《加速スキルの使い方!〜年は最速で最強を目指す〜》加速スキルの使い方
「イクス!」
震える聲でフィアが俺を呼ぶ。
間に合った。どうにか間に合った。
「無事か?フィア、ティア、ユウ」
「兄さん!」
「いくすおにぃちゃん!」
見たところ三人に目立った外傷はない。ユウのお母さんも頬がし腫れてるだけでそれ以外には外傷はない。どうやら大男に頬を毆られたのか気絶しているようだ。
「コーサは」
「そうだ!イクス!コーサが!」
コーサの方を向くと、倒れているコーサの足元にだまりが出來ている。すぐに治療しないとまずい。
「フィア。俺が時間を稼ぐ。その間にコーサに治癒魔法を掛けて、全員で離れてろ」
「でも、イクス。相手は山賊だよ!」
「心配するな。父さんに普段しごかれてる俺ならしくらい時間を稼げる。そのうちに誰もいない離れたところへ逃げろ」
なくても相手は父さん以上の強者では無い。それはあおの地獄を乗り越えて父さんの強さを理解しているから言える。それならそうあっさりやられることはない。フィアたちが逃げるくらいの時間は稼げる。
「なら私も殘る!イクスだけに任せて逃げるなんて.......!」
「ダメだ!フィアがいなきゃ誰が連れて行ける!それにハッキリ言って邪魔だ!フィアたちを庇いながらは戦えない」
「ーーーッ!!」
邪魔だという言葉にフィアは今にも泣きそうな顔になる。キツイ言葉だが、それは事実だ。今の俺の技量で周りを庇いながらの戦いはできない。
それにユウとティアだけでコーサとユウのお母さんを運んでいくのは難しい。もしかすれば山賊と遭遇する可能だってある。
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「フィアなら山賊の一人や二人くらいなら巻くことはできるだろ?だったらフィアも逃げなきゃダメだ」
まだスキルに目覚めたばかりとはいえ、フィアはランクSの魔法師。逃げることに徹すれば一人二人程度なら逃げれるはずだ。
「で、でも相手は人殺しで.......」
「それなら俺も同じだ」
「え?...........あ.........っ」
ここに來てようやく俺のに付いている返りに気付いたらしい。フィアが息を呑むのがわかる。俺はフィアの顔を見るのが怖くてフィアに背を向けて大男を見る。
「さぁ!早く行け!!」
「ーーーッ。イクス、死なないで!」
そう言ってフィアはコーサの方に駆け出し、ティアとユウは朧げながらも目を覚ましたユウのお母さんを支えて歩く。
「兄さん!死んだら許さないんですからね!?」
「おにぃちゃん!」
後ろでティアとユウが涙ながらに俺に聲をかける。ティアは賢い妹だ。フィアとどこが危険かを考えて逃げ切ってくれるはず。
俺はそんな二人に返事をせず、代わりに剣を構えて大男を見據える。
「さぁ、行くぞ山賊ッ!!」
大男は俺たちの會話が終わるまで待っていた。いや、正確には俺を警戒して迂闊に近づかなかったんだろう。
普通なら俺みたいな子供に攻撃を防がれれば、逆行して襲いかかって來そうなものだが、この大男は冷靜に俺を警戒して近づかなかった。それが出來るということは、この大男はやはりさっきの山賊とは違う。
男が持っている武もそうだ。整備も丁寧にされており、刃の部分はギラギラと揺らいだ炎のを反してっている。現に俺がさっきの攻撃を防ぐのに使った剣は、あの一撃ですでにヒビがっている。
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「.........あの時俺の近くに人の気配はなかった。ましてや俺の知外から一瞬で目の前に來るなんてありえねぇ。.......小僧。お前一何もんだ。どんなスキルを使いやがった」
男は警戒心丸出しで俺に問う。一瞬言うか言うまいか悩んだが、俺はーー
「俺はただの、ーーークズスキルさ」
そう言って俺は高らかに言った。
「【加速】ッ!!」
弾かれるように俺のは加速して、男との距離を詰める。男はまさか俺が正面から來るとは思わず一瞬戸ったが、すぐに斧で構えを取ってきた。
斧という武は一撃一撃が重く強力で、直撃すればただではすまないが、その分取り回しは悪く、また重いため速度はそこまでではない。ちゃんと間合いを図り攻撃の軌道を見れば避けて対処できる。
「ぬぅあーーッ!!」
「ハッ!!」
俺が突撃して來る俺に向かって斧を真上から振り下ろしてきた。ゴウッ!と空気が震撼する音からも、先ほどの地面を抉った一撃以上であるだろう。
そんな攻撃に俺は【走馬燈】を発させる。そしてゆっくりと世界が流れる中で、俺はし右に避け、同時に斧の刃の橫っ腹を剣の柄をぶつけて逸らす。
「ちっ、坊主ただの村人じゃねぇな。その剣の構えやき、明らかに系化された剣を習ってる証拠だ。........そうか、ファングランド王國騎士団流剣だなその剣」
「どうしてそれを」
「なに、俺も昔は騎士だったんでな。ファングランドの騎士とも戦ったことがあるってだけだ」
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まずい、相手は騎士崩れの山賊だったのか。俺の構えやきで流派を突き止めるあたり、騎士団の中でも腕の立つ実力者だったんだろう。
「まさかこんな田舎の村にファングランド王國騎士団流を使うガキがいたなんてな。しかもより実踐的にアレンジが加わってる。こりゃ、十分に楽しめそうだ、なっ!!」
男は斧を橫に構えて肩で當たりのするように突撃してくる。
「【加速】!」
ぶつかるわけにはいかない。俺は加速して回避する。
「オラオラ!!逃げてるだけか!!」
男の斧の攻撃を俺は紙一重でかわして行く。
でもしづつ攻撃は過激になり、傷も増えてきた。
このままじゃあ持たない。
だから俺は【加速】スキルの本當の力を解放する。
「ーーー【加速】」
その瞬間、俺は男の目の前から消えた。
「バカな!?」
「せあっ!!」
そして俺は男の背•後•から斬りかかる。
俺の剣は男の皮鎧を裂き、薄皮一枚を切る程度だった。
「ぐあっ!いつのまに.......!なんだ!どうなってやがる!」
「【加速】」
「ぐっ!」
またしても男の前から消えて背後をつく。
攻撃しては消え、攻撃しては消えるを繰り返す。どこから襲いくるかもわからない狀況で、取り回しの悪い斧は不便だ。
「クソ!なんだあいつ急に!バカな!これが【加速】スキルだと!?ありえねぇ!」
「いいや、その通りだ」
「ーーーッ!!」
わざと男の背後で聲をかけると、男は取り回しの悪い斧を捨て、腰の短剣を抜いて振り向きざまに振るう。
しかしすでにそこに俺の姿はなく、何もない空中を切る。
「こっちだ!」
「ちぃいいいいい!!!」
今度は男の斜め後ろから攻撃する。男はなんとかギリギリ防いだ。
「たかが【加速】スキルにこんな蕓當できるはずがねぇ」
「確かに普通の【加速】スキルじゃあこんなこちはできない。けど、俺は違う。俺の先手スキル【加速EX】なら」
「なに.......【加速】スキルが先手スキルだと?」
「ああ、そして、俺は超越者だ」
ようやくこのスキルの使い方も理解してきた。そしてこのスキルは俺自がんだ、ということも。
全てが繋がった。
そして思い出した。【加速】スキルの本當の力を。
【加速】スキルの本當の能力はーーー
「『全ての加速』それが俺の概念スキルだ」
『全ての加速』は文字通り、全てを加速させる能力。それはや人、攻撃、果ては命や時間の加速すら可能。つまり解釈の仕方によってはこのスキルは森羅萬象ありとあらゆる事象を加速させる。
「行くぞ!」
「くそがぁあああああっ!!」
俺は【加速】スキルを使って駆け出す。このスキルは概念スキルに目覚めたからか、通常のスキルでも今までとは比べにならないくらいの加速を得る。
一瞬で目の前に飛び出すと、手に持った剣を振り上げ振り下ろす。
「くっ!」
「ちっ!なんて速さだ!」
俺の速度にギリギリ追いつき男はガードが間に合った。そしてけ止めた斧を弾き返し、
そのまま斧だけを回転させて攻撃して來た。
俺の速度についてこれるその斧捌きはAランク以上の実力者だろう。実際前の俺なら簡単にやられていた。
でも、今の俺は違う。
わかる。この力の使い方が。加速スキルの使い方が!
「ーーー【走馬燈】【報処理能力加速】」
俺はスキルの力で、走馬燈の処理速度を加速させる。
【走馬燈】は視覚、聴覚、などの五すべてからくる報を処理し視覚の能力を拡張するスキルだ。俺はその【走馬燈】の報処理速度を【加速】スキルを使って加速させる。
それによって俺の覚は研ぎ澄まされ、迫る斧の攻撃も、通常の【走馬燈】スキルよりも明確にハッキリとわかる。今なら斧の表面にある細かい傷も認識できるほど。
「ハッ!!」
止まって見えるほどの斧に剣を當てて逸らすなんて簡単。金屬がぶつかり火花が散り、斧の一撃は俺の橫をブンッ!と掠めるだけだ。
「なにっ!?くっ!」
男が怯んだ隙に斧を蹴って飛び距離を取る。
「ちっ!なんでこんなガキが【走馬燈】なんてレアスキル持ってやがる!しかも今の一撃完全に俺の攻撃を捉えてやがった」
「これだけじゃすまさねぇ.......」
「なに?」
こいつは俺たちの村を襲い、いろんな人を傷つけて殺した。大切な思い出も家も、笑いながら火を放った。なにより.......
「よくも、コーサを、ティアを、ユウを、ユウのお母さんを。なにより.........フィアに手を出そうとしやがってッ!!」
こいつはフィアを殺そうとした。それだけで俺の中で決まっていた。
「俺の大切な人たちを傷つけたお前は、絶対に許さない!!」
剣を構えろ。力を出し惜しむな。全ての魔力を絞りだせ。俺の全てを持って奴を倒す!
すると頭の中の報が再び蘇る。暴れまわる報の渦を処理し、その報が教えてくれる。
視覚の報処理を加速させ、視覚の拡張を限界まで高める。目に負荷がかかりすぎたせいか、眼球が悲鳴をあげ、管が破れたか視界が赤く染まる。
でも、これでようやくの加速に視覚が追いつく。
「ーーー【加速】!!」
ギュッとがき、猛烈な速度で景が流れる。さっきまでは視覚がギリギリ追いつける速度でいていて、瞬間的に加速した時は視覚が追いついていなくて攻撃が淺かった。だけど、今は加速する世界の中でもしっかりと認識できる。
男はさっき以上の速度に、俺を認識できていない。
俺は踏み込み、地を蹴って男の橫を飛ぶ。そしてすれ違いざま、男の左腕を深く斬り裂いた。
「ぐあぁあああーーっ!!クソ!どこだ!」
まだ慣れない加速の覚に狙う場所が狂った。
だけど、俺は男の背後を取り、男は俺を見失っている。
狙うはうなじ。俺は駆け出し、剣が男のうなじを切る。
「なめるなぁあああああああーーーッ!!」
俺が迫った瞬間、男が振り向きざまに斧を振り、俺の剣を弾いた。
「そんなっ!」
「ぬああああっ!!」
完全に認識できていない上での死角からの攻撃を防がれた。だが驚く間もなく、男が斧を振り上げて追撃して來た。
「ーーーッ!!」
「砕け散れ!!」
俺の剣と男の斧がぶつかる。単純な力勝負となれば俺は勝てない。俺の剣は押され、次の瞬間男の斧に込められていたらしい魔力が発を起こして俺は弾き飛ばされた。
しかもすでにボロボロな俺の剣は砕け散り、砕けた細かい破片が俺のを切り刻む。
「ぐっ!ガハッ!!」
數メートルは吹き飛び、木の柵にぶつかる。痛む視界で男を見據える。すぐにでも立ち上がろうと、地面に腕をついて立ち上がろうとするが、腕に鋭い痛みが発生して前に倒れる。
男の斧をけ止めたせいで腕が痺れて鈍い痛みが走る。多分骨にヒビがってる。それに重要な場所は守ったが、腕や足なんかの至る所が切り刻まれて塗れだ。
「ッ!ガキが手こずらせやがって!まさか俺がガキ相手に【死知】が発するなんてな」
どうやら何かしらの知系のスキルで、俺の攻撃を知することができたから防げたらしい。
油斷した。最後の最後でこんなことになるなんて。
を流しすぎたせいかが寒い。覚も鈍くなってる。スキルを維持できなくてもう視覚拡張された世界は見えない。
武も折れた。でももし武があったとしてもこんな腕じゃ満足に武もれないだろう。
まさに絶対絶命。だんだんと思考も鈍くなってきた。
男がこっちにやってくる。くそっ、俺はこんなところで終わるのか...............ーーー
「ーーーイクスッ!!」
沈みゆく意識の中、聞こえた聲に耳を疑った。
まだく視界をそっちに向ければ、そこにはフィアがいた。
炎が燃え盛る戦場においても、なおしく輝く稲穂のような黃金の髪はこんな狀況でも魅ってしまうほど。
でもなぜ逃げたはずのフィアがここにいるのか。
「フィ、ア........な、んで.......」
「イクス!死んだら許さないんだから!まだ言いたい事だってあるんだから!!だから死なないで!!」
フィアが泣きながらんでる。もう泣かせないと誓ったはずなのに。
フィアには笑顔が一番似合う。あんな涙は似合わない。
けない。
バカか俺は!もう二度とフィアを泣かせないと誓ったんだ。だったらこんなところで諦めて死ねるか!!
「ちっ、さっきのガキまだいやがったのか。このガキを殺したら同じようにあの世に送ってやる」
「させ、るか........!フィア、には......指一本、れさせねぇ........っ!!」
ビキビキと軋む腕をつき、を持ち上げる。をゆっくりとあげるだけで全が悲鳴をあげる。今までの戦闘でしづつ蓄積していった疲労と痛みは押し寄せる。
朦朧とする意識を、を噛んでを流しその痛みで無理やり留める。
(ダメだ。腕がほとんどかない.......も流しすぎた)
せめて腕だけでも。そう思った瞬間、再び報が蘇り、その報量に頭を痛める。けれどその後、新たな知識を教えてくれる。
「ーーー【自己治癒能力加速】」
本來は痛めた細胞や筋繊維は數日かけて修復し、以前のものより強くなる。その自己治癒能力を【加速】スキルで加速させる。
ただすでに魔力もわずかしかない。だから腕にのみ自己治癒能力を加速させ、腕の回復に集中する。
すると傷だらけで塗れだった腕が、目に見えて回復し始める。傷は早送りのように治っていき、それに伴って腕の痛みも引いてくる。
その時間わずか數十秒。完全に治ったとは言い難いが、剣を握れるくらいには回復した。
さっきまで満創痍で倒れていた俺が立ち上がり、ボロボロだった腕が回復し剣を握った景を見て、男が息を呑む。
「こいつ、回復しやがった。一幾つのスキルを持ってやがる!」
「これで、まだ戦える.......!」
「ハッ!そんな砕けた剣で何ができる!」
剣の刃はわずか10センチ程度しか殘っていない。
けれどそれでも戦う。しでも刃が殘っているのなら刺し、それでもダメなら腕で、それでもダメなら骨で、それでもダメなら噛みちぎってでも、あいつを...........殺すッ!!
「俺は.........死なない!ここで俺が死ねば、フィアを守る奴が居なくなる。フィアを守るのは俺だ!他の誰でもない!!」
フィアを守るのは俺だけだ。他の誰にもそれは託したくはないし、託す気もない。
だから例えどんなに無様になろうとも、俺は生きなければならない。生きるために俺は剣を取る。
「だったら、殘念だったな!」
男は斧を掲げ駆ける。魔力の篭った一撃。あれを喰らえば俺が確実に死ぬ。
けれど負けるわけにはいかない。
満創痍のに鞭を打ち、大地にしっかりと足を立て、覚悟のびをぶつけた。
「ーーー俺は、誇れる俺の為に戦う!!」
そして、斧は迫りーーーー
「ーーーよく言った。イクス」
衝撃。
金屬のぶつかる音と魔力が発する音が衝撃波となって駆ける。
腕で顔を守り前傾姿勢でその衝撃に耐える。
そして目を開けると、そこには俺の憧れる背中があった。
「よく耐えたな、イクス。逃げ出さず、諦めず、最後まで自分を見失わなかった。お前の守りたかったものは、確かにお前が守ったんだ」
「とお、さん...........」
銀と紅の騎士鎧に純白の外套をなびかせ、俺の前に立つのはーーー父さんだった。
銀と紅が混じったしい剣で、俺を襲うはずだった男の斧をけ止めている。男は力を込めて押しつぶそうとするが、父さんの剣はまるで、そこに固定されているのではないかと思うほどにビクともしない。
「その、銀と紅の剣と鎧.........まさかテメェ!?」
「ーーーよくも俺の息子と村に手ェ出してくれたな」
ドンッ!とまるでそれそのものが理的な重さを持っているのではないかというほどの殺気が父さんから放たれる。
殺気は男を直撃し、その余波だけでも俺も思わずその重さをじるほど。
「クソッ!クソクソクソ!クソオオオオオオオオーー!!!」
「死ね」
一線。
直狀態だった剣を、父さんが振り切っただけで、まるでバターのようにスパッと斧が刃の部分から斬れ、男の首を刎ねた。
ごとりと落ちる男の頭。その表はんでいる表で、自分が切られた事にすら気付かず死んだのだろう。
燃え盛る炎の中に、輝く鎧と純白の外套。その姿は俺が世界一憧れた背中で、いつか追い抜いてやると思った背中。
けれどその背中はとても遠い。俺はそう思った。
「とう、さん..........」
そうして俺の意識は途切れた。
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