《神様との賭けに勝ったので異世界で無雙したいと思います。》第21話 最弱

「む、無理……もう全部無理……なにがなんでも無理……無理以外の何でもない」

「あ、あの……悠斗様、大丈夫ですか?」

リリアが心配そうに名前を呼んでくる。

文字通り死ぬほど過酷な訓練でへとへとな僕にはその姿がまるで天使に見えた。

決めた。

僕が死んだら全財産を彼に譲渡しよう。

一銭も持ってないけど。

「あの、佐山さん? 次は合同力訓練らしいんですけど」

「無理、仮病でお腹痛い」

困った顔をする秋山さん。

みんなが心配してくれている。

姫木さんも、栗田さんも、秋山さんも、リリアも。

だけど僕はそれどころじゃなかった。

痛は治癒スキルでどうにかなかったけど、未だに癒えることのない疲労は消えず指一本かす気力もない。

セラさんがトイレかどこかに行ってる間にこっそり治癒スキルを自分に使わなければ本當に死んでいたんじゃないだろうか?

「どうしましょう?」

「さすがに休ませてあげた方がいいんじゃ……」

「そうですね……ほんとに死にそうですし」

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皆の心遣いが嬉しかった。

そうだ、そうだよ。

人とは本來こうあるべきなんだ。

間違っても休憩もロクにさせずに日が沈むまで走らせるのはいけないことなんだ。

僕はようやく大切なことに気付いた。

「佐山悠斗はいるか?」

ビクリッ、とが反的に跳ね上がる。

こ、この聲は……と、恐る恐る聲の方向に目を向けた。

「せ、セラさん……?」

そこには騎士団団長のセラさんがいた。

相変わらず暑苦しいフルプレートアーマー。

金屬のれる音がトラウマになってるな僕。

「そこにいたか、いくぞ」

「……どこにですか?」

「お前が知る必要はない」

いや、あると思います。

セラさんの背中を見ながら城を歩く。

僕は必死にセラさんの説得を試みていた。

「セラさん、僕が思うに人は優しくあるべきだと思うんですよ。

人が人に優しい世界、それが僕の夢でした。世界の平和……何て尊いんでしょう。

間違ってもスパルタな特訓で死ぬ寸前まで走らせたりしてはいけないんです。

なのにその次の日にまだ同じ過ちを繰り返そうとしている。人は愚かな生きだと思いませんか?

ですが、だからこそ人とはおしい。人とは學ぶ生きです。そう、長できるんです。

反省を繰り返し失敗を失敗として認識した時、人は初めて」

「そこまで喋る元気があるなら過酷な訓練でも大丈夫だろう」

「生涯黙り続けることをここに誓います」

「なら黙って歩け」

駄目だ、何を言おうとこの人は止まらない。

を歩く二人分の足音。

まるで死刑宣告のように聞こえる。

「ご苦労」

そう言って門番の人に労いをいれる。

見張りをしている人を労う暇があるなら殺そうとした相手を労わってほしい。

そのまま城門を通った。

「外に行くんですか……?」

「そうだ」

えぇ……何しに行くの……?

そして、やってきたのは森だった。

暗くじめじめしていて変なツタが木から垂れ下がっている。

森の奧は真っ暗でほとんど見えない。

晝間だというのにそこだけ夜のような……

「殺せ」

「主語は何処へ」

セラさんはチッと舌打ちをして説明してくれる。

いや、さすがに今のは分からないですよ。

森まで來て殺せの一言だけ告げられても凄い困る。

「この森は魔の巣窟だ」

「えーと、つまり何でもいいから魔を殺してこいと?」

「そうだ、ただし……」

セラさんは人差し指を一本だけ立ててきた。

僕は恐る恐る「10匹……?」と、尋ねた。

「千匹だ」

レベル凄く上がりそうですね。

背中から嫌な汗が止まらない。

「もう一つ條件だ、盜賊団がいるらしい噂がある。そいつらも殺してこい」

「一応戦闘未経験なんですが」

無駄とは思いつつも一応言ってみる。

こんなことで諦めてくれるはずもないだろうと。

まともな答えが返ってくることも期待していなかった。

だけど、意外なことにセラさんは真面目に言ってくれた。

「生死を賭けた戦闘において一番大切なものとは」

セラさんは一呼吸置いた後で答えた。

「経験があるか否かだ」

え、なに? そういう話?

と、思ったけどそんなわけないだろう。

真面目に聞くとしよう。

「お前の世界に戦爭があるかは分からないが、この世界では頻繁に戦爭が起きる。

小さなものから數十萬単位が殺し合う大きなものまで。

大勢の生命が消えていった。そして、戦爭において生き殘った兵士が決まって言う言葉がある。それは」

―――二人目からは楽だった。

「………」

「殺し合いにおいてこの差が絶対的な優劣を決する。

その一歩を踏み出したことがあるか否か。その一歩は小さな一歩……だが、しかしその一歩を踏み出した者と踏み出せなかった者の間は斷崖絶壁だ」

なるほど……つまりセラさんが言っているのはそういうことなんだろう。

これはレベルを上げることが目的じゃない。

戦闘に慣れさせるわけでもなければ強くするわけでもない。

「歴代の勇者の中で最強と呼ばれていた勇者がいた」

「剣聖リョーマですか?」

「ああ、そんな男もいたらしいな」

「? 違うんですか?」

「違う……とは斷言できないがな。どちらも死んでいるのだから」

だが……と、彼は続ける。

「スキルの數だけが全てではない。その勇者はある特別なスキルを有していたんだ」

僕が黙ったまま聞いていると、彼はフッと笑った。

その笑みにはどこかやり切れない悲しみが浮かんでいる気がした。

「スキル名は不明、その力も不明。そして、その勇者は生涯一度もその力を使うことはなかった」

「じゃあ……なんで最強だと?」

「その勇者はこのスキルを使えば世界を破滅させることができるとすら豪語したんだ。そして、誰もがそれを否定できなかった」

「なぜです?」

「神眼というスキルを知っているか?」

心臓が跳ね上がった。

どくん、と鷲摑みにされたような覚。

だけど僕は平靜を裝った。

落ち著け……僕のことを言っているわけじゃない。

過去の誰かがその勇者に神眼スキルを使ったということだろう。

そして、召喚したばかりの勇者の言葉が真実だと、そのスキルが証明したんだ。

「偽裝の上位スキルでも持っていたんだろう、あるいはそのスキル自のランクが高かったか。とにかくそのスキルは確認できなかった、だが……その勇者の言葉が虛言の類でないことも神眼の所有者には理解できたらしい」

「噓だとバレないスキルでも持ってたんじゃ?」

「そんな説もあるな。発條件故に使いにならなかったんじゃないかとも。今となっては確認のしようもないが……」

「………」

ふいに、一人のある男を思い出した。

ある日突然僕を殘して姿を消した―――父親のことを。

なぜだろうか……拠はない。

だけど、僕の脳裏には子供の頃に優しく笑いかけてくれたその男の姿が見えた気がした。

「優しすぎたんだ。誰も殺すことなく不殺の信念で世界の平和を目指した勇者はあまりにもあっさりと死んでいった」

僕は恐る恐る名前を問う。

聲が震える。

ありえない、そのはずなのに―――

「サヤマ・シドウ……おそらく誰よりも強かったその男は、誰よりも弱かった。稀代の大噓つきと呼ばれている最弱の勇者だ」

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