《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第四十四話

  ──サカグチのスキルは発され、ヴィルヘルムの中から《ジャイアント・キリング》のスキルは消え去った。

  それまでの戦いを全てスキルによるステータスの暴力で勝ち上って來たヴィルヘルムに、最早勝ち目はない。後は貧弱となったを、富なスキルで躙されるのみ。

  なくとも、サカグチはそう考えていた。敵も、味方も──そして、か・つ・て・の・學・友・す・ら・、彼の能力の前に倒れていった。

  そもそも、スキルとはその人間の半のようなもの。それを本から引き抜かれれば、力を失うのは必然の事。さらにその力を相手に使われるとなれば、それに対抗する事すら難しい。

  だからこそ──こんな事になるとは、サカグチ自思いもよらなかったのである。

「な、あ、足が……!?」

  ガクリ、と。彼は無様に膝を折る。それまで圧倒的な力を誇示していたサカグチは、余りにも呆気なく。しかし、それに耐える事すら出來ず。

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  まるで強敵を相手にした弱者のように、生まれたての子鹿のように、力のらない膝を震わせるサカグチ。それでも懸命に力を振り絞って、眼前のヴィルヘルムを睨み付ける。

「クソ……!!  お前、一俺に何をした!!」

  そんな慟哭を正面からけるも、ヴィルヘルムは首を傾げる。當然だ──そもそも、彼は何一つとしてサカグチにしていないのだから。

  彼のスキル、《ジャイアント・キリング》の役割は強者殺し。その真価は、自分よりも強い者を討ち斃す事。だが、逆説的に言えば自・ら・が・弱・者・で・な・け・れ・ば・な・ら・な・い・。

  本來、遙かな格上と戦闘を繰り返せば自然とレベルは上がり、ステータスも強化されていく。それでもヴィルヘルムのステータスが最低値に収まっているのは、ひとえにスキルが制限を掛けている為であった。

  萬能であるように見えて、その実最弱であれかし、と所有者に軛くびきを掛ける。扱う者の力量など一切考慮せず、ただ自らの絶対的な力だけを押し付ける傲慢なスキル。

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勿論、それはヴィルヘルムのみに対してだけではない。所有権を奪い去ったサカグチだろうと、平等に牙を剝く。

「ハァ……ハァ……クソ、こんなの……!!」

を包む恐ろしいまでの倦怠。最早支え無くしてまともに立つことは葉わず、その膝は子鹿のように震えている。

  そもそも、この赤子にも劣るステータスでまともに立つ事など本來は出來るはずが無いのである。その狀態で自在にき回るヴィルヘルムは、異様といっても差し支えないであろう。だがそんな事など知らぬサカグチにとっては、現狀ヴィルヘルムがなにかをしたとしか思えない。

「……クソ、やれ!  さっさとあの男を殺せ!」

  己の意思ではけず、ただ命令をけてくだけの傀儡では、自主的に守ろうという意思も発現するはずが無い。事ここに至って、ようやく彼はヴィルヘルムを打ち倒そうと機械的にき出した。

  ──サカグチの見立てでは、スキルを奪われたヴィルヘルムはなからず弱化している筈だった。個人により大小の差はあれど、今までは確かにそうなっていたから。

  無詠唱、そして多重展開。數多ので彩られた無數の魔法、その全てがヴィルヘルムへと襲いかかる。

「(うわ、これは流石にやべえって!?)」

  ──だが、サカグチもアンリも、果てはヴィルヘルムすらも気付いてはいなかった。

  スキルを奪われたことなど知らず、反的に回避行を取るヴィルヘルム。どうにか避けようと、慌てて一歩を踏み出す。

  瞬間、世界がんだ。

「…………ハッ?」

  困とも、溜息とも取れない聲がサカグチかられた。

  目の前に立ち盡くし、アンリから全力の攻撃をけたはずのヴィルヘルム。その彼が、何故か分からぬが目の前にいる。

  まるで視界を遮るように、そしてこれ以上逃げられないようにとでも言うように、ヴィルヘルムは彼を間近で睥睨していた。

「(あ、アレ?  俺何でこんなとこいるんだ?  ちょっとこうとしただけなんだけど?)」

  そして、肝心のヴィルヘルムすら目を見開いて驚いていた。その証拠に、彼は拳も構えず一切の戦闘態勢を取っていない。

  ──そう、これはある種當たり前の話ではあったのだ。

  ヴィルヘルムは軛により常にレベルを1に固定されており、その狀態で幾多ものSSS殺しジャイアントキリングを果たしている。であるならば、レベルを上げるための経験値は幾らってもおかしくは無いのだ。

  しかし、彼のレベルは常に1。ステータスも上がることはなく、何かが変化することもなく。それは全てスキルという枷が嵌められていたからであり、そして今、その制限はサカグチによって奪われた。

  貯めに貯め込まれた経験値は、一気にヴィルヘルムへと流れ込む。制限をかけられていたそれは解き放たれたかのように暴威を振るい、彼のステータスを急激に上昇させる。

  その量たるや、まさに魔王もかくやと言うべきか。度重なる格上殺しにより、その経験値の量は幾多もの死闘を繰り広げてきた斬鬼や他の天魔將軍すらも凌駕する。レベルにおけるステータスの上昇量には個人差こそあるが、それを差し引いてもヴィルヘルムのステータスはかつての斬鬼程にまで上昇していた。

  だが、それだけの力を手にした事にも気付かず、ヴィルヘルムは驚きのままサカグチの前で立ち盡くす。それを馬鹿にされているとじたのか、サカグチは苛立たしげな表を浮かべた。

「舐めやがッて……だがな、忘れんじゃねぇぞ。俺の元には、テメェのスキルがあるって事をなぁ!」

  當然、《ジャイアント・キリング》の発條件は満たされている。遙かな格上、弱者たる自分。今この狀況ならば、恐らくは魔王にも匹敵する力を得ることが出來るだろう。

  使い方は既に頭にインストールされている。ジロリとヴィルヘルムを眺め、キーワードを一言口にするだけだ。

「《ジャイアント・キリング》ッッ!!  俺に力を寄越せ!!」

  スキルは何者にも平等だ。あくまで決められたシステムを果たす為、己の本分を全うする。それは良い意味でも、悪い意味でも。

  一瞬にして己の中が満たされていく覚。欠けたものが満たされていく充足と、力を得ていく多幸が彼に流れ込んでくる。

「ハハ、こいつがあればお前程度……!!」

  歪んだ笑みでゆっくりと手をばすサカグチ。だが、彼の首筋に指先がれたところで、ピクリと腕が止まる。

「あ、がッッッッ!!!!????」

再び苦しみだすサカグチ。元をかきしながら、まるで何か溢れ出るものを押しとどめるように悶絶する。

弱くなった訳では無い。今度は強・く・な・り・す・ぎ・た・の・だ・。力を與えようとする能力は正常に作し、ヴィルヘルムとのレベル差を埋め、尚且つ凌駕するほどの力が彼へと流れ込んだ。

ただ、その総量に耐えきれる程サカグチは頑丈では無かった。それだけの話だ。注ぎすぎた酒がゴブレットから零れ落ちる様に、サカグチの中に押しとどめられる程《ジャイアント・キリング》は易くない。

ましてや、それを無理に押し込もうとすれば、空気を詰めすぎた風船と同じ狀況に陥るのは明白。いまやサカグチというは、破裂寸前にまで追い込まれていた。

ではこれほどまでの力を、ヴィルヘルムは何故真顔で扱えるのか? 答えは至極単純であり、ただい頃から使い続けていたから。來る日も來る日もスキルを使い、無意識のに力を容するという事にを慣らし続けていたから、というだけの話である。

鍛える事でを傷付け、その回復を利用することで更に一段階上の力を手にれる『超回復』と理論は同じである。ただ、それを実際に行って無事でいられるのかどうか、という點に関してはまた別の話であるが。

「……」

「お……お前、こうなる事、分かって……!」

……繰り返しになるが、ヴィルヘルムは現狀を一切分かっていない。ただ狀況に流され、イシュタムが言っていた影の親玉らしき人を見かけたから戦ってみただけの話である。そして、その親玉らしき人は何をするでもなく急に倒れこんだ。アンリはなぜか攻撃してくるし、斬鬼とミミに至ってはボロボロになっているし、何が何だかやらで彼の思考回路は最早天元突破していた。

そしてその末に、彼の灰(笑)の脳細胞が導き出した結論は。

「(……なるほど。つまりこれは、視聴者參加型の壯大な演劇ってことでいいんだな!)」

考えてみれば全てピースは揃っていた。イシュタムは初対面なのに何故か芝居がかっていたし、斬鬼たちもこの國に來てからどこか浮足立っていた。

極めつけは、最早謀論と言っても差し支えない程の設定の數々。初めから視聴者である自分に対し大した報が開示されなかったのは頂けないが、真相が後半に明かされるというのは語としてよくある事だろう。

そんなとんでもない思考に辿り著いてしまったヴィルヘルム。確かに彼の周りは元々ぶっ飛んでいる人間……いや、魔族が非常に多いが、かといって一國を巻き込んだ演劇を行う人などそうそう居ないだろう。

最も、その行いそうな人近にいる事自、本來ならばあり得ない事なので彼がこうも勘違いしてしまうのは分かっていた事でもあるが。

「(よし、ならある程度協力しておこう。もしかするとこの人が倒れたのも臺本と違ったから無理に推し進めたのかも知れないし……その原因が自分にあるんだったら猶更だしな!)」

こうして致命的な勘違いを抱えたまま、ヴィルヘルムは場違いな決意を抱えた。

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