《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第四十六話

「……ぬう、ここは……は、な、なんだこれは!?  私の王城に風が!?  ええい、何を呑気に寢ている!  起きろ、起きぬか!!」

  意識を失っていた國王が起き上がり、周囲に倒れ込む兵士達を必死に揺する。唐突な出來事にも関わらず、何か急の事態が起きていると咄嗟に理解出來る辺りはある意味流石ではある。

  だが、殘念ながら危機管理意識については薄いと言わざるを得ない。力を取り戻したことを二、三握り締める事で再確認した斬鬼が、彼の元へと徐に近付く。

「ぬ、貴様は……ぐっ!?」

「さて、下等なニンゲンの分際で我が主に弓引いた罪……一どうしてくれようか?」

  戸う國王にも関わらず、その肩口を思い切り踏みつけ地に平伏させる斬鬼。吸王としての本を取り戻した彼は、朝日に照らされようとなおその昏さを失わない。夜を統べる王は、それ単で夜として君臨するのである。

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  赤黒い刀を再び生み出し、國王の首筋に突き付ける。堪らず苦悶の聲を上げていた彼は、輝きを映さないその刀を見て靜かに汗を流した。

「き、貴様……何者だ?  この私に土を付けるなど、許されるべき行為ではないぞ……!!」

「誰が発言を許した?  この場を統べるのはお前ではない、ヴィルヘルム様だ。すぐさま舌のを斷ち切りたいというのであれば止めはせんが、そうで無いのなら聞かれた事にだけ答えるのだな」

「ぐ、おおおおおお!!?」

  片足へ更に重を掛けると、ぐぐと彼の肩に踵が沈み込んでいく。斬鬼の重はそう重くはないが、人一人の骨を破壊する程度であれば造作も無い。鈍く伝わる痛みに悶える國王。

「……しかし、『何者だ』だと?  あれだけの事をしでかして起きながら、我らの事を知らないなどとしおふざけが過ぎるのでは無いか?」

「!!  その風貌、その言い……思い出したぞ。貴様、もしや魔王軍の特記戦力、斬鬼だな!!  天魔將軍麾下の中でも最強に近いという……いよいよ人間の國に侵攻してきたか!!」

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  まるで『今』知ったかのような口ぶり。演技にしては必死なその形相からは、とても芝居の様には思えない。

(ならばアンリ同様、此奴らも総じてられていたということか?  彼奴もられていた期間の記憶は無い……ならば辻褄は合う。ということはこの國に招かれた事自サカグチの考えという事になるが)

「……貴様の質問に答える義理も無い。今聞く側なのはこちらだ。立場の一つくらい、仮にも一國の國王ならば弁えてもらおうか?」

「っっっっっ!!!???」

  遂に肩口を踏み抜く斬鬼。ゴギ、という鈍い破砕音が響き、間髪をおかずに國王の口から聲にならない悲鳴がれる。そんな様を眺めようと、彼の瞳は僅かにも揺るがない。

「さて、次の質問だ。あの男……サカグチと貴様らの関係はなんだ?」

順當にいけば『勇者と召喚者』という答えが返ってくる筈だが、果たして。

「グ……し、知らんぞそんな男は。誰の事を言っている?」

「あくまで白を切るか。良く知りもしない男と娘を関わらせるなど、父親としてはどうなんだろうな? まあ、私には関係のない話だが」

「な、何の話だ!? そんな事、私は知らぬぞ!!」

  その必死な形相からは、とても噓を言っているようには見えない。もちろんこれが演技という可能も無いわけでは無いが……。

「ほお?  ならば貴様らの勇者であるアンリにまで牙を剝いた件はどう説明する?  まさか気づかなかった、などと下らぬ言い訳をするつもりではあるまいな?」

「牙を剝くだと?  それは貴様ら魔族共の事だろう!  我らが勇者にそのような所業をする筈が無い!」

「……ふぅ……話が噛み合わぬな。もういい。寢ていろ」

  何処までも噛み合わない會話に業を煮やした斬鬼が側頭部を蹴りつけ、彼の意識を一瞬で刈り取る。

  汚いを見る目で國王を一瞥すると、直ぐにヴィルヘルムへと目線を移す。ただ、その瞳のは明らかに喜に満ちていた。

「ヴィルヘルム様!  此度における我等の罪、不甲斐なさ……申し訳ございません。態々手を煩わせるというのは紛れも無い失態。私の命一つで贖えるとは思いませぬ。ヴィルヘルム様の雄姿をまた一つ目に出來た事、それが唯一の救いで座います……」

  勢い良く捲し立てられる言葉に面食らうヴィルヘルム。まだ僅かに酒の酔いが殘っているのか、彼は未だ頬を上気させ熱に浮かされたような顔をしている。牙と真っ赤な瞳こそ人間離れしているが、それを除けば一流を超える貌を有している斬鬼。

  最早側にいることが常態化したヴィルヘルムといえど、その貌に未だ慣れた訳では無い。張の只中に放り込まれた彼には、頷く事も聲を返す事も出來なかった。まあ何時ものことだ。

  そんな事をしているから勘違いされるのだ、と頭では分かっているが、ではそれを口に出來るかというのはまた別問題。今回も當然ながら、斬鬼の想像を否定する事が出來ないのである。學習出來ていないと言う事なかれ、が小市民である彼には仕方がない。

「……あまり気に病むな。今回は俺もしてやられたからな」

  言葉遣いの時點で余り威厳がないのは仕様である。所詮ただの人間である彼に、震え上がりそうな威厳を期待するだけ無駄だ。

  とはいえ幸いと言うべきか、それが呈するには文字數がなかった。

「勿無きお言葉……しかし、それだけでは私共の心が済みません。罰は幾らでもおけいたします。ですがまずは……ミミ!  アンリ!」

「ひ、ひゃい!!」

「な、何よいきなり……」

  橫で聞き耳を立てていたミミとアンリが飛び上がる。ただ、アンリの側は若干気まずそうにクルクルと肩口で髪を弄っている。やはりスキルでられていたという事がまだし・こ・り・として殘っているのであろう。

り行きではあるが、この國の中心部は獲った。諸國に気付かれる前に、このマギルス皇國を制圧するぞ」

「え……!?  む、無茶よ!  たった三人で國を制圧なんて!?」

  慌てて押し留めようとするアンリに対して、斬鬼は嘲る様に鼻を鳴らす。

「既に脆弱な頭は落としてやった。殘る手足は厄介だが、それも魔王様の軍さえ呼べば制圧は難しくない。それに、既にこの場には最大戦力がいらっしゃられるのだ。反の一つや二つ、容易く沈められる」

「そ、それは……」

「それともあれか?  事ここに及んで、ニンゲンの守護者にでも目覚めたか?  裏切りは結構だが、次は分かるようにして貰いたい。さすれば直ぐに貴様を処分出來るからな」

  言い淀む彼倉を摑み上げ、斬鬼は苛立たしげに言葉を紡ぐ。吊られているアンリは苦しそうではあるものの、それに目立った抵抗はしない。

「ヴィルヘルム様が赦そうとも、他ならぬ私が許さない。魔族に半端な覚悟で近寄り、半端な覚悟で去ろうなどと邪魔でしか無いからな。ああ、それとも今ここで縊り殺してやろうか?」

「ぐっ……が、はァ……!!」

「……止めろ」

  ヴィルヘルムが靜かにそう言うと、斬鬼はその手を離す。どさり、と地に落ちたアンリは苦しげに咳き込んだ。

  人か、魔族か。勇者として裏切られた彼は、未だどの立場に付くべきか決めあぐねていた。

  ヴィルヘルムは噂など頭にも浮かばない程の善人である。だが、魔族はあくまで人類の敵。戦爭が続く以上、その立場は変わらない。これが一つであれば結論は早いが、家族もいるアンリにその判斷は難しいものだった。

「……フン、臆病者めが。ミミ、行くぞ。ヴィルヘルム様も此方へ……を休める場所をお探しいたします」

「は、はい……」

「…………」

  地に伏せるアンリを気に掛けながら、ミミとヴィルヘルムは斬鬼に連れられ部屋を出て行く。だがそれに構うことも無く、彼は靜かに黙りこくったままだった。

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