をこうまで歓迎出來るというのは、異様を通り越してあまりに異常だ」

  アンリ然り、彼の知っているニンゲンというものは総じて理解の出來ない非合理的な事を行うことがある。だが、理解は出來ずとも納得する事は可能ではあった。

  しかし、今回ばかりはその範疇に収まらない。戦爭で親族を失った者もいるだろう。中には気まぐれで殺されたような、そんな不運な兵士もいたかも知れない。敵対國家ともなれば、ネガティブな扇を行う事もあっただろう。

  だというのに、それを飛び越えてこうまで歓迎が出來るというのは、最早聖者ですらなく、いっそ只の異常者と言った方が正しくも思える。

「それに、この國の警備も変です。王宮というからには偉い人が一杯いる筈なのに、詰めている兵士の數がな過ぎました。それこそ、迎賓館とはいえミミ程度が自由にける程に。勿論、私達に警戒心を與えない為という事も考えられますが……」

「ふむ、貴様から見てもそう思えるか。ならば確かにないのだろう。なくとも、私を止められるような兵力が詰めている気配はしない」

  これは強者である斬鬼だからこそ分かり辛い事であり、弱者であるミミだからこそ分かったことでもある。

  斬鬼にしてみれば人間などの數では無く、いくら群れようと敵にはならない。無論自の敵に回りそうな強者は何処と無くじ取る事ができるが、弱者に対しては歯牙にも掛けないのが吸王としての流儀だ。

  反対に、盜人として生計を立ててきたミミにとって、外界の全ては自の敵であった。スキルも無く、ステータスも貧弱。生まれながらにして弱者としての地位が決定づけられていた彼が心掛けていたのは、『自分と相手の差を見極める』という事だ。

  盜みを働いてもバレないか、バレたとして追われても逃げ切れるのか、そして捕まった際、どれ程酷い目に遭うのか。そういった要素を全て俯瞰しながら、瞬時に判斷する能力を彼は鍛え上げてきた。いや、鍛え上げねばな・ら・な・か・っ・た・。

  故に、察力という一點においては、ミミは斬鬼の一歩上を行く。可らしい仕草と外見という皮に包まれた本は、どこの誰よりもクレバーなのだ。

「他にも新たな勇者の登場、先日の襲撃など、不審なところを上げればキリが無いですが……」

「ああ、主立った點を理解しているなら良い。確認は以上だ」

  斬鬼は手近にあった椅子を引き、深く腰掛ける。肘掛に頬杖をつくと、思案するように視線を宙に浮かせた。

「そこで、だ。その観察力を見込んで、貴様にはこの迎賓館報収集に勤しんでもらう」

「迎賓館で、ですか?  でも、あまり大した報は得られないのでは……」

「確かに王宮などと比べれば大した事はないだろう。だが、ここに勤める下人はあくまで平民だ。どこかで聞き齧ったような噂を垂れ流すような阿呆がいない訳でもあるまい?」

  噂好きの人間というのは、どこの世にも存在する。それが真実であれ噓であれ、何かを流布するという事に取り憑かれたような人種は一定數いるのだ。

  火の無いところに煙は立たぬという事もあり、噓だとしても何がしかの拠があるのが噂というもの。そういった不確定な報も、この狀況ではしでも取っ掛かりになる。一縷のみというほど追い詰められてはいないが、手掛かりが足りていないというのもまた事実であった。

「方法は……そうだな、ヴィルヘルム様と同じ方法は流石に通用しないだろう。あくまで見つからない様に、隠れながら報を集めろ。から様子を伺え」

「隠れて……ですか。でも、ミミに出來るかどうか……」

  そういってミミは靜かに俯く。

  彼は前回、勇者パーティー相手に健闘虛しく遅れを取ってしまっている。大した抵抗も出來ず、あまつさえヴィルヘルムに軽い怪我すら負わせてしまった出來事が、彼の心に未だ尾を引いているのだ。

  人間は最悪だったとはいえ、相手はステータスがSSSの勇者。本來ミミにとっては逃げ切ることすら難しい相手であり、それを相手に敗北したというのは決して恥じる事ではないが、それでもヴィルヘルムに報を齎せなかったという一點で全ての評価が地に落ちていた。

「貴様の懊悩もある程度は理解している。だが、今ここで隠のノウハウに最も長けているのが貴様だというのもまた事実だ。分かるな?」

「そんな、ミミはとても……」

「謙遜は結構。私やあの忌々しいはそういったを修めている訳では無く、ヴィルヘルム様もその溢れ出る威で完全に隠れ切る事は難しいだろう……いや、あの方ならばそういった小細工など弄することなく、全てを解決出來るのだが……兎に角、貴様にしか出來ないことであるというのは理解したか?」

「……で、でも」

「くどい。返事は『はい』か『イエス』の二択だ」

  言い淀むミミに業を煮やしたのか、強い口調で選択肢を迫る斬鬼。実質一択という事には突っ込んではいけない。

  迫力に負け、ピシリと背筋をばすミミ。こうなった時點で、自分に選択権は無いというのは痛いほど分かっていた。

「は、はい!」

「良し。まあ、萬が一失敗した場合の保険くらいは掛けてやる。勇者の時と同じ魔法を付與しておこう」

「出來れば気絶する前に助けていただきたいのですが……」

「贅沢を言うな」

  手に魔法陣を出現させながら、斬鬼は呆れた様に言った。

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