《悪魔の証明 R2》第161話 094 スピキオ・カルタゴス・バルカ(2)

トゥルーマンがクロミサを視認可能であることに気がついたのは、來るレイのサイキック・チャレンジに先立ち仮面とウイッグを被った私が、彼の知るスピキオであると思わせることが可能か念のため試行しようと彼と面會したときのことだった。

それ以前は、超能力者のスピキオは――つまり私であるが――一度たりともトゥルーマンと直接顔を合わせたことはなかった。

なぜ、私が彼と長らく會わなかったかというと、彼と長く付き合えば付き合う程、クレアスが演じるスピキオとの違いが顕著になり、彼にふたりのスピキオの存在を気がつかれてしまうかもしれないと考えたからだ。

だが、私たちの偽裝は完璧に近く、直接的でなければ寫真で詳細を見比べられる以外それを見破ることはできないと、一方では思っていた。

二、三回會ったくらいではまず見分けがつかないと確信していたといった方がより正確かもしれない。

クレアスがトゥルーマンの信用を勝ち取って以降、スピキオを信じ切っているトゥルーマンがその類の詮索をする理由は薄いと推察していたことも、その自信の一部となっていた。

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また、私のを探そうという輩はすべて事前に組織から排除していたので、トゥルーマン以外の教団の人間たちも私たちの脅威にはなりえない。

これらを鑑みて、短期間であれば私がトゥルーマン教団に近づいても問題ないとかねてから判斷していた。

とはいえ、もちろんいきなりトゥルーマンに勘づかれてしまう懸念は拭い切れない。

そうなると、その場は誤魔化せたとしても作戦自の練り直しが必要となるため、念のためサイキック・チャレンジの前にトゥルーマンと會って彼の反応を先に確かめておく必要があった。

トゥルーマンはああ見えても繊細な男だ。注意してし過ぎることはない。

そう思った私は、たまたま暇そうにしていたクロミサを連れ立って國立アキハバラステートセンターに來館している彼に會いに行った。

最初に會った時、トゥルーマンは私とクレアスの違いに気がついた素振りは見せず、それについてはまったく問題がなかった。

だが、彼と會話を進めていく最中、トゥルーマンがクロミサを認識できることが判明した。

それを知ったときには、正直驚いた。揺を隠せるかと思うほどの衝撃だったが、その時はクロミサの協力もあって事なきを得た。

結局のところ、最後までスピキオがふたりいると彼は気がつかなかったわけで、私とクレアスのトリックが彼に知られるという心配は杞憂に終わったのだが――殘りの課題であるクロミサの件で、當時私はひどく頭を悩ませることになった。

この時點で、レイとミハイルを利用しサイキック・チャレンジを公に開催させ、國會議員たちの目の前でトゥルーマンを罠に嵌めるという計畫は既に最終段階にっていたのだが、彼がクロミサを認識できることによって、その計畫に大幅の変更が必要となってしまったからだ。

當初の計畫はクロミサを自由にかして、トゥルーマンに公衆の面前で恥をかかせる程度の極簡単なもので、そこからあの最終局面の展開へと持っていくつもりだった。

だが、トゥルーマンが私と同じくクロミサを認識できる能力を有していたせいで、他の方法を取る必要に迫られてしまった。

要は、彼がパフォーマンスをしている最中に、重大な失敗を犯すよう仕向けなければならなくなったということだ。

彼がクロミサの存在を公に語るというリスクは依然として殘っているが、もう先に進む以外の道は、私にもクレアスにも殘されていなかった。

サイキック・チャレンジという大舞臺を逃すと、次にこのような機會が訪れることはなく、それまでに何が起こってもおかしくはない。

ゆえに、あのような形――ある意味無謀な作戦の計畫を決行したのだ。

サイキック・チャレンジの前に欠陥はあるとはいえ、何とかこの作戦を考えついてほっとしたのも束の間だった。

いざ、そのサイキック・チャレンジが始まると、さらに重大な誤算が私を待っていた。

クロミサはトゥルーマンだけではなく、レイ・トウジョウにも見えていたのだ。

あの時は、完全に油斷していた。

もちろん、すベてが計畫通り進まないと思ってはいたが、まさかレイ・トウジョウ五百人委員會をあのように使うとは考えもしなかった。

トゥルーマンにランメルをそそのかせてミハイルの資産を凍結させ、レイの資金源を斷ったことにより、レイのできることは限られているはずだった。

クロミサを利用すること自、もはやトリックでも何でもないただの人を確実に欺くための仕掛けで、いかにレイといえどこのようなアンフェアな勝負では対処しようがないと、彼を甘く見積もっていた。

後はクロミサを使い、いつもの懐疑論者と同じようなじで彼を騙せば良いとだけ判斷しており、あのような大がかりなことをするとは思ってもみなかった。

が空席を読み上げ始めたときなどは、ショックどころの話ではなかった。

なにしろ、勝ち負けの論理に関係なくトゥルーマンを欺こうとしているのにもかかわらず、その手前でレイにクロミサの存在を暴かれてしまったのだ。

そのような狀態に陥ることはまったく計算にれておらず、もしあのまま進んでいたらと、未だに背筋が凍る思いがする。

ジョン・スミスが機転を利かせてクロミサを匿ったのでことなきを得たが、もしあのときレイがクロミサの存在を完全に暴してしまったとしたら、いかに取り繕おうとも対処のしようがなかった。

そうなれば、會場の人間はまだしも、トゥルーマンはおそらくレイの獨白によりクロミサが殘存思念であると認識してしまい、その後に行われた私の目的である彼のパフォーマンス自がなくなっていたことだろう。

そうなると、今までやってきたすべてが水泡に帰していたのかもしれない。

レイとの対戦をそのように振り返りながら、私は仮面の奧で目を細めた。

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