ベレーナがを放ち瞬いている。それは神的なだった。部屋中のすべてがその輝きの中に溶け込んでしまう。の模様やが何度も変化して、何かが姿を見せ始めた。

「ベレーナ……？」

二つの青い寶石がきらきらっている。いや、あれはきらめく貓の瞳だ。真っ白な並みの、見たこともないほどしい貓。その貓がくと、まばゆいがあちこちに跳ね返る。きらきらる虹のドレスを著ているみたい。

「私たちを助けてくださるのですか……？」

ミネルバはベレーナの橫にひざまずいた。をかがめ、右手をベレーナの顔の前に差し出す。

ベレーナは首をかしげてミネルバを見た。そして、口を開いた。不思議な鳴き聲がする。普通の貓の出すものとは全然違って、とても神的な聲だ。

でる許可をもらったのだと、直でわかる。ミネルバはベレーナのにれ、首回りから顎をなぞった。額や頬をでると、ミネルバの中に何かが流れ込んできた。心とが元気で満ち溢れ、膨れ上がるエネルギーを抑えておくのが難しいほどだ。

「すごいな、ミネルバは」

ルーファスが言った。顔を上げたミネルバは、彼の興した顔を見た。

「召喚聖との戦いの後、純聖のをちゃんと機能させた人間はいない。それが、ミネルバの手によってついに為された」

「そうじゃないの。たしかに私は、やみくもに力を注いだけれど。ベレーナの心に火をつけたのは、どうしてもメイザー公爵を救いたいという私たちの熱い思い。ベレーナがもう一度人間を信じてくれたのは、私たちの間にある絆や信頼、そこから生まれるの力のおかげなの」

その事実は揺るぎないたしかなものだ。ベレーナが同意するようにミネルバの手に鼻先をこすりつける。

ミネルバはベレーナを腕に抱いて立ち上がった。自分の全がみなぎる力でり輝いていることに気づく。ベレーナと共鳴しているのだ。『彼』と一になる不思議な覚をミネルバは味わっていた。まるで自分自がになったみたい。

「ルーファス、ロアン、私にれて。ベレーナが『癒してあげる』って言ってるわ」

いまやミネルバは、ベレーナのをやすやすと『見る』ことができた。

「あ、そんなじなんですね。ベレーナがあれを倒してくれちゃうんじゃないかって期待したけど、勝利は自力で勝ち取れってことか。あくまでも人間に全力を盡くさせる姿勢、嫌いじゃないです」

ロアンがいたずらっぽく笑う。彼はちらりとルーファスを見た。ルーファスが「特別に許可する」とうなずく。

ミネルバにれるためにロアンが近づいてくる。ベレーナが肩に移してくれた。

「絶好調のロアンなら、あいつをやっつけられるって言っているわ」

ミネルバはロアンの手をぎゅっと握って言った。ロアンはミネルバの手を握り返すと「すごいや」と笑う。

「が驚くほど癒えてる。元気がみなぎって震えちゃうくらいですよ！」

ミネルバから手を放し、ロアンはその場で飛び跳ねた。たしかに元気そうだ。

次にルーファスが、激しい熱をこめてミネルバの手を握ってきた。

「あなたが結界で守れるように、メイザー公爵の魂の場所を示してくれるって」

「ありがとうございます、ベレーナ」

ベレーナが生み出しミネルバが仲介する、とてつもない癒しの力がルーファスに注ぎ込まれる。

「やるぞロアン、ここが正念場だ」

「はい！」

ルーファスとロアンのが輝いている。まるで再び勢いを得た炎のようだ。

ロアンが手のひらに浄化の力を集中させた。彼の中でみなぎる興が乗り移ったかのように、それは火の玉のように熱く輝き、ぱちぱちとぜている。

ベレーナがまた不思議な聲で鳴く。黒い霧の中に小さく輝く球が浮かび上がった。メイザー公爵の魂だ。

ルーファスが翡翠を握った手を振り上げる。これまでで最も強力な防壁が、公爵の魂をぐるりと取り囲んだ。

「思いっきりやれ、ロアン！　今の私の結界なら持ちこたえられるっ！」

「うおおおおおっ！！」

ロアンが黒い霧めがけて浄化のを放つ。いくつものの筋が深く突き刺さり、渦を巻いていた霧のきが止まった。

「お前はいま、打ち負かされるっ！」

巨大でまぶしいが炸裂する。ロアンが再び浄化を叩き込んだのだ。自らの力の最後の一滴まで、ありったけを総員して、まるで彗星みたいに。

ルーファスの結界は公爵の魂のために耐え抜き、どろりと溶けて流れ落ちる黒い霧からミネルバたちを守り抜いた。

公爵の魂の周りで、最後に殘った黒い霧が細い蛇のようにずるずるといている。ロアンが小さなの玉を投げつけると、次第にが薄まり、そして消えた。

次の瞬間、ロアンがんだ。

「メイザー公爵が目を覚ました！」

中に熱いものが押し寄せてくる。肩の上のベレーナが、ミネルバの頬に頭をこすりつけながら不思議な聲で鳴く。

でてあげようと手をばしたときにはもう遅く、ベレーナは姿を消してしまった。貓特有の気まぐれに、思わず笑みがこぼれる。

ルーファスがベッドの脇の紐をぐいと引っ張った。振が伝わると繋がっているベルが鳴る仕組みだ。すぐに扉が開き、醫療スタッフたちが飛び込んできた。アイアスとおじいさんたちもだ。

そして目に一杯涙を溜めたカサンドラ、強壯剤のグラスを摑んだソフィー、穏やかに笑うジャスティン、喜びに顔を輝かせたマーカスが続く。ミネルバたちが戦っている間に集まっていたらしい。そして最後に、エヴァンが靜かにってくる。

「お父様、よかった……！　ありがとうミネルバ、ありがとうございますルーファス殿下、ロアンさん……っ！」

カサンドラがベッドのわきにくずおれ、安堵のあまり泣き出した。公爵は泣きじゃくる彼を抱き寄せ、優しくその背中をでている。

ルーファスがミネルバの腰に手を回した。

「今夜のヒロインはミネルバだ。君の助けがなければ、ここまでやってこれなかった！」

ルーファスはミネルバのを抱き上げ、くるくると回った。を発させて大喜びする彼は珍しいし、とても可い。

「ルーファスもロアンもヒーローよ。ベレーナを呼び出せたのは、全員の力があったから。ロアンがいなければあの黒い霧を撃退することはできなかったし、ルーファス以外に私たちを守ってくれる人はいなかったのだから」

ブローチに戻ったベレーナがきらきら輝いている。ミネルバはルーファスに抱えあげられたまま、両手でブローチを包み込んだ。

「ベレーナ、ありがとうございます。心から謝します」

ルーファスも「謝します」とつぶやく。

「いつもなら盡き果てるところだが、ベレーナのおかげでダメージがほとんどない」

ルーファスが明るい聲で言った。

「殘っている大仕事は、もはやひとつだけだ。みんなでロバートの顔をぶん毆りに行くぞ！」

再び空中でくるくる回され、ミネルバは弾けるような笑い聲を上げた。