「著きましたよツカサさん！　ここが魔法剣士ギルドです」

教會を出てから十分足らずでの到著だ。

來る途中にはレンガ造りの家や、丸太で出來たログハウスが立ち並んでいた。

なのでギルドも似たようなものかと思っていたのだが……。

「これが本當に異世界の建か……？」

思わずため息が出るほどの洗練された外観。

一面ガラス張りの近代的な建、それが魔法剣士ギルドだった。

中に足を踏みれると剣士たちの掛け聲と打音が聞こえてくる。

その様子はさながら剣道部のようだ。

「あれ、シャロロちゃんかい？　珍しいね。……橫にいるのは新人さんかな？」

り口すぐ近くのカウンターに居る長のスキンヘッドのおじさんに聲を掛けられた。

「ゴンゾさんこんにちは～。この方は私が召喚で呼び寄せたツカサさんです」

「こんにちは、紹介してもらった司つかさです。魔法を教えてもらえるとのことで伺いました」

「へぇ、召喚でこんな坊ちゃんが呼び寄せられたのかい。まあこっちに來い」

ゴンゾと呼ばれたおじさんに言われるがまま近づくと、黒の長い棒切れを渡された。

「……これは？」

「なんだ、坊ちゃん何も聞いてないのか？　ここ魔法剣士ギルドでは練習するのにその擬刀ブレード・ユニットを使うんだよ」

擬刀ブレード・ユニット……竹刀のようなものだろうか？

しかし竹刀に比べるとずっしりと重い、まるで日本刀のようだ。

「まずはそれを使ってギルドのみんなに実力を示せ、魔法を教わるのはそれからだ」

「わかりました」

俺は擬刀ブレード・ユニットを右手一本で摑み、稽古をしているスペースにずかずかと踏みった。

「俺の名前は柊司ひいらぎ　つかさです！　どなたか手合わせをしてはもらえないでしょうか！」

開口一番大聲で試合を申し込む。

まるで道場破りのような俺の振る舞いは、そこにいる者全員の注目を浴びるには十分だった。

「なんだなんだぁ、威勢のいいのがってきやがったな！」

俺の聲にいち早く反応したその男は、二メートルは優に超える筋骨隆々のを持ち、頭の左右からは水牛のような角が生えている。

その姿に驚きを隠せない様子の俺を見て、シャロロはこそっと耳打ちをしてくれた。

「あの方は副ギルドマスターのフィンさんですよ。ドラータ族の特徴である立派なと角や、その気から鬼の副長と呼ばれているんです～」

鬼の副長――新選組の土方歳三を思い起こさせる呼稱だ。しかし、土方の外見は紳士的な風貌だったのに対しこのフィンは見た目からして本の鬼のようだ。

「ヒイラギツカサと言ったな。いきなり勝負をしかけてくるその度は認めてやらぁ。でも現実を知ることも大事だ。――おい、モタルケ！　こいつの相手をしてやってくれ」

正座をしていたモタルケと呼ばれたヒューム族の男が、目の前にある擬刀ブレード・ユニットを手に取り立ち上がると、俺に向かって一禮する。

「君はまだ若い。自信があるのは結構なことだが、一度ここで壁を知っておくといいでしょう。……骨折くらいは覚悟をしてくださいね」

モタルケが擬刀ブレード・ユニットの先端を斜め上に向けた構え――正眼の構えで俺に対峙すると、フィンにより戦闘の合図が告げられる。

「戦闘開始バトルスタート！！」

じりじりとモタルケがすり足でにじり寄ってくる。

それに対して右手で擬刀ブレード・ユニットを持ったまま立っている俺。

數秒ほどするとギャラリーから聲が聞こえてきた。

「なんで二人とも攻撃しないんだ？」

「馬鹿っ！　それくらいもわからないのか！　二人とも間合いを測ってるんだよ」

「モタルケさんの間合いにった瞬間にあの年は終わりってことか」

「そういうことだよ、まあ見てな」

ギャラリーの話を聞く限りこのモタルケという人はギルドでも中堅以上の実力者なのだろう。

でも、おかしい、それなのに何故――

――――俺の間合いの中でぼーっと突っ立ってるんだ？

「あの……？　モタルケさん？」

「試合中だぞ、言葉を慎みなさい」

「打ってもいいんですよね……？」

「――――！？」

モタルケはようやく自が俺の間合いにっていることに気付いて攻撃を仕掛けてきた。

俺の頭上にモタルケの擬刀ブレード・ユニットが振り下ろされる。

それを橫にさっとかわして――――がら空きのに剣撃を打ち込んだ。

「――ぬっ、ぬおぉぉぉぉ！」

苦しそうに悶えながら崩れ落ちるモタルケ。

シャロロはモタルケの撃ち込まれた箇所を確認して慌てて、

「大変です！　モタルケさん骨折してます！　魔法ギルドまで運んで回復してあげてください！」

ギルドの救急班らしき人たちがモタルケを運んでいく。

「……あの、まだやれる人います？」

モタルケの敗北で通夜のように靜かになってしまったギルドに、虛しく俺の聲が響く。

誰も名乗りを上げないのを見かねてフィンが立ち上がった。

「ヒイラギツカサ、モタルケに勝ったくらいで調子に乗るなよ。しかし、お前を甘く見ていたのも事実。その詫びもこめて、俺自らが相手してやらぁ」

フィンは擬刀ブレード・ユニットを右手と左手に一本ずつ持ち、巨を更に大きく見せるかの如く大の字に広げて俺の方に向き合った。

「モタルケの敗因はお前を素人だと思って魔法を使わなかったことだ。しかしこの俺は違う！　最初から全力でいかせてもらう！　俺の魔法の相は火。業火の二刀流をるフィンとはこの俺のことよ！」

途端にフィンの両手にある擬刀ブレード・ユニットのそれぞれから火が立ち上った。

「やべぇ！　フィンさんが本気を出した！　みんな離れろ！」

ギャラリーは皆カウンターの裏側に退避していった。

面白い。それだけ広範囲の攻撃を繰り出すってわけだな。

「ヒイラギツカサよ、お前は普通の剣士ではないな？　先程の立ち合いを見るにお前の間合いはとてつもなく広い。　――――だがそのお前の間合いよりも遠くから攻撃してくる場合にはどう対処する、ヒイラギツカサ！」

フィンが右手の剣を振るうと、剣先から火炎放のようにギュンっと炎がびてきた。

俺は咄嗟とっさにジャンプして躱かわしたが、服の袖口に炎がかすってチリチリと焦げる音がする。

「これ、まともに當たったら火傷じゃすまないぞ……」

考えろ、どうすればこの狀況を切り抜けられるのかを。

冷や汗をかきながらも冷靜に思考を巡らせる。

今の攻撃は右手から放たれた炎のみだったからジャンプして避けられたものの、両手で放たれたら今度こそ終わりだ。

こういう時の結論は一つ――――やられる前に、やれ！

俺は手に持った擬刀ブレード・ユニットをフィンめがけて思い切り投げつけた。

「迷ったかヒイラギツカサ！　一つしかない武を捨てるとは！」

フィンは目の前に飛んできた擬刀ブレード・ユニットを炎の剣で薙ぎ払い、次の攻撃に移ろうとする。

しかし眼前に居たはずの俺の姿が見えず、キョロキョロと辺りを見回すフィン。

「――こっちですよ、フィンさん」

「――何ぃ！　何故俺の後ろに！　移したにしては、早すぎるっ！」

地――瞬時に相手との間合いを詰め、相手の死角にり込む捌き。

俺は剣をに付ける過程で地を修得していた。

「覚悟してください、俺は無刀も使うんです。素手の一撃も軽くはないですよ」

「くっ、くそったれが――」

フィンが振り向くよりも早く、俺の拳がフィンの顔面をえぐった。