《悪魔の証明 R2》第163話 095 スピキオ・カルタゴス・バルカ(2)

短い回想を終えた後、完全に息絶えたトゥルーマンへと目をやった。

首は真橫に折れ曲がり、舌は考えられない程口から外に飛び出していた。

これで生きていると思う方がどうかしている。

私は頭を軽く振りながら、前へと足を踏み出した。

もはや長居は無用だ。

次の瞬間には、そう中で吐する。

私には、どうしても行かなければならない場所があった。

十一月十四日――十年前と同じ日付同時刻に発車する列車に乗って、あのスピキオ・カルタゴス・バルカがたどり著けなかったロサンゼルスに行く。

そして、全世界に向けてトゥルーマン教団の終わりの始まりを宣言するのだ。

「これは私の意地だ」

歩きながら、そうぽつりと呟いた。

一度立ち止まり、まだトゥルーマンの首を絞め続けているクロミサへと聲をかける。

「クロミサ、もう十分だ」

私の臺詞が耳にったのか、すぐにクロミサの手の中にあった紐がぱらりと下へと落ちた。

時を同じくして、トゥルーマンが控え室の床へと崩れ落ちる。その醜い巨はどさりと音を立てて、地面へと這いつくばった。

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何のも湧かない。

ただ単に、死すべきものが死んだだけだ。

の気を失ったトゥルーマンから目を切り、私は再びを翻した。

通路へと足を踏み出す。

ロビーの反対側――関係者出口へとを向けた。

通路をそのまま歩いていると、クロミサが私の後ろを追いかけてきた。

「ちょっと、待ってよ」

と不機嫌そうに、呼びかけてくる。

スピードを緩めることなくそのまま前に進んでいくと、クロミサは憤然とした息を吐きながら隣に並びかけてきた。

不機嫌そうな顔をしている彼が橫にいるからというわけではないだろうが、通路を照らす蛍燈のが若干暗くなっているようにじた。

今後予想されるトゥルーマン死による教祖トゥルーマンの神格化。場合によっては、トゥルーマン教団がその死を隠す可能もある。

それらを防ぐ算段はついているが、これからまだ先は長い。

薄暗い蛍燈を見つめながらそれを思い返すと、心がし重くなった。

通路を曲がると、そのし先にいたランメルの姿が目にった。

ショック冷めやらぬのか、うなだれるように壁にもたれかかって廊下に腰を下ろしている。

「まだいたのか。まあ、気持ちはわからないでもないが」

私はそう呟いてから、失笑をらした。

ちょっと、からかってやるか――

いたずら心から、私はランメルの前に立ちはだかった。

彼を見下ろし、

「ランメルさん」

と、聲をかける。

ランメルは怯えた目を、私に向けてきた。

「スピキオ。何なんだ、あれは」

開口一番、確認してくる。

「それは、あなたには見えないものですよ。ランメルさん」

私は即答した。

「馬鹿な……そんな馬鹿なことはありえない」

ランメルが挙不審な聲を上げる。

「……ここからあなたが推測できることがひとつある」そう斷りをれてから、再び口を開く。「先程も言いましたが、私はいつでも、その見えないものを使ってあなたの命を奪うことができるということです。ええ、とても哀れなトゥルーマンのようにね。では、なぜあなたを先程私は殺さなかったのか。それはまだ、ラインハルトグループの會長であるあなたに利用価値があるからですよ。何をしてしいか、これも先程申し上げた通り、後でご連絡差し上げますので、その際はよろしくお願いします」

この私の臺詞に、ランメルは大口を開けて驚愕の表を浮かべた。

仮面の奧でそれを確認した私は、口を歪めてほくそ笑んだ。

そのまま立ち去ろうとしたが、思い返して再びランメルへと顔を向けた。

地面を見つめているランメルに、

「ああ、そうそう」

と、馴れ馴れしく呼びかける。

汗だくになりながら、ランメルはまたこちらを見上げた。

彼と目が合ったタイミングで、言う。

「私のような若輩者が、あなたに経済論を講釈するのはなんですが、良い機會だから申し上げておきましょう。さて、あなたの最も嫌う――いいえ、私も嫌うコミュニズムの目的は、フランス革命を招いたジャコバン派の思想をルーツとするカール・マルクスに構築されたことからわかる通り、労働者における階級闘爭――すなわち、すべてを労働者に委任した狀態で経済活を行うことです。で、仮に彼らの目的通り全世界にそれが波及したとしましょう。結果、いかなる場所でも同じような結果が生まれる。そこには人種も、國境も、政府も、ひいては國もない。ただ、コミュニズムという経済思想があるのみですが――結局のところ、これは資本主義経済に淘汰されてしまったわけです。そこであなたのいう新自由主義――ひいては市場原理主義が登場するわけですが、この経済思想を信仰する者は概ね、全世界に市場を拡大しほぼすべてを民間に帰すことを最終目標としている。その者たちの指標には人種も、國境も、政府も、ひいては國という概念自も含まれていない。でね、ここで私はあなたに問いたいのです。あなたのいう新自由主義とコミュニズム、いったいどこがどう違うというのですか」

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