《神様との賭けに勝ったので異世界で無雙したいと思います。》第29話 無力

あの騒から數日。

あれから王城の人たちは、忙しない日々を送っている。

城の復舊、怪我人の療養に、隣國同士の報のやり取り。

不幸中の幸い……というべきか王様は何か所か骨折しただけで命に別狀はなかった。

王様を守ったみんなも怪我はあったけど、大事には至らなかった。

僕も事件の詳細を話した。

リリアが魔族だってことも、通者だったことも、僕がそれを知って黙っていたことも。

お咎めはなかった。

だけど勇者に構う暇はないらしく、最近は休みも増えている。

もっとも今日は雨が降りそうなくらい雲が分厚いからまともな訓練は出來ないだろうけどね。

スキルに関しても勇者の皆にだけは話した。

のことも、持ってるスキルのことは全て……

こんなことになった時に、もう黙っていようとは思えなかったから。

みんなは僕がスキルを隠していたことについては怒らなかった。

何も言ってこなかった……だけど、怒ってほしかった。

お前のせいだって言ってほしかった。

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僕が皆を信用しなかったから。

僕がリリアのことを隠していたから。

僕が安易なことを考えたから。

リリアが死んだのは全部お前のせいだって……

責めてほしかった。

僕にはその通りだとしか思えなかったから。

なんでもいいから怒ってほしかったんだ。

僕たちは10日後にここを出ることになった。

魔王を倒すための旅。

強い仲間を探して倒してきてほしい……と言えば聞こえはいいけど、たぶん僕たちに構う余裕がなくなったからってことなのかもしれない。

そのあたりは政治的な考えもあるんだろうけど、僕にはよく分からない。

分かるのはどちらにせよ僕たちはもうここに長くいることはないってことだけだ。

僕は城を歩く。

ひどく心が沈んでいたのでしでも紛らわせようと思ったのだ。

今日は訓練は休みだ。

それなのに中庭へと足を運ぶと姫木さんが素振りをしていた。

一段落したのを見計らってタオルを渡す。

「お疲れ様」

「佐山さん……」

姫木さんがタオルをけ取りお禮を言う。

汗を拭いながら謝ってきた。

「……ごめんなさい」

なにが? とは言わない。

姫木さんのことだから気にしなくてもいいことを気にしているんだろう。

「強くなろうよ、僕も強くなる」

「……そうですね」

僕がもっと強ければリリアは死ななかった。

「……僕さ、正直リリアにはなかった。だけど何も言わなかった。の子が好意を寄せてくれるのが嬉しかったんだ。主人公みたいだって思ってた」

姫木さんは黙って聞いてくれた。

の気遣いをじながら僕は続ける。

「最低の主人公だよね。はっきりしないしさ。ヒロイン死なせる主人公なんて見たことないよ」

「……そんなことは」

「あるよ」

姫木さんの言葉を遮るように言った。

誰が何と言おうと僕の行は褒められたものじゃなかった。

その行の結果があれだ。

リリアは不幸な最期を迎えたんだ。

「それは違います」

「違わないよ」

「違いますッ!!」

姫木さんの大聲に驚いた。

こんな聲出すんだ……と、彼の方を見る。

泣きそうな顔をしていた。

「セラさんから、詳細は聞きました……」

「なら分かるでしょ?」

「ええ、分かります。リリアさんは幸せだったんだと」

僕は何も言えなかった。

だって、もうリリアはいないんだから。

それを知ることはできないし、確かめることもできない。

それでも……と姫木さんは僕を否定した。

「………リリアは、幸せだったのかな」

「はい」

斷言される。

即答だった。

「そうだといいんだけどね」

「そんな不確かなものじゃありません。斷言します。私がリリアさんだったならそう思いました」

「……ありがとう」

僕は素直にお禮を言った。

正直その言葉に救われた。

心が軽くなった気がした。

「僕、魔王倒すよ……絶対に、なにがあっても」

僕は勇者だ。

だからだったのだろう。

以前はそんな使命に突きかされていた。

だけど、今回は違う。

僕が自分自で今決めた。

もうリリアのような人をつくっちゃいけないんだ。

「私も……手伝います」

「うん……ありがと」

僕には仲間がいる。

姫木さんも、秋山さんも、栗田さんも。

セラさんだって、ゼンさんだって僕たちの味方だ。

心強かった。

僕は誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない。

自分の決意を。

風が吹き抜けて曇りだった空から雨がぽつり、ぽつりと降り始める。

「そろそろ、戻ろうか……今日寒いから風邪引いちゃうよ」

「……そうですね」

姫木さんが背を向ける。

その後ろについていくように僕は歩き出す。

そのままその背中に向けて僕は言った。

「リリアは、言ったんだ……噓だって、噓だから……ごめんって……」

「………」

「噓だったならさ、なんでこんなやつ庇ったんだろうね……」

分かってる。

姫木さんはリリアが幸せだったというんだろう。

そうなのかもしれない。

僕にはそれを否定できない。

だから、さ―――と、僕は……

「僕……リリアのこと、ほんとに何とも思ってなかったよ……い、いちいち、くっついてくるしさ……うっとおしかったんだよね……」

僕は背を向けたままの姫木さんに言う。

一方的に。

堪えようと思っても嗚咽混じりの涙が止まらない。

姫木さんはその言葉を背を向けたまま聞いていた。

「だから、僕……意外と平気なんだ……姫木さんたち……み、皆、心配してくれてるみたいだけど……ほんとに、平気だから……」

「……分かっています」

僕はひどく格好悪い噓をつく。

そんな見えいた噓をつく僕に姫木さんはずっと背を向けていた。

僕の噓も、格好悪いところも、姫木さんは分かってくれていた。

そのまま背中を向けてくれていた。

そのことがあの時どうすることもできなかった無力な僕には何よりも嬉しかった。

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