「ヤアアアァァァ！」

「ハアアアァァァ！」

大観衆の中に響き渡る二つの聲。

竹刀を振るう選手の手にはじわりと汗がにじんでいる。

全國高校総剣道大會、通稱インターハイ。

日本各地から手練れの剣士が集まる場で、一人ずば抜けた素質を持つ者がいた。

その名は――――柊司ひいらぎ　つかさ

「――勝負あり！」

審判の右手から決著を知らせる白の旗があげられる。

柊司の閃のような突きが決まったのである。

その瞬間ギャラリーからは「きゃぁぁ！」という黃い聲が上がる。

柊司は強いだけでなく容姿端麗、整った目鼻立ちは防の面越しにも伝わってくる。

當然、子からの人気は凄まじかった。

勝負が終わり、軽く息をらしながら面を外すと濡れ羽の髪がふわっとたなびく。

「……決勝戦もこんなものか」

どことなく儚げな表で呟く彼のその心は、空虛なものであった。

「お疲れさん、さすが剣聖だな。一年生にしてインハイ優勝なんて快挙だぞ」

部活の先輩から肩をがしっと摑まれ激勵される。

剣聖というのは、彼があまりにも強すぎるためにつけられた稱である。

「ありがとうございます。でもまだまだ俺なんて――――」

その時である、強度の高い運をしたことによる反で制不能な不整脈が発生した。

「む、が……先輩、救急車を……」

そこまで言って彼の心臓の鼓はピタリと止まってしまう。

彼の命は十六にして、まだ全盛期を迎えることなく終わってしまったのであった。