《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第五十話

「おーヴィルヘルム! お邪魔してるぜ!」

片手に骨のついたを攜え、威勢よく挨拶をしてきたのは最早ヴィルヘルム達にとって見慣れた顔、《暴》のヴェルゼル。勝手知ったる様子で食堂に居座り、メイドを幾人も侍らせている様子を見ると、傍から見れば最早どちらが主か分からなくなる事だろう。最も、その侍らせているメイドたちが怯えた表を顔に浮かべていなければ、だが。

傍に立っている斬鬼も呆れたような表を浮かべていたが、ヴィルヘルムがやって來たのを見るとすぐさま表を凜としたものに戻す。すさまじいまでの変わりの早さだ。

「ヴィルヘルム様、休暇をお楽しみの所申し訳ございません。急にヴェルゼル様がいらっしゃったかと思いきや、『ヴィルヘルムを出せ』との一點張りでして……私が対応しようとはしたのですが、それもお聞きにならず」

「おいおい、それじゃオレが悪者みたいじゃねェか? こっちとしちゃあ、ただ上役同士ヒミツの會話ってやつをしたかっただけだっての」

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肩を竦めながら嘯くヴェルゼル。彼が強引だというのは周知の事実である為、どうにも中が言い訳臭い。の會話とは名ばかりで、飯を集りに來たと言われた方がまだ納得できるだろう。

「お、ガキとニンゲンも久しぶりだな! 元気してたか? いや、言わずともわかる。この國を征服したって言うんだから元気に決まってんだろうな! ハハハ!!」

「……え、ええ、まあ……」

「は、はいぃぃ……」

「ん? ガキの方は……ふぅん?」

何が彼の琴線にれたのか、ジロジロとミミの事を眺め回し始める。暫く真顔で見つめ、やがてミミがガタガタと震え出した頃に漸くニヤリと笑った。

「ハッ、面白れェ力手にれたみたいだな? 戦闘向きじゃ無さそうなのがちと殘念だが、まあそこら辺に贅沢は言わねェ。良かったな? 弱者を卒業出來て」

「は、はひひ……」

「まあ々ヴィルヘルムに謝しとけよ。実・績・ってやつは何よりも語ってくれるモンだからなァ。そうだろ? 講師サマ」

講師サマ、でヴィルヘルムの方を見やるヴェルゼルだが、當の本人は何のことだかさっぱり分からない。何かを教えた記憶も無ければ、その実績とやらもさっぱりである。

だが、分からないときに分からないことを聞くのはどうにも気恥ずかしい。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥などと言ったりもするが、それを実行できないのがコミュ障の悲しき

聞く恥ですら耐えられず、疑問は限界まで先送り。中途で理解が及べば良し、それでも聞かぬことによる恥を食らうなら、その場から逃げてしまえというのが常套手段である。確固たる意志を持って否定してもいいのだが、それでまた話を続けさせられた場合が怖すぎるのである。故に、彼はコミュ障であり続けるのかもしれない。

「……さあな」

「カカッ、テメェはいっつもそうやって曖昧にするよな?  まぁ、それは昔からか。テメェの元にオレの部隊の一つでも預けりゃもっと強くなって帰ってくると思って提案した時も、結局のらりくらりと躱されちまったからなぁ。そうそう、確かあれは斬鬼が正式にヴィルヘルムの部下になってし経った……」

「……ヴェルゼル様、何も舊を溫めに參った訳では無いでしょう。無為に食を消費するだけなのであれば、速やかに追い出させて頂くことも視野にれなければなりません」

「じょ、冗談だよ冗談……全く、自分の過去の事となると直ぐにキレるんだからなァ」

白刃を鞘からチラつかせることで、ヴェルゼルの追求を逃れる斬鬼。冗談めかして笑うと手に持ったを皿に置き、指に付いた油を指で舐め取る。ちょうどが油で濡れ、グロスのように輝いた。

「まあ話ってのは別に難しいモンじゃねェ。同僚同士、手を取り合っていこうぜって言うだけの事さ」

「……手を?」

「ほれ、最近は何かと騒だろ? 勇者共は跋扈し、挙句には國にまでられる始末。この國も運よく獲れたらしいが、こりゃ偶然の産だ。ヴィルヘルムがいなけりゃどうなってたのかは分からねぇ。だろ?」

なるほど、確かに彼の言わんとしていることは理解できる。いくら天魔將軍とはいえ、決して無敵の存在ではない。かつて勇者に魔王が討ち取られたように、どれほど強力な魔人であっても死ぬときは死ぬのだ。不死の存在ではない以上、それに警戒を向けて損をすることは無い。

だが、それを語るのがヴェルゼルであるという一點が、斬鬼に不信を與えていた。なにせ彼はあの《暴》。馴れ合いなど不要と切って捨て、敵がいるなら味方ごと吹き飛ばす。そんな戦い方を好むような、まさに正真正銘の戦闘狂バトルジャンキーがなんの脈略も無しに協力を仰ぐなど、誰が考えつく事が出來ようか。

また、わざわざ他國までやって來て、トップを呼び出しておいてまで伝えたかった事がその程度の事なのかという疑問もある。確かにヴェルゼルには後先を考えない癖があるが、それでも考えなしではない。只の脳筋が天魔將軍として務まるほど、魔王軍の要職は甘くないのだ。

「……本當にそれだけでしょうか。その程度の事であれば、ヴィルヘルム様に確認を取るまでもありませんが」

「あ? あー、いやほら……分かるだろ? ほらつまり……アレだよ」

「はぁ? アレ、ですか。申し訳ありませんが、ヴィルヘルム様以外の言葉の裏を考えることは苦手でして」

因みに、彼は言う程思考を苦手としている訳では無い。なくとも人並み以上には出來る。ただ単純に、ヴィルヘルムの意を汲む能力が突出して高いだけだ。だからこそ、偶に出る勘違いは一何なのだろうか、とヴィルヘルムが首を捻ることになるのだが。

「だから仲良くすると言ったら一つしかないだろ? アレだよ、ア・レ!」

「……ああ、なるほど」

「お、ようやく分かったか。そうそうそういう事──」

「差し出がましいことを申しますが、ヴィルヘルム様との婚姻がおみであれば暫くお待ちください。私が直々に見定めるための選考を行います故。ちなみに順番待ちが後十名程おりますので、々お時間を頂くことになりますが」

「って違ェよ! 何でオレがコイツにしてる前提になってるんだ! ってかお前は何で窓口みたいなことしてンだよ!」

「(……え? なにそれ初耳なんだけど)」

今明かされる衝撃の真実。ヴィルヘルムが知らないところで、何故か斬鬼の手による婚約者の選別が行われていたようだ。そもそも婚約希の人がいた事すら驚きであるし、それが水面下で行われている事にも驚きである。

「因みにミミは九番目です」

ブルータス、お前もか。何故か自慢げに言うミミだったが、何が自慢なのかヴィルヘルムにはさっぱり分からない。

「いやそうじゃねェって! こいつの婚約者名簿とか……いやちょっと面白そうだけど……関係ねェんだよ! お前、賢い振りして意外と天然なとこあるよな!?」

「なら何だというのですか。アレなどと曖昧に指摘されたところで他に思いつきませんよ」

呆れたように首を振る斬鬼。

「ケッ、どいつもこいつも……あー、やめやめ。迂遠なのはもうナシだ。これ以上の問答も面倒だから直接言ってやる」

そう言うとヴェルゼルは椅子を蹴り倒し、荒々しくヴィルヘルムへと近付く。その倉を摑み上げると、のない瞳をまっすぐに見據える。

「ヴィルヘルム。魔王を裏切ってオレに著け。そうすりゃお前にいい目を見させてやる」

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