「でも、それってただ可能があるだけでそうとは限らないじゃないか」

「ああ、そうだ。けどな、そんなこと考えたところで何も変わらないだろう？お前は強くなりたいんじゃないのか？どっちなんだ？」

俺は.......強くなりたい。あの時ゴーデンに負けたことが悔しかった。でもそれ以上に、その姿をフィアに見せてしまったことの方が、もっと悔しかった。

「人はいずれ戦わなくちゃいけなくなる。その時お前はどうしたい？弱いまま無様に殺されるか。守りたいものを守るか。お前はどっちがいい？」

そんなの決まってる。

「俺は守りたい。弱いままなんか嫌だ。強くなって、強くなって、大切な人を守りたい」

「上等だ。さすが俺の息子だな」

そう言った父さんは、満足そうな笑みを浮かべて笑った。俺もそれにつられて笑う。

「さて、そうなると。イクス、これから俺が王都に向かう5日までの間に概念スキルについて教えてやる」

「え？そんなに急に？」

「概念スキルってには個人によって能力が違う。だからその過程も個人によって様々だ。俺ができるようになったじでお前もやれ、なんて無理だろ？だからそこはお前自が見つけるしかないんだ」

「なるほど」

個人個人で能力が違うのだから、その覚もまた違うのだろう。剣を振る時の覚で包丁で魚を捌けと言われているようなものだ。まったく覚が違う。

つまり父さんは概念スキルの基礎だけを教えてくれて、あとは自分で磨けってことなんだろう。5日間っていう時間も、父さんが十分に時間を取れる日數なんだ。

「5日間教えたらあとは俺が王都に行ってる間に自分で磨いてみろ。俺にできるのはきっかけを作ることだけだ」

「わかった」

きっかけだけであとは自分で磨き上げる。それでもし功したのなら、俺はもう一度スキルで夢を見ることができるかもしれない。それに、自分の力のみで得た達は気持ちがいいだろう。

そう思うと俄然やる気が出てきた。やらないよりやって後悔する方がマシかもしれない。

「それじゃぁ、ちと講義といこうかね。俺も人に教えるのは騎士団とき以來だから久しぶりだな」

そんなことを言って父さんは適當な切り株に腰掛け、俺も反対側に座る。

「まず最初に、概念スキルはそのスキルに沿った概念に干渉するスキルだってことはわかったな？」

「うん、なんとなくだけど」

「概念スキルの能力は個人によって違う。そしてその個人差は、その人が強くむイメージや願いに起因すると考えられている」

「つまり、その人のイメージで概念スキルができるってこと？」

「まぁそういうことだ」

本人がむイメージに沿った進化を遂げるということか。これはイメージ力が試されるな。

「そういえば父さんはなんでその能力なの？」

「ん？俺のはある竜種ドラゴンとの戦いで目覚めたな。あいつら空飛ぶし、鱗は魔法で化して傷がつかないから、間合いの外から鱗の下のだけ斬れないかなぁ〜って思ったらできた」

「...そんな理由」

「そんなとはなんだそんなとは。あん時は母さんも仲間も重傷負ってて、マジで死ぬかと思ったんだぞ。あのトカゲ野郎、よくも俺のフィオーレに手ぇ出しやがって.........次會ったらぶっ殺してやる.......」

なんだか父さんが怒りのオーラを放ち始めた。よっぽどそのドラゴンに母さんが傷つけられらことが腹正しいんだな......。でも、父さんと母さんとその二人と同じくらいの仲間で、ギリギリ勝てるドラゴンってなに......

「それで、父さん。基礎を教えてくれるって、どんな事教えてくれるの？」

「そうだな。じゃあ早速やるとするか。ほれ、イクス」

「え？」

てっきり最初は座學かと思ったら、父さんがさっき飛ばした剣を取って放ってきた。どういうことだ？

「よし、じゃあ今から概念スキルに目覚めるために訓練を行うわけだがその前に、くれぐれも.......死ぬなよ？」

「.........は？」

俺は吹き飛ばされた。

「ぐほっ、！がはっ！」

數十メートル吹き飛んで地面を転がる。腹にとんでもない衝撃がきて、吐き気がこみ上げる。

「なっ、に、すんだ......父さん......！！」

「概念スキルってのは自に眠る強い意志と願い、それを明確にするイメージが必要だ。そして人間が最もそのを思う瞬間は、死の間際だ。だからお前には死の験を繰り返して、明確な願いとイメージを著けさせる。なぁ〜に、死を験させるだけで、本當に殺したりはしねぇよ。本當に死ぬってなったら止めてやるさ。俺はそういうのは得意でな」

父さんは頭がおかしいんじゃないだろうか？

「じょ、冗談だよね.......？」

「冗談なわけあるか。普通概念スキルなんて教えてどうにかなるもんじゃないんだ。みどろになりながら、死にかけてようやくたどり著けるんだぞ？だったら、死ぬ覚悟くらい見せてみろ。さ、訓練を始めるぞ」

それは訓練とは言わない拷問って言うんだ。

でもその直後、背筋をゾッと寒気が走った。心臓が思わず止まるんじゃないかと思うほどの殺気。やばい、死ぬ、殺される。

さっきまでの殺気が比べにならないほどの殺気だ。一瞬でも気を抜けばそのまま死んでしまう。そう思わせるものだ。

「取り敢えず1日二千回死ねば、5日で一萬回死ねるな。行くぞ！イクスッ！！」

「う、うわぁあああああああああああああああああああああああああーー！！..............」

こうして拷問が始まった。

あれから5日経った。

はっきり言ってあれは地獄どころではなかった。地獄以上の験をしてきた。

この5日間俺と父さんは山に篭った。朝早くから何度も何度も父さんに殺されかけ、気絶しても殺気で叩き起こされ、また死にかけて気絶し、そのまま泥のように眠る。そしてまた朝早くから、と地獄すら生溫い拷問だった。

他にも、食が湧かなくても無理やり食わされ、作りにいいからと言って、形容し難い、謎のとんでもなく不味いドリンクを流し込まれたりもした。

それにどうやらそのドリンク、回復効果のある一種のポーションらしく、一日中散々滅多打ちにされ、骨が折れ臓が破裂しようとも、次の日起きたら治っていた。

散々殺され、気絶して起きている間にを治され、起きたらまた殺される。まさに拷問だった。

現に俺は後天スキルで【恐怖耐F】と【走馬燈F】を習得したほどだ。まぁ、それでも滅多打ちにされたんだけども。ちなみに【走馬燈】っていうのは相手の攻撃の瞬間、攻撃がしスローモーションで見えるっていうスキルだ。

とにかくそんな辛い試練も、逃げなかったのは一つはフィアのおかげだと思う。

フィアは毎日朝食や晝食を作って持って來てくれた。訓練の邪魔になるからと俺が気絶している間に父さんがけ取ったけど、毎食バスケットには一言の手紙がっていて、それが勵みになった。

そんな拷問もとい訓練も最終日。午後の最期の訓練として、父さんと試合になった。

「はぁああっ！！」

【加速】スキルで加速した狀態で、父さんに駆ける。剣を橫に構え、突進するように姿勢を低くして地を這う。

そして父さんの前に來た瞬間、を左に倒すふりをして、瞬間一気に右に飛んで側面に回り込む。

父さんは右利きで、普通左側面に回り込めば、剣士は剣を振るうのが難しくなる。けど、そんな小細工は父さんに通じなかった。

「おっと」

そんな軽い聲の後、全く軽くない回し蹴りが飛んで來た。怖いけど回し蹴りの下をかいくぐって転がり回避する。すぐに腕の力で飛び起き父さんの方を向いて剣を構えた。

「今のフェイントはなかなか良かったぞ。ただ回り込みが淺いな。今よりも素早くもっと回り込めればより確実に相手を騙せる」

「わかった、よっ！」

返事に合わせて隠し持っていた3本の鋭い木の枝を投擲する。

父さん曰く、使えるものはなんでも使え。卑怯と罵られようが、最後に生き殘った奴が勝者だ。周りのや狀況、それら全てを把握し勝つための可能を探し出せ、と

だからその父さんの言葉に習って使えるはなんでも使う。第一それくらいしても父さんに勝てる可能は低い。

案の上木の枝は父さんが剣を一振りしただけで々に砕け散った。化けか。

でもそれが防がれることくらい予想していた。

木屑が舞い、父さんの視界がし狹まったそのタイミングで俺は飛び上がった。

そして枝のしなりを利用して、父さんに上から襲いかかる。

すると父さんは避けるかと思ったが、俺の剣を木剣でけ止めた。

「おっ！やるじゃねぇか！」

「なにしれっと木剣で真剣をけ止めてんだよ！」

「魔力を剣に流してるだけだ。魔力量の差によっちゃあ、こういった蕓當もできるの、さっ！」

「うわっ！」

父さんが、け止めた剣を押し切るように振り切ったら、木剣から凄まじい衝撃が発生して、俺の真剣を弾いた。

「こうして纏わせた魔力を発させてやると、直狀態を出できる。まぁ、これやると弾けた魔力量によって武にダメージがるんだがな」

その言葉の通り木剣にヒビがり、々に砕けた。

「あちゃー、し魔力を流しすぎたな。仕方ない。素手で相手したやってもいいが、流石にそろそろ出発の準備をしないとな。そろそろ帰ろう」

「で、でも俺はまだ何も........」

この5日間何度も死にかけたが、結局なんの果も得られなかった。スキルの可能すら摑めずに。

「本當に、俺に俺に英雄カインを超える力なんかあるのか...........？」

「何言ってんだ。普通概念スキル目覚めるには相當な覚悟と努力がいるんだ。5日程度で目覚めてたまるか。母さんだって目覚めるのに半年必要だったんだぞ」

「え！？母さんって超越者なの！？」

「おう。しかも母さんは元はランクAからスタートだったから、俺よりよっぽどすげーぞ？」

初知りだ。まさか母さんが超越者だったなんて。でも確かに日常生活を振り返ってみれば、ちょくちょく無駄に高度な魔法を使って家事やってた気がする。洗濯なんか空中で高速回転させて水気を飛ばしてたりしてたし。

「さて、今日はこの辺で終わってお前も帰って風呂って泊まる準備しとけ」

「ん？なんで俺が泊まる準備？」

「俺と一緒に母さんも王都に行くことになってな。4日前に母さん宛に魔法學校から俺と同じ要件で手紙が屆いたらしいんだ。つーわけで、俺と母さんがいない間フィアちゃんの家で世話になってくれ」

「聞いてねぇ........」

「そりゃ言ってないしな」

そういえば5日もフィアと會ってないのか。飛び出していったきりだし、し會いづらいな........。焼き菓子でも作って行こうかな。

「ほら、とっとと帰るぞ」

「.........わかった」

5日間の訓練の果を何も摑めなかった。それが俺に重くのしかかる。

俺の返事に、俺の心を読み取ったのか、父さんがため息混じりに言う。

「イクス。お前は強くなった。剣の間合いの取り方。重移や相手の死角の把握。先読みの力。まだが目立つし、きもぎこちないが、それでもお前は5日前に比べて強くなった。それは事実だ」

「............」

「だが、それをお前はわかっちゃいない。自分の強さを客観的に見つめ正確な強さを把握することは、自分より上の圧倒的強者と対峙した時に、どうくべきかを教えてくれる。強さを知らなきゃお前はこの先強くなれない。お前も今の俺を見れば、5日前とは違うってなんとなく理解できるんじゃないか？」

「.........ああ、なんとなくだけど」

実際そうだ。父さんの強さをわかった気でいたが、今ならわかる。この訓練の中で父さんは一度でも本気の殺気をぶつけて來なかった。せいぜい、ーーー3割程度。父さんは本気の3割しか出していなかったんだ。

それを理解した時、絶した。俺がたとえ何百、何千、何萬と死を繰り返そうと、父さんには屆かないと言うことを。そして、そんな俺に、父さんや父さん以上の英雄カインを超えるほどの力があるとは思えない。

「...........はぁ〜.......。まぁ、わかるぞ。お前の考えてるその気持ち。俺も昔そうだった」

「父さんが？」

「ああ」

すると、父さんは切り株に座って、話し始めた。

「俺も昔ランクSでスキルを授かった時正直浮かれてた。周りで誰もSランクがいなかったからか、俺はそれを誇りに思い周りに自慢してた。同年代の奴らとも、村の自警団の大人とも戦っても、俺は負けることはなかった。だから、初めて負けた時はとっても悔しかった」

「........その人は強かったの？」

「そうだな。あん時は全く強さの度合いを測れなかったが、今思い返すと、その人は強い。今の俺なんかよりもずっと。俺が本気出したところで、あの人の足元にも屆かないだろうな」

「そ、そんな人が........！？」

化けのである父さん以上の化けとなると、そんなもの存在するのか？もし本當にいるのなら父さん以上の化けなんて、それこそ魔王や邪神、英雄カインくらいじゃないんだろうか？

「でもまぁ悔しいとじたと同時に、俺は嬉しかった」

「嬉しかった？」

「自分よりも強い奴がいる。俺よりも強い奴がいるってことは、俺はまだまだ強くなれるって思ったからさ。だから俺は諦めなかった。最後の最後まで諦めずに強さを求め続けたから、俺は超えられた」

「.........でも、俺は父さんみたいに考えられない」

負ければ悔しくて悔しくてたまらなかった。俺は父さんほど心も強く前向きじゃない。

すると、父さんは俺の頭をガシッと摑み、暴に頭をでてきた。

「そう落ち込むな。これからお前が何をするかを探して行けばいい。俺の場合は、求めるものが強さだっただけだ。いつかお前にも人生の目的ができるはずだ。お前はまだ子供だ。これからだ。だったら子供らしくもっと悩め、迷え」

「..........俺はもう子供じゃない」

でる父さんの手つきは暴だけど、でもとても大きくて暖かい。これが父さんが強さを求めた手なんだと思うと、スッと心にその言葉がって行くような気がした。

「ハハッ、なんだ？子供扱いされて恥ずかしのか？」

「うるせぇ！もう帰るぞ！あー！あー！疲れたー！あ、それと、あの5日前父さんがぶった斬った木々、どうにかしとかないとカーフおじさんに怒られるよ」

「げっ！？しまった！！爺さんに怒られたらフィオーレにも怒られる！？イクス！急いで証拠隠滅するぞ！！」

「さーて、帰って風呂って焼き菓子でも作ってフィアの家行こーっと」

「てぇめぇイクスゥウウウウーーッ！！この親不孝ものぉおおおおおおおおおーーーーっ！！」