《神様との賭けに勝ったので異世界で無雙したいと思います。》第17話 卑怯

「は?」

ハトが豆鉄砲を食らったような顔。

実際にその時の姫木さんの顔を言い表すならそれ以上に相応しい言葉はないだろう。

「あなたは……私に勝てると? そう言ったのですか?」

「うん、でももし勝ったら姫木さん凄い拗ねそうな気がして……これ以上仲悪くなるのって気まずいと思うんだよね」

「冗談がお好きなんですね」

姫木さんが笑った。

目は全く笑ってなかったけど。

絶対零度の視線が僕を抜く。

「冗談? なにが?」

「つまらないのでそろそろやめて頂きたいのですが」

「んー、なら姫木さんは負けないと思ってるからあんなに強気だったの?」

「………」

「なるほど、勝てない相手には立ち向かわないんだね、さっき言ってたのは自分のことだったのかな?」

煽りに煽る。

僕ってこんなに口悪かったんだってちょっと怖くなるくらい煽った。

「あ、あの、佐山先輩……謝った方がいいんじゃ……」

栗田さんが恐る恐る言ってくる。

僕としても異論はないので素直に言うことを聞くことに。

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「ああ、そうだね」

僕は姫木さんに頭を下げる。

「本當のこと言ってごめんね?」

ぶちりっ―――

姫木さんの方からそんな音が聞こえてきた。

――――――

姫木刀香(人族)

18歳

Lv1

生命 270

攻撃 40

 30

魔力 50

俊敏 75

幸運 80

スキル 剣姫

加護 アルマの加護

――――――

これが姫木さんのステータス。

數字の上では僕が完全に上だ。

負ける要素はない。

……なんてアホなこと考えるほど楽観視はできない。

姫木さんのステータスは俊敏が高めだ。

これに関しても僕のほうが高い。

だけど、さっきのを躱せる気がしない。

ステータスの正確な定義は気になるところだけど……今はそんなこと考えてる場合じゃないね。

無策に戦えば9割がた負けるだろう。

「準備はいいですか?」

「いいよー、あ、でもスキルは使ってね? あとで言い訳してほしくないし」

「………分かりました。後悔させてあげます」

怒りに表筋をピクピクさせながら姫木さんが構える。

先ほどと同じ上段。

だけど僕には勝算があった。

負けるというのはスキルがない戦いの場合だ。

僕のスキル數は歴代最強の勇者らしい剣聖よりも多い。

おそらくうまく立ち回れば負けることはないだろう。

だけど―――

あえて言おう。

僕はこの戦いでスキルは使わない。

それはスキルを隠していることがバレるから……じゃない。

僕は文字通りの意味で゛全ての゛スキルを使わない。

姫木さんが知らないスキルは勿論のこと皆が知ってる『強化』も『治癒』も『長』も。

その上で彼に勝つ。

そして、ゼンさんが石を放り投げた。

重力に従って自然落下してくる小石。

姫木さんの本気の気迫がに突き刺さるようだ。

作は完璧だ。

構えからきのモーション、そして……最後に至るまで。

素人の僕には欠點など見當たらない完璧なき。

そして、それが僕が彼に勝てる理由でもある。

「………ッ!?」

あらかじめポケットに隠しれていた砂を投げた。

の顔めがけて。

いくら彼が戦い慣れていると言ってもそれは剣道のそれなのだ。

スポーツの延長線上でしかない。

の気迫には殺気がない。

一度じたからこそ分かる……リリアのような本気の殺意が。

そして、上段という構えは腕を頭上に持ち上げている。

つまり―――顔のガードができないのだ。

が構えを崩したのを見て僕は地面を蹴り駆け抜ける。

姫木さんは今軽いパニック狀態だ。

そして、そんな神狀態で振り下ろす木剣に最初の戦いほどの勢いはなかった。

姫木さんの剣は完璧だ。

だけど計算されつくされたものほど計算外のことで簡単に崩壊する。

「ハイ、おしまい」

こつん、と。

の頭を軽く木剣ででて終わり。

姫木さんは唖然としていた。

「…………」

「じゃあ終わったことだしゼンさんと―――」

パンッ!

気付けば頬を叩かれていた。

振り抜かれた姫木さんの腕をじっと見つめる。

「ふ、ふざけないで下さい!」

姫木さんは目をりながら本気で怒っていた。

涙が滲んでいるのは砂がったからだけというわけでもないんだろう。

「ふざけてないけど?」

「こ、こんな卑怯な戦い方で! あなたは勝ったというんですか!? あなたはっ、あなたはそれでを張れるんですか!?」

姫木さん言ってることはよく分かる。

確かに卑怯だろう。

「じゃあさ」

僕の戦い方は最低だ。

みたいに綺麗でもないし、凜々しくもない。

下の下の戦法。

だけど―――

「殺された後で言うんだ? 今のは卑怯だ、それでお前は満足か? って」

「え……?」

姫木さんは言葉を失う。

その思考の隙間に切り込むように僕は続ける。

「わざわざ挑発して怒らせたのはポケットにれた砂に気付かれないため。姫木さんがスキルを使うのは分かってた。だって姫木さんが『分かりました』って言ったから。

姫木さん真面目だから噓をつかない格なのは分かってたしね。慣れてない力に頼ったら不測の事態に対応できなくなるって思ってたんだけどその通りだったね。だから簡単だったよ」

「な、なにを……」

「ゼンさんの言葉聞いてなかったの? 実戦形式、何でもアリだって」

「で、ですが! そんなの……そんなもの……」

語気がしずつ弱くなっていく。

するとゼンさんが近付いてくる。

もしかして僕のこと怒るのかな? と思ったけど彼は僕たちの前で深く頭を下げた。

「すまなかった」

「な、なぜゼンさんが謝るんですか!? 悪いのはこの男……」

「違う、本當なら俺が教えるべきことだったんだ」

ゼンさんは続ける。

姫木さんは唖然とする。

口をぱくぱくとさせ言葉を失ったままだ。

「君は強い……だから、大丈夫だと思ってしまったんだ。この子は強いから大丈夫だと、俺に勝てるくらいだから問題ないだろうと高を括った。勝手に思い込んだんだ」

そして、ゼンさんが次に僕を見る。

「君には嫌な役目を押し付けてしまったようだ……すまない、あとしで一生後悔するところだった」

「ど、どういうことですか!?」

姫木さんが慌てて詰め寄ってくる。

分かっていないらしい姫木さんにゼンさんが伝える。

今度ははぐらかすことなく。

「君は……あのままだといずれ死んでいたと思う。実戦で必要なのはしさでも技でも強さでもない

生死の結果が全てなんだ。その他は全て二の次だ」

それは姫木さんの経験してきたスポーツの剣とはあまりに違いすぎるものだ。

は殺すために技を磨いてきたわけじゃないんだろう。

確かにしさも技も大事なんだろう。

だけど、それもこれも全部生き殘れることが前提だ。

「………あ、あの、姫木さん」

見ていられなくなったのか秋山さんが聲をかける。

栗田さんも何を言っていいのか分からないようだったが駆け寄ってきた。

姫木さんは虛ろな目から零れ落ちる涙を拭うことなく俯いてしまう。

姫木さんは決して馬鹿じゃない。

だから分かってるのだ。

が勝ってきたのは試合だったんだと思う。

だけどこの世界で僕たちがするのは殺し合いだ。

し、頭を冷やしてきます……」

はとぼとぼと背を向けた。

フラフラとおぼろげな歩き方。

その姿には戦う前のような凜々しさも強さもなく……僕にはそれがとても小さな背中に見えた。

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